勝者(?)を待つもの
「でも、向こうもよく応じたね」
クレマン・ツィマーとゼネヴォンの交換。
あまり聞かないような合意がなされてから4日後。
私とアネッサは湖畔の道を、騎馬でロージーヌへ向かっている。
冬には貴重な昼の木漏れ日が、ゆっくり進む頭へ降りそそぐ。
「城攻めをしたくなかったんだろう」
「私ならやるけどなぁ。絶対勝てたもん。下手に『相手の提案に屈した』とかなるよりはさ」
私とアンヌ=マリーで握手が交わされたあと。
ツィマーは速やかに解放され、ロージーヌへ逃げ帰った。
それを受けて私たちもゼネヴォンを出たわけだが。
それなりの期間滞在していたし、最初からその予定だった。
荷物がたくさんある。
なので荷造りに時間をもらって、昨日出発したところ。
「城攻めになった場合の、デメリットを考えたんだろう」
「あるの?」
「あるとも」
アネッサの顔が葉の影でまだらに染まる。
「暴力的に出ると、また心理掌握が遅れる」
「あんな目に遭って、まだそんなこと考えてるの」
「そういうヤツだし、嫌でもそうせにゃならんのが統治だ」
「ふーん」
「だからってチンタラ囲んでたら、いつ背後から白十字本隊が来るか分からん」
「あれだけ叩いたのに?」
「高確率で起こることより、万が一の方が気持ち悪いこともある」
「ふーん」
聞いておいて興味なさそうだな。
アネッサには統治論とかどうでもいいジャンルなんだろう。
出世欲なさそうだしな。
私だって妹魔法ができるまでは、今以上を考えなかったし。
メンドくさいし。
「でもさぁ、敵のメリット考えて戦争する?」
「どこを突くべきか知る、一番の方法だぞ?」
「それもそうだけど、自分側のメリットを考えようよ」
「それは話しただろう。あんなヤツでも人材として」
「違う違う。
フューちゃんだけ骨折り損だって言ってるの」
「おいおい」
戦場でいち個人の利益まで追求してられるか。
「こうして包囲から抜け出せたんだ。得したじゃないか」
「最初から余計なことしなきゃ、ピンチにならなかったよ。本隊も活躍しないよう嫌がらせしたんだから、放っときゃよかったのに」
「はっはっはっ」
それはそうかもな。
南方での殿以来、サービス労働がすぎるかもしれん。
「だがな。これはこれで、身を守ったんだよ」
「そうなの?」
「あぁ。ここでツィマーがいなくなってみろ。
下手したら次の総司令に繰り上げられて、
半壊した西方方面軍を背負わされるかもしれんのだぞ?」
「あー」
「アイツが負けたんだ。責任も自分で負ってもらわんとな」
普段から出世したいとは思っているがな。
そんなもん『時と場合』だ。
そもそも中央へ行きたいのであって、辺境でキャリア伸ばしすぎても縛られる。
南方のゼッケンドルフ爺さんを見ろ。
爺さんになっても地方だぞ。
中央帰るころにゃ痴呆になるぞ。
あとは正直、どこまでが『私のミス』になるか、ってのもな。
ゼネヴォンは私が来るまえから陥落していた。
だから自領に残らなくとも私は悪くない。
だが『総司令官捕縛される』の恥辱は私が来たあとだしな。
その場にいなかったが、難癖付けられても困る。
中央からの評価に差し障る。
だが、アネッサはそんなところまで考えない。
コイツはもっと騎士らしく、目の前の戦場に即物的だ。
「でもそれだったらさ。結局マリアンヌが攻めてきたら終わりじゃない?」
「あぁ」
「味方半壊してるんだし」
「いや、大丈夫だろう」
「え?」
アネッサはごもっともで。
我が軍は万全の状態でもゼネヴォンは奪られる野戦でボロカス負ける。
敵が来れば来るだけ負けさらすのだが。
「あれだけ丹精込めて統治した土地が裏切ったんだ。しばらくは念入りに支配を深めるだろう。また背後で爆発したらたまらんからな」
「あー」
「で、そうしてるうちに年末年始だ。しばらくは動くまい」
まさか人智を超える『妹属性魔法』で、理外の洗脳とは思うまい。
アンヌ=マリー。
オマエはよくやったが、
ま、聖女としてランクアップするための試練ってことで。
1週間ほど掛けてロージーヌへ。
街は寒い雪の早朝から動き始めていた。
みんな活発に白い息を吐き散らし、降る雪を迎撃していく。
「賑やかなもんだな」
「救世主さまの生誕祭が近いからね」
「そんなのもあったな」
「不信心だなぁ。このまえ聖女とイチャイチャしてたくせに」
「イチャイチャはしとらん」
「してましたぁー!」
してたとしてメリットないし、
してたことにしてオマエにメリットないだろ。
よく分からんヤツだ。
「まぁいい。世間さまは浮かれポンチだが、私たちは気を引き締めるぞ。
これからあのモミアゲ野郎とご対面だからな」
「あーん」
まったくあの野郎めな。
重要拠点を引き換えに救ってやったんだ。
これでまた面倒な対抗心見せてきたら、ぶん殴るぞ。
いっそ妹魔法で洗脳して、裸で街を徘徊させてやろうか。
いや、さすがにこの季節は死ぬな。
それこそ努力が全部パーになる。
「どこに行っても、嫌な同僚はいるもんだな」
「敵を作りやすいタイプなんじゃない?」
「なんでだ」
「顔が怖い」
「顔かぁ」
「お帰りぃ! 我が愛しのフロイラインたちーっ♡♡♡」
……何これ。
「フューちゃん、魔法掛けた?」
「いや、知らん」
ロージーヌ城に入るまではよかった。
それから城主の間で謁見、報告会
と思いきや
『先に食堂へ行って食事するといい』
ってのも
『気が利くな』
と思った。
で、食堂のテーブルに
デカいチキン
パン
スープ
サラダ
なんか知らん西方の料理
ケーキやフルーツ
装飾の豪奢な燭台と長細い蝋燭
おそらく食べる用ではない大量の花
とにかくいろいろ並べてあるのも、悪い気はしなかった。
戦にゃ負けてるのに戦勝記念かよ、と思った程度だ。
だがこのモミアゲはなんだ?
誰だ?
「おい、そこの君」
「は」
「これホントにツィマー卿か? フルールにニセモンつかまされてないか?」
「間違いなくご本人であらせられます」
「短い監禁生活でおかしくなってしまったか」
1回の、しかも数分しか会ってないから、顔もしっかり覚えてはいない。
でもそれ以上に、こんなヤツではなかったはずだ。
ウザいのはウザかったが、ベクトルが違ったはずだ。
「ささ、まずは乾杯しよう、ワインを受け取ってくれ♡」
「アネッサ、受け取れ。コイツから手渡しされたくない」
「私だって嫌だよう」
「ははっ、辛辣だね子猫ちゃんたち」
うわぁ。
もう死体でも触る方がよっぽどマシだが、コイツは上司だ。
もうアルハラかセクハラかパワハラか分からんが、受け取るしかないだろう。
なるべく離れた位置から手を伸ばして受け取ると、
「ミュラー卿、いや、フロイライン・フューガ」
「げっ!」
向こうから顔寄せてきやがった!
「君が交渉して、私の自由を勝ち取ってくれたのだってね?」
「ははは」
「国家の悲願たるゼネヴォン奪還よりも、私の安全と帰還を優先してくれたとか!」
「耳元で大きい声出さんでいただきたい」
「惚れ、たよ♡」
「オ゛エ゛ーッ!!!!」
「ああっ! 吐いた!」
「飲んでないのに吐いた!」
「泣いちゃった!」
なんだなんだなんだんだんだコイツ!?
この歴戦の勇士たる私が恐怖している!!
「いやぁ……あっち行ってぇ……」
「つれないことを言わずに♡」
「オマエそれ以上私のフューちゃんに近付くな! 私だってまだ泣かせたことないのに!(?)」
「君も一緒にかわいがってあげるとも♡」
「キシャーッ!!!!」
帰りたい。
もう帰りたい。
南方まで帰りたい。
ザウパー、オマエは神だった。
会いたいよ。
でもこの変態が肩に腕を回してくるんだ(泣)。
「さてフロイライン。一次会はここでゆっくり楽しんで、二次会は一緒に出掛けないかい?」
「嫌ですぅ……」
「実はもう、先方に予約してあるんだ」
「気持ち悪いですぅ……許してくださぁい……」
「そう言わないで。
選ばれし高官だけが参加できる、
王城での年末年始の祝賀祭なのだから」
なにっ?
──フルール・ド・ブルエの女 完──
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