今までとは違う任務(ヤバさはどっこい)
「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!」
みなさんこんにちは。
魔法と妹と種の多い果物が大嫌いなフューガ・ミュラーだ。
私は今、湖沿いの道を馬に乗って、西南へ向かっている。
美しい花々、昼まえの陽光照り返す静かな水面。
しかしこれも秋のうち。
次第に針葉樹林のみが緑の世界に、凍った足場を作り出すだろう。
なんだって?
旅情モノにジャンルが変わったのかって?
それならば、どれだけ素敵なことでしょう。
実際は
「もう少ししたらリノに着くから、今日はそこでお宿とろう」
「ロージーヌに着くのは?」
「このペースだと、うーん、10日後が目安かな」
ただの移動。
次の任地、次の戦場への。
供は地図と睨めっこしているアネッサ一人。
「今度は苦境にある西方方面軍に力を貸してやってほしい」
「カヒュッ」
「不服か?」
「まままさか。望外予想外の評価を賜り、意識が少し遠いところへ」
「そうかそうか。謙遜することはない」
そう、原因はこのまえのクソ人事。
あれだけの激戦を駆けずり回った私を、なおも酷使しようという話だ。
しかも、
「では、いつごろ出立いたしましょう」
「味方は日毎の試練に苛まれている。すぐにでも行ってもらいたい」
「はぁ!?」
「ん?」
「いえ、なんでも。ですが、配下の騎士団に休息を取らせなければ」
「ミュラー卿、彼らは南方方面軍所属だ」
「国防大臣閣下」
「周辺の出身者が多く、長靴半島語が分かる者も多い。動かすメリットはないだろう」
「御意」
「彼らはこちらで休ませてから南方へ返す。
西には君と副官だけで行ってくれ」
「なっ」
コイツら、褒美はやらんわ休ませんわどころか、
手足までもいで戦場へ送るつもりか!?
現場を知らんしワガママ意のままの国王は仕方ないだろう。
しかし国防大臣!
これが軍出身者の考えることか!?
恥を知れ!
オマエなんか騎士じゃないよーだ!
なんて、心の中で遠吠えしても。
「しかも何が
『ロージーヌまでは遠い。君たちの休暇にもじゅうぶんな期間となるだろう』
だ!
鎧着て延々先を急ぐだけの旅が、いったいどう休めるっていうんだボケナス!」
結局お上の決定が覆るわけはない。
「まぁまぁまぁまぁ。私はフューちゃんとの二人旅、楽しいよ?」
「行き先は地獄かもよ」
この際妹属性魔法でもって、無理矢理撤回させようかとも思った。
しかし宮中、しかも国王の前で魔力回路を動かそうものならな。
暗殺未遂で即刻切り捨てられるだろう。
国民的妹はいても、国家をひっくり返す妹はいないものだ。
アイドルと騎士に人権はない。
全ては世のために溶けて消える。
ロージーヌへ着いたころには、残暑も完全に消え去っていた。
逆に冬の足音の足音を感じる。
移動だけで9月が終わろうとしているのか。
だがそれはいいことだ。
冬になれば戦が終わるからな。
高地の白十字王国。
遠征軍は雪に閉ざされると帰れなくなる。
物理的なハードルとしても、命の有無という意味でも。
山と雪。
これこそ周囲を列強に囲まれ、かつ劣っている我が国が生き残ってきた理由だ。
そう考えれば今回の西方方面派遣、案外楽なミッションかもしれない。
1ヶ月といくらか耐えるだけで逃げ切ることができるのだから。
それこそこのロージーヌみたいな大都市、要塞なら稼げる時間だ。
最初は山中でゲリラでもして足を遅めりゃ、じゅうぶんに
などと思っていたのだが
「ミュラー卿とトゥルネーくんには、間者働きをしてもらおうと思う」
「は?」
任された役割は、全然違うものだった。
デカい城の、無駄に広い謁見の間。
かつて王族がいたのか、ドア入って何十メートルも進んだ先に玉座がある。
そこに腰は掛けずとも、背もたれに手を置き、隣に立つ中年の男
西方方面軍司令官 クレマン・ツィマー。
やたらモミアゲの長い金髪男が告げる。
その自慢げにモミアゲを摘む動きをやめろ。
「トゥルネーくんはこちらの出身、ベルノの騎士学校へ行くまで住んでいたとか」
「は、はい」
「フルール語も話せるらしいね?」
「す、少しですよ?」
謙遜よりは、急に話を振られて困ってるな。
実際アネッサは、いや、
そもそも白十字王国はバイリンガルが多い。
周囲が列強ばかりで、市民レベルでは交易とか人の行き来もあるからな。
隣国と公用語が同じ北と東、あと中央出身者以外は、言語も血も混ざりがち。
ということは、だ。
「しかし、なぜ我々が? 長年西方に所属している者の方が、より言葉や地理、文化に明るいでしょう」
間者ってのは別に、カップルに割り込む間男のことじゃない。
スパイ、あるいは市井に潜入する偵察員だ。
なんなら商人とかに頼む方がいいまである。
が、
「一理ある。しかし、顔が割れているかもしれないのでね」
そんなわけないだろう。
末端の騎士一人一人の顔なんて、味方でも把握してないわ。
慎重とか念入りってレベルじゃない。
「アネッサはともかく、私は北方出身でフルール語は話せませんが」
「しかしトゥルネーくんも一人では心細いだろう。君の副官であるなら、君が面倒を見るべきだ」
無茶だ。
自分で言ってて『ありえない』とは思わないのか?
言葉の分からんヤツなんて、情報は得られんしバレるリスクだけ上がる。
それを理解していないヤツが、方面軍トップになるとは思えん。
ということは、だ。
「了解しました。直ちに準備に入らせていただきます」
「団長!?」
「うむ、よろしく頼むぞ」
「では失礼いたします」
「団長!」
廊下へ出ると、アネッサが手をつかんでくる。
ツィマー卿の前では遠慮したようだ。
「もう団長ではないよ。配下の騎士団がいないからな」
「そういう話してる場合じゃないでしょ!
どうしてあんな無茶な作戦を受けたんですか!」
別に進ませないよう引っ張ってくるわけじゃない。
私もアネッサも、澱みなく廊下を進んでいる。
が、『答えないと手を放さない』という主張は感じる。
「アイツもな、無茶苦茶言ってるのは分かっている」
「だとしたら、分からないよりバカです!」
「要はな、
私たちを編成に加えたくないんだ」
「はぁ!?」
「しーっ」
気持ちは分かる。
必要だと聞かされて来たんだからな。
だが誰が聞いていないともかぎらんぞ。
リアクションはそのリンゴ丸呑みできそうな大口だけにしろ。
「理由はいろいろあるだろう。
『気に食わない』
『手柄を奪られたくない』
『新参に騎士団を宛てがうには、今いる団長を誰か降格しなければならない』
他には何があるかな」
「そんな」
「度胸あるよな。国王陛下、あるいは国防大臣の肝入りを無碍にするんだ」
「言ってる場合ですか!」
むしろいくらでも言ってやりたいぞ?
上が私をツィマー以上、せめて対等の権限に出世させていれば断れたんだからな。
お褒めの言葉だけで便利使いしようとするから歪みが出る。
だがそれをアネッサに当たっても仕方ない。
ここはメリット的なことでも言っておこう。
「あれだけ邪険にされてるんだ。残ってもどのみちロクな扱いは受けんぞ?
だったら私たち二人、自由にしている方がよっぽど安全だ」
「え、えぇ……」
まぁアネッサよ。
納得しようがするまいが関係ないのだ。
こうして私たちのヴァリア=フルール王国占領地域、
ゼネヴォンへの潜入が決まった。
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