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あり得ぬ軍団

「そんな、まさか!」


 ゼネヴォンに白十字の旗が立っている。


 それ()()()()



『ゼネヴォンは白十字王国軍によって奪還された』



 という事実に他ならない。



 正直あり()ない。信じられない。

 白十字の軍勢は、ゼネヴォン攻略で多くを削いだはず。


 今回のブルシモンヌすら、

 まだそれだけ動員する余裕があったか

 そう驚いたほどだというのに。


 まさかまだ、ゼネヴォンを陥落せしめる別働隊があったとでも?


 確かに残してきた兵は1騎士団。

 500程度の兵数ではあるでしょう。


 しかし、


『籠城する敵を落とすには、5倍の兵が必要』


 というのは古今東西の常識。


 しかもそれは最低数の話であって。


 ゼネヴォン城ほどの要害を、しかも数日で陥とす。


 そんな(わざ)は、5,000はあってスタートラインのはず。


 白十字にそれだけの兵力、あるいは強力な魔法使いを()く余裕が?


 あり得ない。



 たとえ我々の後背(こうはい)を突く兵力を捻出したとしましょう。


 しかしそれが、


『今回の決戦で敗北し、方面軍が壊滅するリスクと釣り合う』


 だけは決してない。


 ゼネヴォンだけが残ったところで、何にもならないのだから。



「いったい、何が、あったというのですか」

「それは、ニョーヌからの早馬(はやうま)でして、詳細は」


 となると、道中の支城は無事ということになる。

 また、詳細を見た、脱出できたゼネヴォン守備隊もいない。


 となると、


「湖、あるいは山手から、超大回りで奇襲部隊が?」

「それしか考えられますまい。なかなか正気ではない策ですが」


 ムッシューも首を縦に。

 やはりそう……


「いえ、もしかしたら」

「アンヌ=マリーさま?」


 いや、ない。

 一番あり得ない。


 何より今は、原因解明をしている場合ではない。



「ムッシュ・ガレ! 今すぐ全軍叩き起こしなさい!」



「はっ!」

「ゼネヴォンは国力増強にあたって、決して見逃せない大都市!

 また、我が軍の補給路や帰り道を塞ぐ位置にある!

 頸動脈です!」

「御意!」



「今すぐ奪還する!」











 昼夜なく突き進んで、なんとか4日でゼネヴォンへ。

 昼まえ、城がある都市中心部の郊外までたどり着いた。


「誰ぞ人をやって聞き込みしてください。

 ゼネヴォン攻撃部隊の規模を探ります」

「はっ!」


 これからぶつかるにあたっての情報収集。

 皆そう思っているのだろうけど。


「あまり厄介な数はいてほしくないものですな」

「どうでしょうね、ムッシュー。むしろ……」

「は?」



 実はそれ以上に、ひとつ嫌な予感がある。


 その確認がしたい。



 やがて戻ってきた兵士たちは、10名それぞれ異口同音に



「『特に軍隊が通る姿は見なかった』と」



「なんだと?」


 これには歴戦の猛将たちも喧々諤々。


「そんなわけはあるか! 緘口令(かんこうれい)を敷かれているのだ! 鞭で打ってでも聞き出せ!」

「いや、夜陰(やいん)に乗じて通らば気付かぬやも」

「それが可能ということは、たいした数ではあるまい。力押しせば陥落せしめよう」


 皆、予想外の情報からも真っ当な結論を導き出している。

 さすがと言えるでしょう。


 しかし、私だけは



 あぁ、やはりか……



 嫌な予感が、どんどん手触りを増していく。











「アンヌ=マリーさま! ゼネヴォン城です!」


 ついに目的地へ。

 周囲は大軍はないと見てやや楽勝ムードか。


「城の様子は」

「は?」

「城壁は。城門は。周囲の地面の荒れ具合は」

「はっ!」


 もし、もし一切の



「申し上げます!」

「はい」

「城壁、城門等ほぼ無傷! 多少攻略には手間取るかと!」


 一切の



 攻城戦の形跡がないとしたら。



「そんなまさか!」


「アンヌ=マリーさま!?」


「道を開けなさい!」


 おそらく制止の声はあったのでしょう。

 でも止まらない。

 抑えられない。


 馬で一気に軍の先頭、ゼネヴォン城の真ん前まで出ると、



 城壁に翻る、白地に金の十字の旗。

 それはいい。あらかじめ聞いている。


 問題は



「我こそはヴァリア=フルール王国軍

 アンヌ=マリー・アリア=マリア・マリアンヌ!


 敵なる将は何者か!」



 私が呼ばわれば。

 まず城壁の上に姿を見せるのは、物見の兵士



 ではない。



 鎧を着ていない、見るからに一般の市民。



 まさか、まさか


 やはり



 あり得ない。


 私は重税に喘ぐ民へ麦を与え、平穏を与え、治安を与えた。

 搾取と身分差と騎士の横柄を取り除いた。


 戦う意志を我がフルール、いや、

 自身の欲得のために注ぐことはあっても、


 何も救わなかった白十字ごときに捧げるはずはないのに!




『はっはっはっはっはっ』




「むっ」


 唐突な高笑い。

 混乱している私を嘲笑うような。


 おそらくは今回の首謀者、市民に乗っ取りをさせた煽動者だろう。


 城壁の上、(ふち)に片足を乗り上げて現れたのは


「なっ!?」


 白十字軍の鎧に身を包んだ、




「マドモワゼル・マウアー……」



『ようこそ我が城へ。フロイライン・マリアンヌ』




 なぜ彼女が?


 いや、マウアーさんが騎士であったなら、諸々辻褄は合う。

 熊を退治したり、山賊相手に大立ち回りを演じたり。

 私自身、只者ではあるまいと思っていた。


 しかしまさか、こんな。



 私の甘さだ。

 普通はマークしていて()()()()()だった。


 それを、


『たとえ騎士だとしても、彼女やアンネリースさんのような二人程度』

『せいぜい偵察以上にできることはないだろう』


 と。


 いや、

 いくら甘いと言われようと。


 ともに山賊退治をしたあのとき、



『心が通じ合った』

『悪い人ではない。敵ではない』



 そう信じたかったのだろう、私は。



 だけど、


「マウアーさん!」

『マウアーではない。白十字王国軍騎士


 フューガ・ミュラーだ』


「くっ」


 主は試練をお望みらしい。

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