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魔女『の』狩り

 背景は廃墟で目立つものもない。

 そこに、村には似つかわしくない騎乗の戦士。

 翻るマント。


 昇る朝日を正面から受ける存在に、山賊たちもすぐに気付いたらしい。



「おいっ! なんかいるぞ!」

「騎士か?」

「でも一人ぽっちだぜ?」

「オマエらよく見ろ! ありゃオンナだぜ!?」

「ウヒョーッ! 上玉じゃねぇか!」

「ありゃ貴種だぜ? 田舎のイモとは顔が違わぁ」

「マジかよ最高じゃねぇか!」

「お貴族サマ孕ましゃあ、オレももう貴族だよな?」

「ガハハ、バーカ!」



 内臓腐ってないと出ないような言葉を、やはり聞こえるように喚いている。

 まだ数十メートル先なんだから、相当なこった。


 威圧がアリマリに効いているかは分からん。

 私たちは外周ギリギリの家の瓦礫の陰だ。

 外にいるアイツのことは背中しか見えない。


 だが、一見震えている様子とかはなさそうだな。


「き、騎士さま、やめましょうよ、帰りましょう」


 むしろ隣のヤーン氏に突き刺さっている。


「騎士と呼ぶな」

「しかし、危険です」

「呼んではいかんが、騎士だからな」

「わわわ、私は帰っても」

「オマエがいなくなったら、誰が通訳するんだ。えぇ?」

「アイツらゲイル語話してるじゃないですか」


 うるさいな。

 逆に帰ってもらった方がいいかもしれん。


 しかしもう間に合わん。


「ヒャッヒャッヒャッ! お嬢ちゃん、迷子かな? こんなところに一人でどうしたのぉ!」

「早くお(うち)帰った方がいいよぉ? このあたりは若い女の子を攫ってイタズラしちゃう、悪〜いおじさんたちが出るんだ」

「お嬢ちゃんみたいなコは、耳の裏から足の指のあいだまでペロペロされちゃうよぉ?」


 山賊どもが目と鼻の先まで来た。

 30人前後で来てるな。

 今逃げ出したら見つかるだろう。


 ヤーン氏も若くはないが老境でもない成人男性。

 悪くすれば射殺される。


 ジタバタせんように押さえ付けていると、


「申し訳ありません。私、ゲイル語、勉強中でして。誰か、フルール語、できますか?」


 アリマリも()()()()()()ながら応える。

 完全に接敵、口火が切られたようだ。


「おい、ジャン=ジャック。オマエ話せたよな?」

『しょうがねぇなぁ。お嬢ちゃん、これで大丈夫かい?』

『はい。ありがとうございます』


 律儀に頭下げちゃって。

 マナーを気にしてやるような相手か。


 でも、下手(したて)に出る、でもないが。

 相手を刺激しないように、ってのはあるかもな。



『では早速なのですが。人質を解放していただけませんか?』



 今から交渉するってんだから。


『は?』

『あなた方が山へ連れ去った、村の男性たちです』

『へへへへアッへアッへアッ!』


 いかにも品のない笑いで一蹴されているがな。


『なーに言ってんだお嬢ちゃん!』

『おかしなことを言いましたか? 至って普通の、むしろこれしかない要求だと思うのですが』

『そうじゃねぇよ』


 男がナイフを抜く。

 切り掛かるとか投げ付けるではない。


 チャカチャカ左右へ持ち替えて、見せびらかして威圧している。

 こんな程度でビビると思っているのか。

 甲冑だろうが騎乗だろうが、相手を騎士と見ていないんだな。


『そんな一切のメリットがない要求を、どうしてオレらが飲むと思うのかな?

 交渉はギブ・アンド・テイクが常識だぜぇ? お嬢ちゅわぁん?』

「イヒヒヒ」

「ヒャッヒャ」


 太鼓もドンドコ叩いて囃し立てる。

『話すことなんてない』ってアピールかもな。

 そもそも今会話しているヤツ以外は、言葉が通じてなさそうだが。


 西でフルール語が話せないってことは、地元追い出された流れ者どもか。

 しかも遥々、こんな果てまで。


 そんな連中に



『命だけは助かるかもしれない』



「……は?」


 圧倒的に見下していた相手から、この騒音の中普通のボリュームで。

 つまりは



『聞こえていようがいまいが、かまわない』

『対話する価値を感じていない』



 なんて態度を返されたら。


『なんだ? 「命だけは助かる」?

 オレぁ学がねぇからよぉ。勘違いか? 分かりやすく言ってくれ。


 誰の命が? お嬢ちゃんのか?』


 相変わらず言葉遣いは()()()()()()()感じだが。


 キレてるな。

 明らかに一段、声が低くなった。


 ヤーン氏はビビり散らして、頭抱えて丸くなっているが、


『あぁ、なるほど。



 あなた方のような外道に成れ果てると、


“自身がまだ主の慈悲の対象である”


 とは信じられなくなるのですね』



「殺すっ!」

「まずはひん剥いて、女に生まれたことを後悔させてやれ!」

「村にも一気に乗り込んで、女ども掻っ払うぞ!」


 糸が切れた。


 山賊どもの数人がアリマリに突撃し、残りはスルーして村へ向かう。


「ひいっ! こっちに来たっ!」


 ヤーン氏がついに大声をあげる。


 こんな斧でも持ってきてよかった。

 かくなるうえは、私も迎撃を



「なっ」



 なんだ?


 何が起きた?



 何が起きている。



 山賊どもが消えて、視界が真っ赤に染め上げられて。



「うぎゃあああ!?」

「なんじゃこりゃぁ!?」

(あち)ぃ、(あち)ぃよぉ!」


 赤の向こうから、山賊どもの絶叫が聞こえてくる。


 そうか、これは



 炎の壁だ。



 私の目の前だけじゃない。

 かつて柵があったところをなぞるように、広範に村を守っている。


 まさか、これをしているのは、

 いや、逆にそれしかないが、


「このアマっ! 矢でハリネズミに、ああぁっ!!」



『土は土に、灰は灰に、塵は塵に。




 外道は外道にふさわしく』




 アリマリのヤツが、この城壁を作り上げたのか。



「後ろにも炎が!」

「わ、悪かった! オレたちが悪かった! 今日のところは引き上げるから、許してくれ!」

『すいません。ゲイル語は』

『謝るから命だけは! 逃がしてくれ!』

「ぎゃああ熱い!」

『村の方たちはもっと熱かった』


 何が起きているかは見えん。

 が、ゴオゴオ炎が酸素を食う音に混じって聞こえる会話。

 おそらく地獄が起きている。


『許してくれっ! 頼む! お慈悲を!』

『悔い改め、主に赦しを請いますか?』

『はいっ!!』


『では何をするべきか、お分かりですね?』






 数分後。

 ようやく炎が消え去ったあとには、


『では、人質のところまで案内してもらいましょうか』


 アリマリと数人の山賊と、炭化した山があるばかりだった。



 神罰の中心にいた女は、山賊残党に案内させて山へ向かう。


「よし、私たちも行くぞ」

「なんでですか! もう解決したじゃないですか!」


 ヤーンよ。解決したならそこまでビビることないだろう。


「私は騎士だ。市民が無事解放されるまで、見届ける義務がある」

「もうフルール国民です」

「じゃあオマエのことも放っておいていいんだぞ」

「殺生な!」

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