違うのは意味より印象かもしれない
『調印?』
「そう」
『なんのだ? そりゃ降伏ってことか?』
言語は断片的にしか知らんが、降伏にはまだ抵抗があるっぽいな。
「だぁかぁらぁ、そんなんじゃないって」
『そうなのか?』
「もっと対等に行こうよ。私とお兄ちゃんの仲なんだから☆」
出会って数日だがな。
トんだ尻軽じゃないか。
でも家の都合で0日婚するご令嬢より愛はあるさ(適当)。
あんなに殺し合った仲じゃないか♡
『総司令閣下ーっ!』
おっと、新手か?
騒ぎを聞き付けて増援に来た
『おおっ!? これはっ!?』
ってわけではないらしい。
表情から察するに。
『どうした』
『それはこちらがお聞きしたい』
『見てのとおりだ。報告があるなら手短に頼むぞ』
『えぇ……』
伝令か何かに来た男、明らかに困惑している。
妹属性が効いているせいか。
一周まわったナルデーニが、さも普通な態度で受け応えするもんだからな。
だが伝令も、意を決したように首を左右へ。
迷ったり引いたりしていられないほど緊急の要件らしい。
察するに、
『申し上げます!
白十字王国軍による夜襲です!
すでに第一陣が突破されました!』
『なにっ!?』
ザワ付く長靴軍ども。
その上から塗り潰すように、
「おおおおおおっ!!」
『なっ、なんだっ』
『敵勢がこちらへ押し寄せてきています! 閣下! 指示を!』
味方の鬨の声が響き渡る。
『こっ、これはっ!』
「軍隊だからな。私たち第四騎士団だけで行動しとるわけないだろう」
いや、案外そうなってる気がする。
考えないでおこう。
とにかく、今回は確実に本隊も巻き込んだ大仕掛けだ。
我々が派手な火災を起こせば、敵の注意はそちらに削がれる。
自分たちは直接燃えていない連中も、本陣とあらば無視できないからな。
そこに我らが本隊による奇襲。
対応できるまい。
『正面からぶつかり合ったら向こうの方が数は多い』
というのも、本陣までの全部隊を引っくるめたらにすぎない。
火災で動けない兵。
稼働できるが混乱して連携の取れない兵。
各陣を各個撃破する分には、こちらが一丸となっていればまったく問題ない。
『総司令官閣下!』
また伝令だ。
今度は左肩の鎖帷子に矢が刺さっている。
『サンペリ隊より注進! 間もなく突破されます!』
『くそっ』
『前線では各隊力戦してはおりますが、できれば全体としての指示を!』
どう見たってオマエらの大将、今それどころじゃないだろう。
でもそう言わずにはいられないんだろうな。
全員いっぱいいっぱいなんだ。
できることなら、今すぐにだって指揮官を救い出したいところだろう。
だが私が取り返しをつかなくさせる方が早い。
だからやいやい騒ぐしかできないのだ。
で、その指揮官殿も。
『むむ……』
今それどころではない。
うめくしかないのだ。
ここは私がカワイイ妹として、助け舟を出してやらんとなぁ?
誰がカワイイ妹だよ殺すぞ。
「『ねぇお兄ちゃん』」
『なんだ?』
おぉ。
普通なら
『なんだテメェこの忙しいときに。あとにしろボケ』
とか言いたくなるところだが。
そうならないのは妹属性魔法の威力か。
気持ち悪いな。
あといい加減、限られた語彙で話すのはメンドくさすぎる。
リスニングも同様だ。
大部分を表情から察してるんじゃ、事故を引き起こしかねん。
ここは地獄最悪屈辱だが、通訳を挟もう。
何せ、デリケートな話をするのだからな。
「通訳、参上しました」
「よし、始めるぞ」
あぁ、でもそうだ。
今まで妹魔法を使った場合、全員数時間は効果が続いていた。
魔力の少ない部下なんかは、数日引きずったほどだ。
もしかして最初のパンチさえ入れたら、あとは普通に話してもいいのでは?
「オマエ、降伏はしたくないんだったよな?」
『当たりまえだ! 騎士の誇り! 国に残すことになる家族! できるわけねぇだろ! いっそ殺せ!』
「おっと」
通訳されまでもなく分かるガチギレじゃないか。
ダメみたいだ。
コイツの魔力量による耐性か。
はたまた目の前で急に妹を辞めるとショックデカすぎるのか。
どっちかは知らんが。
知らんが……
「団長、すごい顔してますよ?」
「その顔を覚えておけ。それが私の真実の表情だ」
「はぁ」
そうだとも。
決してこのあとの媚び媚びな表情筋の動きは、私の中に存在するものではない!
「ごめんなさい、お兄ちゃん……。そんなに怒らないで」
「うわ」
『あぁ悪かった悪かった。兄ちゃんが悪かった。怒ってないよ。そんな顔しないでくれ』
「えっ?」
「オマエはただ通訳してればいいんだよ。無になれ。私も無になる。無になりたい」
よし、ようやく本題に入れるぞ。
「だからね? さっきも言ったけど、調印しよ?」
『調印かぁ。降伏じゃないんだよな?』
「そう!
和睦の調印!」
つまり『勝ち負けをつけず戦争を手打ちにする』ってことだ。
「そしたらお兄ちゃんも国に帰れるし、私たちも戦争しないで済むの。ね、いいでしょ?」
『それは、そうかもしれないけどなぁ。でもなぁ』
「でもそうしないと、お兄ちゃんたちここで死んじゃうんだよ? 私嫌だよ!」
『あぁ分かった分かった! そんなに興奮するな。悲しまないでくれ』
「本当?」
『本当だとも』
文章にすると隙間はないが、実際は結構間隔が空いている。
通訳がどんどん引いて翻訳遅くなってるからな。
早くしろよ。
私だって早く終わりたいんだよ。
「じゃあ、今から私の司令官と会って、和睦の話つけてくれる?」
『もちろんだとも』
「ゼッケンドルフ卿!」
「おぉ! まさか本当に連れてくるとは」
あれから数十分後、真夜中も真夜中。
両軍首脳は、長靴半島王国軍の第三陣にて邂逅した。
「無茶な作戦だと思っていたが」
「またミュラーがやったのか」
爺さんの隣にはザウパーやシュルツといった騎士団長。
私はナルデーニの隣。
なんか裏切った気分だな。
「貴公が長靴半島王国軍指揮官、キオスキ・ナルデーニか」
『いかにも、私がナルデーニだ。あなたがマルクス・ゼッケンドルフ』
「うむ。お互い間違いないようだな。
それで、何用あって私とここで会見する」
『無論、停戦交渉について』
おら、歴史的瞬間だぞ。泣けよ。
それにしちゃ、陣はグチャグチャ、死体は散乱、火災、机も椅子もなし。
相応しくない、見るに耐えん有りさまだが。
だが人間、命と言葉がありゃ話し合いはできる。
この場じゃ書類もないから一時解散とはなったが、
無事、和睦への合意と明日の正式な調印を約束させた。
約束なんてのは破られるのが、戦争が絶えないこの世界かもしれない。
だが、これで多少は平和になる。
そんな希望を持ってもいいんじゃないのか?
あー素晴らしい! ビバ平和!
平和最高!
最高だから、
『これで大丈夫だ。安心してくれ、妹よ』
「やったぁ! お兄ちゃんありがとう! 大好き!」
世界人類絶滅しねぇかな。




