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死に番

 こんばんは、皆さん。

 フューガ・ミュラーだ。


 突然だが私は今、夜の森を馬で爆走している。



 なぜかと言われれば、時を少し遡る。











 ババアに


『オマエは「妹属性魔法」に適性がある』


 とか言われたんで、ソイツでもって懲らしめた



 なんていう、目を覆いたくなるような字面の出来事があった晩。


 主に精神的に疲れ切った私が、宿舎のベッドでうつ伏せになっていると


『お休みのところ、失礼します!』


 ドアの向こうから青年の声が。

 果たして出迎えると、立っていたのは緑十字が斜めに入った鎧。

 我が第四騎士団の部下ではないか。


「どうした」



「前線より狼煙(のろし)が!」



「なに?」


 そりゃ尋常でない。


 こんな夜に煙を上げたって視認性が悪い。

 普通はやらん。


 それでもやるってことは、伝令の到着も、



 明日の朝も待てないレベルの緊急事態ということだ。



 我々騎士にとって、そんな事態はただひとつ。




「長靴半島王国による侵攻です!

 すぐにレガロへお戻りください!」











「クソッ!」


 という事情があって、私は今馬の上なのだ。


 あれから第四騎士団を緊急招集。

 酔ってるヤツ寝てるヤツ、

 実家にいたヤツ娼婦とヤッてる最中のヤツ。


 みんな無理矢理連れ戻して

 市長へあいさつしてるあいだに準備させて

 日付が変わらないうちにロカールを出発した。


 それから昼夜(ひるよる)なく走って翌日の夜にレガロ城へ入り、

 軽く寝て、日の出とともに城を進発。


 前線を目指してまたも強行軍、また夜になっている。


「アネッサ!」

「はい!」


 呼べばすぐに左隣へ追い付いてくる。


「状況を再確認したい」

「承知しました!」


 出発してから今まで、何度か早馬(はやうま)とかち合った。

 だから最初の狼煙以降も情報は増えている。


 増えるほどに刻一刻、戦況は変化している。


「まず『長靴軍』は昨夜、レガロ方面より侵攻を開始。国境付近の村がいくつか焼かれます。

 監視塔がこれを確認、狼煙をあげました。

 これが先日の第一報です」

「うむ」


 我らが白十字王国は四方を敵国に囲まれた内陸国だ。

 それだけなら他所もそうだったりするのだが、問題は



 東と北は神聖鉄血(てっけつ)帝国

 西はヴァリア=フルール王国



 といった具合に、それぞれ別の国に囲まれていること。


 そのどれもが列強、我々より豊かで力ある国だ。



 フハハ、地獄だな!



 で、今回攻めてきたのが残る南。

 我ら南方方面軍が相手取る



 長靴半島王国だ。



 強そうには聞こえない、ふざけた名前だと思うかもしれない。

 だが実際そういう国土の形をしているのだし、


 少なくとも白十字王国より強大である事実には変わりない。



 というのはいいとして。

 アネッサの報告は、現状私の記憶と相違ない。


「これを受けて、味方南方方面軍も未明にレガロ城を進発。

 昼過ぎ、ネグロネの平原で会敵します。


 味方、歩兵2,000騎兵1,000、計3,000 対 敵方、歩兵3,000騎兵2,000、計5,000」


「ふむ」


 こちらの兵力、集まりきるのを待たずに即応で当たったか。

 そこの是非は現場にいたものを尊重するとして。


 向こうも総動員という数ではなく。

 さりとて騎兵の割合多し。

 厚めの先遣隊で電撃戦、といったところだな。


「結果は味方の敗走。100名以上を失う大打撃となりました」

「痛いな」

「その後味方は追撃を受けつつ逃れ、アズロレッテで兵を整えます。

 そして翌朝、今日ですね。再度敵勢と激突しました」


 数の不利は補えないので、地の利か。

 しかし、高所を取ったといえどアズロレッテは()()()()な丘だ。


 上から魔法や矢を射掛ける分にはいいだろう。

 だが、兵力差を覆すほどの難所、要塞化できるかと言われれば……


「味方はここでも敗走。特に丘上(おかうえ)を取られ、撤退時には逆落とし。

 朝と合わせて損害は500人に」


 騎士団ひとつ分、全体の6分の1を2日で。

 惨敗だ。

 500人失うのは一瞬でも、500人が育って集めるのはどれだけ手間か。


 だが、散った者たちには悪いが。

 今の私に、そちらを考える余裕はない。


 何せ、


「味方は現在こちらへ向かって敗走中。なおも追撃を受けているようです」



 戦場が、敵が近い。



 そして、逆行するように向かう我々を待ち受けるのは、


「つまり我々の任務は」

「はい。



 味方が立てなおす時間を稼ぐべく、

 敵を待ち構えて足止めすることです」



 5,000の敵兵を、500の第四騎士団のみでな。



 10倍だぞ10倍。

 休暇で前線を離れていた方が貧乏クジとは、どういう運命の綾だ。


「どうします、団長?」

「どうする、か」


 言うまでもなく捨て駒だ。

『どうするか』考えようが、『どうなるか』は結局同じ。


 だからといってベストを尽くさない理由にはならない。


 手も足も出ないどころか、指1本動かせるか怪しい逆境。

『負けていいから成果を』など、競っている相手に必ず勝つより難しい。


「アネッサぁ! 地図!」

「はい!」


 自分も持っているが、出すのが煩わしい。

 その動きをするリソース分すら思考しろ!


「ふむ」


 味方はアズロレッテで敗れた。

 ネグロネからレガロへ帰るまでの、一直線ルートではない。


 だがそこから特段変更の報せがないということは。

 結局戻ってくる先はレガロということだろう。


 でだ。

 私たちは地図中央やや下の森。

 敗走する味方、いや、


 追撃してくる敵は南西から来ることになる、か。


 であれば、


「アネッサ!」

「はい!」


「オマエは先行して味方と合流! ここの三叉路(さんさろ)を、オッツェン方面で来るよう伝えろ!」


「それは遠回りです!」

「分かっている!」


 絶賛敗走中の彼らには酷な話だろう。


 だが、負けたのはキサマらなのだから、その責任はとってもらう。

 何せこっちは休暇中だった500人なのだから。



「そっちからなら、道中に峡谷がある!

 あの隘路(あいろ)なら、敵も大人数を展開はできん!




 そこで長靴軍を迎え討つ!!」




 さぁ、地獄が始まるぞ。

 あるいはその細い道が、


 細いなりに天国へ通じていることを願って。











お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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