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F・ミュラー大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!!

「でもあれでよかったの?」

「どれがだ?」


 林道を抜けると、眩しい日差しが目に刺さる。

 これでも秋めく朝、ここ最近に比べれば柔らかい方だが。


「だからぁ。このまえの『和睦』について」



 このまえの。


 ナルデーニに無理矢理調印させ、長靴半島軍は無事撤退。

 激動の(いくさ)が終結してより、何週間かが経っている。



「何がそんな不満なんだ」

「不満っていうか」


 どうしたアネッサ。馬を見習え。

 コイツら、鎧着た人間に乗られても文句ひとつ言わんぞ。


 どころか平野へ出ただけで、たいそうご機嫌に鼻を鳴らす。


「和睦なんて口約束、すぐに破られるんじゃないの?」

「書類は書いたぞ?」

「そうじゃなくて」


 言いたいことは分かる。


 向こうからすれば、仕切り直せばいくらでも勝てた。

 停戦などヘビイチゴほどの()()()もない。


 また、約束を破ったとて、なんのペナルティもないだろう。

 白十字王国にそれだけのパワーはないし、列強が割り込むとも思えない。


 10人に聞けば10人がそうする、破り得の条約だ。


「まぁ正直私も、そのうち反故にされると思ってるよ」

「えぇ?」


 そんなストレートに蔑む顔するなよ。

 別に両首脳で茶番してきたわけじゃない。


「だったらナルデーニを討ち取るべきだったんじゃ? その方がまだ、勢力を削げるだけマシだよ。

 むしろ生かして返したせいで、将来の禍根(かこん)になったかも」


「心配しなくても、ナルデーニは攻めてこないよ」


「えっ?」


 アネッサも政治の機微には疎いらしい。

 私も明るくないけどな。


「アイツ、勝てる戦を勝てなかった。

 しかも本国の意思にそぐわない和睦を、勝手に締結している。


 ただでさえメンツはボロボロ。



 ここでなお約束をひっくり返そうものなら、今度こそ完全崩壊だ」



「でも個人の名誉なんて、上が考慮しないんじゃ?」

「普通は切り捨てるわな。

 だがするまい」

「どうして?」


 草原の道の先に陰が見えてきた。

 岩や動物といった自然物ではない。

 都市の城壁だ。


「ヤツは半島の内陸海における優位を確立させた英雄だ。

 海洋国家にとってこれは、私たちに勝つより意義深い」

「そうだね」

「そんな王国史上第一等の英雄、国民のテンション爆上げ装置。早々に潰すのは具合が悪い」

「なるほど?」

「なんなら海の覇権は確立したばかり。フルール王国もこのまま黙っちゃいないだろう。

 長靴にはまだまだヤツの力が必要なんだ。拗ねられたら困る」

「そんな子どもみたいな」

「はっはっはっ!」


 でもそんなもんだよ。

 騎士で海の男だからな。


 あとあの国の男は、女にモテることに命懸けてるし。


「つまり、ナルデーニを返すことで。メンツのために侵攻が抑制されるって?」

「少なくとも次来るとき、ヤツ自身は外されるだろう。

 あの名将が参戦してこないのはデカいだろう?」

「それは、まぁ」

「しかもアイツが海に帰れば、フルール王国は力を()かざるを得ない。

 味方の西方方面軍が助かるな」

「そういうもの?」

「そういうものだよ」


 まぁ楽観視も入っているが。


「だがなアネッサ。実はそのへんは、私にとっちゃどうでもいいんだ」

「えっ」


 都市の城壁が近づいてくるにつれて、そのサイズ感がハッキリしてくる。


 レガロよりロカールより、

 南方のどの都市より圧倒的にデカい。


 あれこそが、



 白十字王国の都、ベルノ。



「南方のことなんか、私にはもう関係ないだろうからな」











 ナルデーニを撃退して一週間後に遡る。


 長靴半島王国との国境に不穏な動きはなし。

 事態は鎮静化と見てよくなった。



「というわけでゼッケンドルフ閣下。今度こそ休暇をいただく」

「いかようにもしてくだされぇ」



 殿(しんがり)

 夜襲阻止

 敵陣潜入からの撹乱

 和睦


 我が第四騎士団は味方の窮地を、頭から尻までキッチリ支えた。



 それもわずか500の単独部隊でだ。



 もはや南方には、誰も私たちに頭の上がる者はいない。


 総司令官の執務室。

 デスクに座った爺さんと正面に立つ私。

 普通なら目下の私が呼び出されて立たされているわけだが。


 さっきの爺さんの発言と、こっちへ垂れた頭頂部(今回の戦で髪が薄くなったな)。


 実質私が乗り込んできて、しかも頭が高い。

 そんな構図になっている。


「ではお言葉に甘えて。ロカールでひと月、いや、次の侵攻があるまではたっぷり」


 本当に大変だったんだ。

 いくらでも強欲を発揮してやるからな?


「あぁ、それなのだがな」

「なんでしょう」


 なんだ。英雄サマに楯突くのか。

 私の正当な報酬を邪魔するなら、妹も辞さない。


 くらいで構えていると、



「ロカールではなく、ベルノへ行ってくれ」



「は?」

「中央議会よりお呼びが掛かっている」


 それって。


 それってつまり、



 出世じゃあないか!



 前線から離れて中央へ!

 もう命懸けで戦うこともなければ、魔法のことでバカにもされない!


 私の目標が、望んでいた全てが待つ花の都じゃないかぁ!



 なぁんだ、あっという間だったな!

 チョロいな人生!


 でもま、妥当な活躍はしたし?

 戦闘から外交まで1騎士団のみでワンオペ。

 他にこんなことできる人材いるか?


 いねェよなァ!?


 それが宮中にも届いたのだろう。

 ついに努力は報われ、私は休暇以上に相応しいポスト(報酬)を手に入れるのだ。


「ここからベルノは遠い。長い休暇になりますが、よろしいですか?」

「否も応もない。国王陛下もそれを望まれている」

「ではそのように」



 最高じゃないか〜!



 鎧の重さも感じない。

 思わずスキップで執務室を出ると、


「お」

「あ」


 ちょうど廊下に青マント野郎が立っていた。

 バッチリ目が合った


 瞬間逸らしやがる。


「ザウパーじゃないか。どうした?」

「あっ、いや」

「なんだ? 昼間っから干し肉炙ってほしいのか?」

「いやいやいや、そんな」


 あー、陰湿な嫌がらせにネチネチ返すの楽しいなぁ〜。

 全身の血が逆流してるのかってくらいゾクゾクする。

 我ながら人としての神経疑うけど。


「だったらなんだね。ハッキリしたまえよ。年下の女に()()()()するとか童貞か?」

「オマエそんなキャラだったか?」

「で、なんだ」

「いや? その、昼飯まだだったらご馳走しようか? ってな」


 ほーん?

 ま、今の私は機嫌がいい。

 肩を叩いて、安心させてやろう。


「そう心配するな。宮中に行っても、


『嫌がらせしてくるわりに、戦場じゃ役に立たんヤツばっかりだった』


 なんてのはな」

「うぐっ」



「サロンで言いふらすだけにしておいてやる」



「うわあああ〜〜〜っっっ!!??」



「はっはっはっ! じゃあな! またいつか会おう! 戦死するなよ友よ!」



 たぶんあのときの私は、ここ数年分の快楽物質を浴びていた。

 下手すりゃ濡れてた。











 だから南方がどうなろうが私ゃ知らんよ。

 関わりない。


 約束の地へたどり着いた私には、新たなキャリアが待っているのだから。



 今日がその第一歩。


 ベルノの城門をくぐった私たちは、市民から英雄としてパレードのように迎えられ、



「ようこそいらっしゃいました、ミュラー閣下」

「お出迎え、痛み入ります」


 初めて話すような高級官僚から丁重に扱われ、



「ミュラー卿、(おもて)を上げよ」

「ははっ」

「久しぶりだな」

「騎士団長を拝命し、このマントを(たまわ)った以来でございます。陛下もお変わりなく、ご機嫌麗しゅう」


 もう会う機会などないと思っていた国王陛下に拝謁し、


「貴公の活躍、仔細聞いている。

 その内容、誠に目を見張るものばかり。


 まさに王国にとって望外の(たす)けであり、古今並ぶ者なき英雄である」


「もったいないお言葉です」


 ついに、ついに!


「その貴公を()()()()、よい話がある」


 ん?


 今、



『見込んで』



 と言ったか?


『称して』

『讃えて』

『報いるものとして』


 ではなく?


 おいおいおい待て待て待て。


 その言葉遣いはな、続く言葉は大抵ロクでもないんだ。


 よくあるのが、


『アナタの実力はスゴイって褒めてあげるから、面倒ごとを頼




「今度は苦境にある西方方面軍に力を貸してやってほしい」




 うわあああああああああ











              決戦長靴半島王国 完











お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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