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その首より欲しいもの

『何言ってんだオマエ!? この「女熊」が!』



「ほう?」


 長靴半島の言葉は分からん。

 だが、いくつかは覚えたワードがある。


『熊』なんかはそのひとつだ。

 戦場で何度も言われるからな。


 以前は好きでも嫌いでもない言葉だったが、最近は割と気に入っている。

『妹』と言われるより()()()()な。


 だが、個人的事情は置いといて。

 そのワードが飛び出したということは、


「『熊』? 『ひどい』! 『ひどいよお兄ちゃん』!」

『ぐ、ぐおおおお! オレはっ、オレはお兄ちゃんなんかじゃないっ……!』


 鍔迫り合いを返してくる力が、衰えつつもなくならない。


 コイツ、



 妹属性魔法が効いていない。



「『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』」

『妹、じゃないっ。妹じゃないんだぁぁ!』

「『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』」

『その妙な裏声をやめろぉ! 気が変になってくる』


 だがまったく効果がない、ということもなさそうだ。


 そういえば夜襲に夜襲で割り込んだとき。

 名声ある英雄に相応しい、強大な風魔法だった。


「なるほどな。魔力量が高いヤツは、多少の耐性を持っているということか」


 これは新しい発見だな。

 また妹属性魔法に対する知見が深まってしまった。

 ものすごく嫌だ。


 その嫌な気分が、私のパワーを下げてしまったかもしれない。


『オラッ!』

「おっと」


 ナルデーニめ、思いっきり体を捻って私の力の方向を逸らす。


 一瞬だが鍔迫り合いが崩れる。

 その隙に回転の勢いで地面を転がり、距離を取る。



『吹き飛べ!』



 ぐんぐん集まる風、この魔力量!

 コイツ、自陣ごと吹っ飛ばすつもりか?



 確かにそんなことされちゃ、()()()()()もないな!


 だが!


「ふっ」

『うおっ、と』


 やはり私の踏み込みの方が一瞬早い。

 コンバットのみで魔法使いを殺してまわった腕、ナメてもらっちゃ困る。


 しかしまた鍔迫り合い。

 今度は魔力が溜まっているから、容赦なく吹き飛ばしてくるだろう。


 だからこそ、


「そらっ」

『うっ、コイツは、



 捕虜を繋ぐ鎖か!!』



 その先に付いた拘束具が、ナルデーニの腕を捉える。


 よく剣闘士モノの劇とかで、奴隷を数珠繋ぎにしてるシーンのアレだ。

 マルティノくんと本陣へ入る際に持っていたものだが。

 まさかコスプレ用の小道具が役に立つとはな。


『くそっ』


 焦りからか。


「おおっ」


 ナルデーニめ、溜めてた魔法をお漏らししやがったな。


 そこそこ強い風が吹き上げて、私の体が宙に浮く。

 幅はともかく、高さじゃ成人男性に負けん体格が、だ。


 つまり、結構な出力があったわけだが、


「そうはいかんさ!」

『ぐあっ』


 今私たちは鎖で繋がっている。


 私が吹っ飛べば、ナルデーニも釣られて飛んでいく。


 踏ん張ることもできない相手を、思い切り引き寄せて


「くらえ!」

『ぐぶっ!』


 柔らかい頬を、硬い甲冑のつま先で蹴り飛ばす。


「ははは! 痛かろう!」


 蹴られた衝撃も束の間、今度は地面に落下。

 私は尻餅だったが、バランスを崩したナルデーニは顔面から叩き付けられる。


 衝撃でヤツの手から剣が離れる。


「残念だったな」

『うう、クソ』


 鎖で引き寄せ、うつ伏せのところへ馬乗りになる。

 次に両腕を後ろ手に持ってきて、正座する要領で膝に挟んで自由を奪う。



「チェック、メイトだ」



 ふむ。

 これいいな。


 私の魔法の特質上、やはり言葉が届かねばならん。

 とすると、距離がどうしても大事になる。

 大声で妹プレイなど、勝っても死ぬからな。


 となると、この


『片手に持った武器で相手を拘束し、逃さない』

『引き寄せる』


 スタイルは非常に有用だろう。

 普段諸手のハルバードだから気付かなかった。


 新たな知見を得たぞ。

 なんだか釈然とせんが。



 そうだ。

 モヤッとする系でいえば、


『くっ、殺せ!』


『殺せ』も『熊』くらいよく聞く言葉だ。

 投降勧告をしたあと、そこそこの頻度で出る。悲しい。


 いつもは騎士の情けで討ち取ってやるのだが、


「まぁそう言うなよ」


 今日はそうもいかん。

 悪いな。



「長靴半島の連中! よぉく見ろ!



 キサマらの大将はこのとおり、生かすも殺すも私次第だ!」



 まず第一に、これ以上の人質はないからな。

 潜入部隊100人が生き延びるためにも、ひとまず利用させてもらう。


 白十字の言葉が通じたとは思わないが。

 大声で注目を集めれば、誰だって状況は分かる。


『あぁ!』

『なんてこった』

『ナルデーニさま!』


 思わず敵兵の動きが止まったところに、


「武器を捨てろ!」

『あっ』


 アネッサが目の前の槍を剣ではたき落とす。


 その光景が心を折ったか。

 他の連中も続々武器を投げ捨て、膝を着く。


「よしよしよし」


 万事順調だ。


『チクショウ、チクショウ』


 ナルデーニがうめいている。

 戦場ってよくないな。

 敵国の汚い言葉ばかり吸収してしまう。


『このままオレを捕虜にするのか?』

「『捕虜』にはせんさ」


 それより大事な要件があるんだよ。


「そんなことより、


『お話しようよ』『お兄ちゃん』」


『ぐうう、オレは、オレは!』


 まだ抵抗するらしい。

 仕方ない。


『なっ、何をする!』

「暴れるな。鎧を脱がしているだけだ。殺しはしないし、卑猥なこともせんよ」


 肩のベルトや脇腹の蝶番(ちょうつがい)を外して、胴の鎧を外す。

 鎖帷子だけになった背中へ、


「だが、多少痛め付けはする」

『がっ!』


 思い切り膝をめり込ませる。


 痛いだろうな。こっちは鎧を纏った膝だし。

 鎖帷子で血は出んだろうが、圧迫痕は残るやも。


 だが、こうして肺から空気を絞り出せば



「『大丈夫』? 『お兄ちゃん』?」

『はぁい……♡』



 決まった。

 決めたくはないんだけど決まった。


 酸素、血流。

 体内の循環が阻害されれば、魔力もうまく巡らない。

 我が妹属性魔法に対し、ノーガードになるって寸法だ。


 暴力系妹ヒロインと呼ぶがいい。

 いや、呼ぶな。


「『お話、聞いてくれる?』」

『話してみな?』


 くそっ、周囲がザワ付いてきやがった。


 私はなるべく痴態がバレないよう小声で囁いているんだぞ。

 それをこのバカデーニが、普通の声量で甘い返事するから!


 私が鎧を脱がしたこともあって、


『何やってんだ、あの二人?』

「なんか謎のプレイ始まったぞ」

『閣下がイケメンだからって、まさか逆レか!?』

「フューちゃあああああん!!!!」


 あらぬ誤解を受けている!


 こうなったら妄想が肥大化するまえに、さっさと話を付けなければ!


「あのね、『降伏』はね、『しなくていい』の」

『え? そうなのか?』

「ただ、ひとつね?



『調印』しよっか」

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