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放火では済まない

「可燃性のあるものを周囲から取り除きました! 本陣までは延焼しません!」

「山火事は!」

「夏の湿気の多い森です。魔法で着火してまわらないことには、そう広がらないでしょう」


「水属性の上手を集めて、鎮火を進めています! すぐにも収まるかと!」


「死者は出ていません! 消火活動の際に火傷を負った者はいますが、いずれも軽傷!」



 くそっ! まだか!


「なんとか収まりそうですね」

「そんなわけあるか!」


 いくら若い従卒とはいえ、今のは大事なことを忘れすぎだ。


「総員! 各所に指示してまわれ!


 火事への対応はもう必要最小限でいい!



 人員を放火の下手人(げしゅにん)探しにまわせ!



 なんとしても侵入者を見つけ出せ!」



 これが済まないことにゃ、何を解決しようが全部無意味だ!


「ナルデーニ閣下!」

「どうした!」


 今度はなんの報告だ。

 正直今は、『被害がどうたら』みたいなのは聞きたくないんだがな。

 どっちみち、騒動が終了してから最終報告にしねぇと二度手間だ。


 と思ったが、



「マルティノ卿が、『放火の犯人を捕縛してきた』と!」



「でかした!」


 どうやらオレが欲しかった報告そのものらしい!


 やってくれるぜマルティノ! 大活躍だ!

 序列を下げて発破掛けたのが効いたな!


「すぐ通せ! ヤツこそはオレたちを救った英雄だ!」

「はっ!」


 正直言って、今回の遠征は失敗だろう。


 兵糧を焼かれたんじゃ、これ以上戦えない。

 補給が来るのもまだ先だ。

 しかも山岳に布陣しているから、一度に多くを運んではこれない。


 もはや撤退するより他にはない。


 だが。



 そこに『英雄譚』が土産になるかで印象は大きく変わる。



 敗北の帰還となる軍の中で、ただ一人でも『凱旋』が可能になれば。

 みんなそっちを讃える方に動く。

 上も『せっかくのムードに水は差せない』と、お叱りの言葉が丸くなる。


 実際に撤退戦を支えるに劣らない、敗戦のまとめ方だ。


 なぁに、負けたらあとがない防衛戦じゃないんだ。

 生きて帰りゃあいくらでも挽回の機会はある。


 そのためにも被害を最小限に留める意味でコイツは……


「ナルデーニさま、マルティノ卿です!」

「おっと」


 意識が打算に行きすぎていた。

 まずはそんなことナシに、アイツをしっかり出迎えてやらねぇと。


「閣下! 放火犯を連れてまいりました!」

「おぉ!」


 先頭にマルティノ。

 その後ろは、捕縛に参加したヤツの部下たちか。

 で、そのさらに後ろに放火犯ども。



「ん?」



「どうしました? 閣下」


 どうしたってオマエ、違和感はないのか?

 何年オレの従卒をやってる。



 数が多いぞ。



 10、20じゃない。

 ざっと100人近い。


 そんなわけがあるか?


 放火犯と部下の内訳は知らねぇ。


 だがあまりに部下が多かったら、普通は全員連れてこない。

 護送に必要な最小限だけ残して、あとは消火作業に当たらせるはずだ。


 じゃあ放火犯が多いのか?

 そんなわけもねぇ。


 だったら捕縛の手柄がマルティノ隊で総取りになるのは難しい。

 他の連中は黙って見てたっていうのか?


 おかしい。

 全部何か整合性を付けようと思えば付けられるかもしれん。

 信じがたい偶然ってのも世の中にはある。


 だが、何か。



 おかしいといえば、あの副官。

 マルティノの隣にいるヤツ。


 はっきり覚えちゃいないが、あんな顔だったか?


 いや、ありゃ女だ。

 少なくともアイツの副官は男だった。


 でも気のせいか?

 見覚えのある顔ではある。


 知ってるってことは、どこかで会ってるってことに


 どこかで、会ってる



 あの夜襲のときの!




「ソイツらが放火犯だ! ひっ捕らえろ!!」




「えっ」


 誰も動かない!?

 なぜだ!?


「何をおっしゃっているのですか? 最初からそうだとマルティノ卿が」


 しまった! 言い方が悪かったか!



「違う! マルティノは内通者だ!


 ヤツの部下のフリしてるのが敵だ!!



 そこの女は『女熊』だぞ!!」



「ええっ!?」


 今度こそ正しく通じた


 が、



「掛かれーっ!!」



 向こうが動くのには間に合わなかった!


「ナルデーニさま!」

「うおっ!」


 従卒がオレを庇って土属性魔法の石弾に打たれる。

 視界の端では旗本たちが、抜剣が間に合わず蹴り倒される。


 クソッ! オレの判断ミスでこんな!


「やってくれたなマルティノぉ!!」


 さらに3人がオレの壁に入った

 と思った瞬間、



 まとめて首から血を噴き出して倒れる。



 その向こう側には、



『判断が遅かったなナルデーニぃ!』



「『女熊』!」


 絶望そのものな顔をした女が立っている。

 いや、本人はいたって楽しそうだがな!


「またオマエか!」

(うるわ)しい御尊顔に、また拝謁できてうれしいよ色男。ウチのお偉い方どもはみんな、辛気臭い顔ばかりしててなぁ』

「一度ならず二度までも、死地に飛び込んで火を撒きやがって! 死神め! バーサーカーめ!」

『なんだ。何を言っとるのか分からんが、君はうれしくないのかね。

 熊に会いたくないのなら、さっさと山を出るべきだったなぁ?』

「何を言ってんのか分かんねぇが、熊が人の言葉をなぁ!」


 風属性魔法で吹き飛ばしてや


「うおぉっ!」

『すまんな。魔法使いの殺し方はよく知っているんだ』


 なんて踏み込みの速さ、距離だ。

 数メートルはあったはずだぞ!


 それを一瞬で詰めてきやがった!


 念のため剣を抜いていなかったら、魔法だけに集中していたら。

 首がなくなってるところだった。


 しかも!


『なんだ? 男のくせに腕力が足りないな? 海の男はたくましいんじゃなかったのか? えぇ?』

「クソォ! 腕力まで熊か!?」


 鍔迫り合いには()()()()()なってるレベル。

 押し倒される!


「うおおおおぉぉ!!」


 足が後ろへザリザリと退がる。


「うおっ!」


 滑った! マズい!

 肩膝立ちは耐えられてる範疇か!?


 斬り合いは無理だ!

 ハルバードが有名だが、剣でもオレじゃ勝負にならねぇ!


 なんとか隙を作って、魔法で安全に対処を……


『「おい」』

「! なんだ!」


 なんだコイツ! 急にこっちの言葉で話し掛けてきたぞ!?

 余裕かましてんのか!

 いったい何を




『「お話しようよ、お兄ちゃん」』




「はぁ!?」

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