まさかの来訪、まさかの展開
月明かりに輝くブロンド。
満月ってほど丸くはないシニヨン2つ。
月にはカニやら読書家やらいると信じてそうな童顔。
だが、鎧を着込み、マントを羽織り、
10人近い騎士を引き連れた、確かに軍の指揮官たる威容。
「あ、え」
『申し遅れました。私、ヴァリア=フルール王国軍のマリアンヌと申します』
『アンヌ=マリーさま!?』
吐息の成分が多い、静かで薄い声。
だが部下には天上の角笛なんだろう。
聞き付けた男が走ってくる。
『あら』
『なぜあなたさまが、このようなところに!?』
『いなくなったと聞いたものですから』
『そういうことではなく!』
ぶつかってきそうな勢いだ。
反射的に道を開けると、男はアリマリなんちゃらの前で両膝をつく。
「どうしたのー? ずっと玄関開けて、寒いよ」
演劇みたいな流れだ。
釣られてアネッサも出てくる。
「あっ! この人!」
「アンネ」
「あ、うん」
「ちょうどいい。通訳してくれ」
『ではどのような?』
アリマリは男の頬をそっと両手で包む。
『“家族がいなくなったら探す”
これを否定できる教えは知りません』
絵面が宗教画だな。
しかも『家族』と来たか。
スクワッド単位ならそうもなろうが、指揮官が一兵卒にか。
普通なら嘘臭い話だが。
『それに、雪中行軍の訓練にもなるでしょう?』
『アンヌ=マリーさま……!』
事実探しに来てるんだしな。
しかもミスをジョークで流され、責められない。
してもらっている本人には、まさに親みたいな温かさだろうさ。
『それで、そちらの方は?』
『熊に追われていたところを匿ってくれた方です。こちらの方は退治までしてくれました』
『それはそれは』
アリマリは私の目を見て、それからガッチリ手を握る。
『大切な私たちの一員を助けてくださり、誠にありがとうございます。
なんとお礼申し上げましょう』
『あ、はぁ。どうも』
だが、より破壊力があるのは
『あら、あなたは確か……
このまえゼネヴォンにいらしたばかりの』
「!」
聖女として培ったスキルか生き方か。
ナチュラルに、パフォーマンスでここまではできないと思わせるほど、
自然と『慈愛』を遂行できることだ。
コイツ人間か?
いや、『聖女』って生き方は半分人間じゃないか。
味方ならともかく、敵からすれば恐怖でしかない。
斥候なんてしゃらくさい。
こんなバケモノ、今ここで切り捨てた方がいいかもしれん。
が、
『アンヌ=マリーさま。そろそろ引きあげましょう』
周りに騎士を引き連れている。
圧倒的人数差だ。
こっちは鎧も着ていないし、剣もベッド下に隠したまま。
やるまえにやられるのがオチだろう。
ここは適当に笑ってやり過ごすのがいい。
「ははは、どうもどうも」
会話(言葉通じないけど)が長引いて
『どうしてこんなところにいるのか』
みたいな方向に行っても不利だ。
さっさと打ち切るにかぎる。
「よかったなオマエ。仲間のところへ帰れるぞ。じゃあな、達者でな。もう崖落ちるなよ」
男の背中をグイグイ押して、押し付けて。
はい用事終了! って運びにしたかったんだが、
『そうだ! いいことを思い付きました』
聖女サマは一人、手をパンッと叩いてテンション上げている。
『お二人のお名前は?』
「アンネ、訳してくれ」
「名前聞かれてる」
「あー、『フリーダ・マウアー』です」
「『アンネリース・ヤーン』です」
あまり尋問されたくはないが、名前くらいならな。
偽名だが。
『マウアーさんにヤーンさん。今はゼネヴォンにいらっしゃるんですよね? お住まいはどちらに?』
「『はい。今は大通りにあるヤーン家に。親戚なんです』」
アネッサが目配せしてくる。
どうやら怪しいラインを突かれているらしい。
まさか、スパイとバレているのか?
いざとなったら駆け出して、熊の死体から斧でも拾うか。
いや、そんな暇があったら一歩でも遠くへ逃げるべきか。
そういえば小屋に繋いでいた馬は無事だろうか。熊に食われてなきゃいいが。
いろいろ頭を巡らせるが、少しまとまりきらない。
どうしたもんか。
『そちらにはいつお戻りに?』
「『あ、あー、2日後くらい、かな? 数日は山小屋でバンガローな感じ?』」
『奇遇ですね。私たちもちょうど同じ日程なのですよ』
アネッサもしどろもどろ。
言葉は分からんが、口調がおかしくなっているのは分かる。
マリアリがアネッサの手を両手で包む。
『では2日後、お宅に迎えの者を遣わせますね』
「『えっ、なな、なんで?』」
いよいよマズいか!
神よ……!
『大切な部下を救ってくださったのです。
お礼がしたい。ぜひ城へいらしてください』
「へっ?」
おいアネッサ。『へっ?』ってなんだ。何があった。
「あー、あー、えー、と」
『必ずですよ?』
「あ、『はい』」
よく分からんが、話がついたらしい。
アリマリは数回上下に大きくアネッサの手を振ると、
『では冷えてきたので帰りましょうか。
お二方! 本当にありがとうございました! また後日!』
「助かったぜ! 今度オレからもお礼させてくれ!」
明るく手を振って、立ち去っていった。
あとに残るのは、話に着いていけてない私と、ボーゼンとしたアネッサ。
「おい、どうなったんだ。バレたのか?」
「バレてはないけど……」
こうして私は、よく知らん間に敵の懐へ呼び付けられることとなった。
偵察としてはありがたいが、急にはちょっと困る。
主に心の準備が。




