山賊死すべし慈悲はない
山はすでに見えている距離だ。
根城も温かい中腹。峻険でもない。
到着までに時間は掛からなかった。
こんな山賊ども、いつでも討伐できたと思うが。
苦境の白十字王国軍に、そんな余裕はなかったのか。
あるいはこのまえの敗戦でドロップアウトした新興か。
どのみち戦争の悪影響を思わずにはいられんな。
「なんだ。収穫は1人か?」
『人質を解放してもらいに来ました』
「あぁ?」
「ボスっ! 抑えて!」
出迎えた留守番十数人。
その中央にいるのが頭目らしい。
にしてもコイツら、そこそこの住まいだな。
ロッジハウスが複数に物見櫓。
ただの無宿者かと思いきや、いっぱしの砦だ。
おかげで薮より近い物陰から様子を窺える。
最近コソコソと盗み見してばかりだ。
「なんだ。他のメンツはどうした。死んだのか」
「死んだんだよ! オレら4人残して、この女に殺されたんだ!」
「なんだと?」
ジョークがマジだったときって焦るよな。
ボスもさすがに面食らったらしい。
逆に後ろの部下たちは武器に手を掛けている。
私も斧を握る手に力が入る。
さっきは『こんなのでも持ってきてよかった』とか思ったが。
普段ハルバードを振り回していると、やっぱり薪割り用じゃ心許ない。
「一瞬でとんでもない量の炎が出てきて、みんな黒焦げにされちまったんだ! 魔法ってヤツだ!」
『あの、人質の解放はまだでしょうか。してもらえないんでしょうか』
「ボス! 『人質解放しろ』って言ってる!」
「オレら全員燃やされちまうよぉ!」
「そんなにヤベぇのか」
「見りゃ分かるだろ! 何人で行ったと思ってる!?」
言ってるヤツの顔も、火傷と煤でマーブルだしな。
普通なら信じる。
で、ボスも山賊してるわりには普通の思考回路らしい。
数秒アゴに手をやって考えていたが、
「そうか、分かった」
小さく頷いた。
ただ、
『へっへっへっお嬢さま。男どもは今すぐ解放しますんで』
「待て」
通訳が手揉みするのを止める。
この後に及んでなんだ?
「その女、ゲイル語は分かるのか?」
「いや、勉強中でほぼ分からん、と」
「ほう」
また考え込むボス。
悪い予感がしてきた。
かと思えば早口が展開される。
「いいかオマエらよく聞け人質は一度解放するだが女が迎え入れたタイミングで襲ってブッ殺すんだ炎魔法なら人質に囲まれているときは使えないはずだ巻き込んじまうからな」
「おお!」
言わんこっちゃない!
騎士たちが心配していたことが起きようとしているぞ!
おいアリマリ! 分かっているのか!
ダメだ、分かっているのか分からん顔をしている!
オマエ表情筋少なすぎるんだよ。
聖女なら営業スマイルできてナンボだろ。
『それで、いつまで待てばよろしいでしょうか』
炎の切れ端が漏れ出ているから、キレているのは分かるが。
そのご自慢の炎も使えなくなるかもしれないんだ。
今そこにいるのは、騎士でもないか弱い女だ。
『今すぐ連れてきますんで、少々お待ちを』
作戦を悟られないよう、通訳はいまだヘーコラしている。
そのあいだに他の連中が、それとなく距離を詰める。
「騎士さま」
「静かにしろ」
マズい。
マズいが、バレたらこっちまで殺されかねん。
そもそもだ。
アリマリがここで死ねば、ゼネヴォン奪還はグッと楽になる。
『人質をお連れしましたぁ!』
『……これで全員ですか?』
『へへへ、なにぶん多くは村襲ったときに殺しちまったもんで……』
『健康状態も悪い』
『へへへ』
確かに、人質に取られたのが昨日今日だ。
栄養失調はあるまい。
だが口を効けんくらいには疲弊している。
しかし今はそれどころじゃない!
『分かりました。では』
フラフラ歩く人質たちが、ちょうどアリマリの近くに来たとき
「死ねやッ!!」
ボスが腰の鉈を振りかぶる。
「オマエがなっ!」
「がっ!?」
しまった。
「騎士さま!?」
「な、なんだ!?」
「誰だあの女!?」
「アイツがやったのか!?」
「ボスぅ!」
つい勢いで、
ボスのこめかみに斧を投げ付けてしまった。
即死だな。さすが私
じゃない!
何をしているんだ私は!
自らを危険に晒すようなことをして!
しかも、わざわざ敵の大将を救う行為だ!
下手したら国家への裏切りだぞ!?
でも仕方ない!
仕方ないじゃないか!
アリマリがどうこう以前に、山賊から市民を救うためだ!
こうなったらもう勢いしかない!
とにかく武器を奪って、
あとは皆殺しにする!
と、飛び出したはいいが。
後方で弓矢を持ったヤツが私を狙っている。
マズい。
今は鎧を着ていない。
簡単に致命傷、どこに当たっても重傷になりかねん。
『伏せて!』
だが矢より先に、鋭い女の声が鼓膜へ突き刺さる。
フルール語は分からん。
だが緊急性は分かる。
声の主の周囲、人質たちが伏せるのを真似た直後、
頭上を炎の波が通過する。
夕焼け空が降ってきたみたいだ。
だが実際はメルヘンではない。
「ぐああああ!!」
「あっ、熱いっ!!」
山賊たちの絶叫。
地獄行きどもに先行体験をプレゼントだ。
「助かった! ナイスアシスト!」
そこのオマエ、槍を寄越せ!
手近なヤツをタックルで吹っ飛ばす。
「覚悟しろよド腐れども!」
私だってな、イライラしてるんだよ。
昨日の村の惨状を見て、殺意を持たないヤツはいないぞ。
1人、いや、1、2。
一撃で殺すだけ、私のことは天使と思え。
「なんだこのデカ女!? 異様に強いぞ!」
「カタギじゃねぇな!?」
「この世で一番カタギな職業だよ」
ヤクザよりヤクザしてる商売でもあるがな。
「むっ」
いかん、怒りを込めすぎた。
賊の粗末なお手製だ。
相手の胸骨ごと貫いた拍子、
柄が真っ二つに折れてしまった。
「ちいっ!」
またもピンチか。
今のが人生最後の発言は回避したいぞ。
『こちらを!』
そこに背後から、何かがズイッと差し出される。
「おお」
アリマリが腰に提げていた、フルール軍の剣か。
さすが騎士団の正式採用、頑丈そうな拵えをしている。
「いいのか」
『私は使いません』
アリマリは首を左右へ。
気にするなってか。
なるほど、しっかり重い。
聖女の細腕じゃ持てないだろう。
「今度オーダーメイドしてもらえ」
ハルバードではないが、私も騎士だ。
騎士団長も務めた、南方最強の『女熊』だ。
「昼メシまでには間に合わせようか!」
剣のひと振りもあれば、炎で右往左往の賊など敵ではなく……
「よし、世界が少しキレイになったな」
無事全員、地獄への郵送が完了した。
神さまオマエの着払いだぞ。
こんな連中産み出しやがって。
なんなら山火事の消化の方が面倒だった。
いるなら雨でも降らせろよ使えないな。
というのは、
『ご協力ありがとうございました』
「……フルール語は分からんよ」
聖女さまの前だ。
口には出さないでおく。
「剣、返すよ」
『あなたにも祝福がありますように』
たぶん会話は微妙に成立していないが、かまわんさ。
互いにやるべきことをやった。
言葉はいらない。
と、
『おや、あなたは確か』
山賊に囲まれても平静な顔してたアリマリ、
いや、アンヌ=マリーがようやく驚いた顔をする。
何を言っているかは表情で分かる。
『熊退治でお世話になった、マウアーさん』
ちょっとマズいかも。
『どうしてこのようなところに?』
「あー、えー、あー。知り合いがあの村に住んでてな。心配だったんで見に来てたんだ」
さすがに通じてない顔をしている。
ヤーン早く来い。
だからか、アンヌ=マリーは言葉より私の手を取った。
で、たぶんこう言っている。
『またお礼をしなければいけませんね』
ようやく表情筋が動いたじゃないか。




