では実践してみましょう(血涙)
ババア、おかしくなったか。
いや、元からオカシイんだったか。
「なんだって?」
「『妹属性』」
「なんだって?」
「アンタ若いのに耳が遠いね。戦争でやられたのかい」
確かに爆音や喚声でイカれるヤツは多いが、私は地獄耳だ。
陰口が多いからな!
それはさておき。
「何が『妹属性』だ、バカバカしい」
「でもそれが事実さね」
「嘘をつけ婆さん。
『火属性』『水属性』以下略ときて、『妹属性』だと?
パン、スープ、サラダの並びに『釘』って入るか」
「気持ちは分かるがね。世界は人間の納得より上で決まっとるのさ」
「その世界は決まった法則で動いてるんだ。人間みたいな悪フザケを起こすか。バカも休み休み言え」
「帰ろうよフューちゃん。時間の無駄だよ」
それもそうか。
金払ってたら、ハムみたいに縛って引きずりまわすところだが。
老婆を振り払う。
痛くないよう気を付けはしたが、保証しない。
「私だって、嘘ならもっと騙せそうなのをつくがねぇ」
おう余裕そうだな婆さん。何よりだ。
私はよく力加減を間違えるんでな。
「騙すならそうだが、からかうにはちょうどいいだろ。
『妹属性』な。正直ちょっとウマいこと言ってるよ。その漫談磨けば、街の人とも打ち解けるさ。じゃあな」
わざと怪我させるまえに、今度こそ帰る。
踵を返すと
「待ちな。
そこまで言うなら、証明してみようじゃないか」
「はぁ?」
「もういいよ。つかみでスベった漫才はね、最後まで見てもらえないんだよ」
アネッサが強烈に私の腕を引っ張る。
おいおい肩が抜ける。
去っていく私たちを、老婆は追い掛けない。
ただ座ったまま声を張った。
「実際に使ってみればいい。
『妹属性』魔法を」
ほう。
「ちょっとフューちゃん。行くよ!」
「まぁ待てアネッサ。コイツはおもしろいぞ」
「何が」
「この婆さん、『使ってみろ』と言ったんだ。自分から真偽がハッキリするテーブルに乗ったぞ」
これでできなきゃ、ぐうの音も出ない証拠だ。
何も起きなくかった、
『存在はするが私に才能がなかった』
という場合も、
それは婆さんの見込み違い。
最初に『適性がある』と言い出したのはそっちだ。
鑑定士のプライドも一緒になくすことになる。
「さ、私は構わんぞ。ただ、今まで見たことも聞いたこともない。つまりは発動のさせ方が分からん。教えてくれ」
火の玉飛ばすなら誰でも分かる。
でも『妹属性』はなんだ。
ぶりっ子か?
魔法としてイメージできん。
「魔力を人形にでも固めりゃいいのか?」
挑発気味に顔を寄せると、
「『妹属性』は他とやり方が違うのさ。それが忘れられた理由でもある」
ちっちっちっ、と挑発気味に指を振られる。
「ただ全身の魔力回路を巡らせて、
相手を『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』呼びすればいい」
「バカか?」
「最初からバカでしょ。帰ろ」
もう一度私の手を引くアネッサだが、
「試しにお連れさんに掛けてみな」
ババアが提案した瞬間、ものすごい勢いで振り返る。
「どうしたアネッサ」
「フューちゃん。やっぱり不正、詐欺、虚言の流布は許されないと思うの」
「うん」
「だからここはハッキリさせるために、一度やっておこうか……!」
「痛い痛い痛い目が据わってるって」
手甲の上から痛いのは相当だぞ。握りすぎってレベルじゃない。怖い。
「で、婆さん。『妹属性』魔法とやらを掛けると、相手はどうなるんだ」
「アンタほどの適性があれば、そうさねぇ。数時間はアンタのことを、『溺愛してる妹』レベルで扱うようになるよ」
「なんの得もしないな」
「さぁ! 私を『お姉ちゃん』って呼んでみようよ!!」
「痛い痛い痛い妹イジメ反対」
これもう婆さんよりアネッサを納得させないと終わらんぞ。
「分かった。じゃあ『姉さん』でいいか」
「お 姉 ち ゃ ん!!」
「声がデカいな。じゃあ行くぞ」
「待ちな」
なんだババア。
人が嫌々意を決したところだぞ。
もう1回心の準備が必要になるだろうが。
「今度はなんだ」
「そんな無骨な態度で『お姉ちゃん』って呼ぶ妹がいるかい。
ちゃんと呼び方に合わせた振る舞いをしないとダメだよ」
「あ?」
それってつまり、
「オマエいい加減にしろよ」
「私に言われてもねぇ」
それもう魔法じゃなくて演技力だろ。
私ゃピエロか。
騎士団やめてサーカス団入れってか。
「『姉さん』呼びで発動しないのか」
「古文書には『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』『お兄さま』『お姉さま』くらいしか」
「それ使用者の性格の問題だろ!」
「じゃあフューちゃん! もっとキュルンキュルンな感じで言ってみようか!!」
「勘弁してくれ!」
両肩をつかむな! 逃げられんだろうが!
「ていうかもう測定不可能だろう! コイツ掛けるまえからラリってるぞ!」
「大丈夫さね。その子との魔力量の差なら、なんでも言うこと聞くよ。そっちを試せばいい」
「いつもそうだよ!」
副官として、割とくだらないことでも忠実に尽くしてくれている。
普段は非常に助かってるが、ここではノイズだ。
「早くしないと終わらないよ。このあと観光するんだろ?」
「ババアあとで覚えてろよ!」
ともあれ、前にアネッサ後ろにババア。
このままでは日が暮れる。
やるしかない!
方面軍の連中は見とらん!
腰を少し曲げて、上目遣いで、両手を握って顔の下に添えて!
「お、
お姉ちゃん……♡」
ぎゃあああああぐわあああああぎああああああ!!
なんで私がこんなことをこんなザマでこんな目に!!
殺せええええええ!!
おいアネッサ!
なんとか言ったらどうだ!
「あ、ああ……」
『あ』じゃない!
私はオマエのせいでなぁ!
人生最大級の心の傷を
「ぎゅぅう〜〜〜〜〜っ!♡!♡!」
「ぐわあああああああああああ!!」
「お姉ちゃんですよぉ〜! ぎゅ〜!」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
「ああん♡ そんな仰け反って逃げないの♡」
「オマエのせいで背骨が曲がっとるんだ!」
これもう姉妹とかいうレベルじゃないだろ!
「ギブ! 放せ! 放して! 死ぬ!」
「あっ、ごめんね!? やりすぎちゃったね!?」
「ゲッホゲッホエ゛ッホ!」
たっ、立ってられん!
この私が膝を突くとは!
酸素っ!
「ね? 私の言ったとおりだろう?
アンタを妹のように愛し、『放せ』と言えば放してくれる」
四つん這いになった背後から、ババアのドヤ声が聞こえてくる。
コイツ。
「いや、どうかな」
とりあえず見下ろされてるのはシャクだ。
立ち上がって睨み返す。
「まだ認めないのかい」
「放してくれたのはアネッサが優しいからかもしれん」
「強情だねぇ」
「あぁ、だからダメ押しのために、
アネッサお姉ちゃん、ババアとイチャイチャして」
「「えっ」」
「お姉ちゃんほら早く」
「フュ、フューちゃんが言うなら……」
「ちょっ、何言ってんだい急に!? イチャ!?」
「どのレベルかは知らん。アネッサの基準による。だが、
さっきのを見るに、激しい寄りだろうな?」
「やっ、やめさせ、やめろっ!?」
「私だって嫌だけど、これもフューちゃんが望んだことなの!」
「あ、うわ、
ほああああああああああ!?」
始まった惨劇はあえてレポートしない。
ただ、私は酸欠の脳でこの世の地獄を眺めながら、
「ロクな魔法じゃない」
「ぎええああああ!!」
「フューちゃああん!!」
「……出世しよう」
出世して、前線を離れて。
魔法など縁もゆかりもない世界へ逃げよう。
硬く心に誓った。
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