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妹のおねだり悪女の囁き

 テントを飛び出すと、



「ここまで温めろとは言ってねぇぞ……」



 話で聞いたような地獄だった。


 夜空が夕焼けに見えるほど立ち昇る炎。

 強烈な焦げ臭い煙。

 右往左往する兵士たち。


「このまえ見たところだぞ! 余計なお代わりを!

 原因はなんだ! 失火か!」

「それがっ」


 いや、違う。

 この一段高い位置から見下ろせば分かる。


 ピンポイントに遠征軍の急所たる食糧庫から出火し


 真っ直ぐ、脇目も振らず本陣まで進み、オレの方へ延びてくる火災。


 不自然、いや、


 人為的だ。



「焼き討ちか!」



「はっ、はいっ!」

「夜襲を許したか! 見張りは何をしていた!」


 従卒に当たったって仕方ねぇ。

 だがここで物静かにしているわけにもいかん。


「敵勢への対応はどうなっている! 消火は!」

「私にはなんとも……」

「話ができるヤツを呼んでこい!」

「はいっ! ただいま!」


 またしても予想外な!

 クソッ、呪われてるのか?

 海の生き物なんてのは、(おか)に上がれば死ぬのみではあるが。


 いや、落ち着け、冷静になれ。

 無闇にマイナスな妄想に囚われるな。


 海の男は最後まで諦めない。

 オマエが今すべきは、的確な判断と指示だ。


 頭を働かせろ……











「『火事だーっ! 火事だーっ!』」


 騒いで、消火活動を促して。


 だが一方で、自分たちでは一切火を消さず、向かわず。

 報せてまわっているフリをして、本陣へ進む一団。

 一応長靴半島王国軍の鎧を着てはいる連中。


 何より、

 そもそも食糧庫に火を着けた(やから)


 そう。もうお気付きと思うが、



 正体は我が配下、白十字王国第四騎士団の面々だ。






 経緯、ここまで散々匂わせてきた、

『我が策』の全容を説明しよう。



 まず最初に、捕虜にしたマルティノくんを解放するとき。

 私はあの悍ましい洗脳魔法をもって、よくよく言い聞かせた。


「いい? お兄ちゃん。あの山の()()()()にはね? お兄ちゃんのお仲間さんが捕まってるの」

「なんだって!? そりゃ大変だ!」

「そうなの! 大変なの! だからね?


 お兄ちゃんのところの偉い人に相談して、


 兵隊さん100人くらいもらって、明日の朝、助けに行ってあげてほしいの」


「100人?」

「誰もいない陣なんだけど、念のため。

 お兄ちゃんが危ない目に遭うといけないから♡」

「分かった♡」


 反吐が出るよな。

 作戦が?

 このクソみたいな三文芝居だよ。



 で、翌日まんまとマルティノくんが現れる。


 このときには魔法も切れていたかもしれない。


 だとしても、効果時間のうちにナルデーニへ作戦具申している。

 今更おかしい気がしてもキャンセルできない。


『女熊』に『お兄ちゃん』と呼ばれてホイホイ頷きました

 やっぱり怪しいです


 なんて、口が裂けても言えまいよ。

 ナルデーニに対する不信もあるしな。



 で、100人の救出部隊が来るわけだが。

 もちろん無人なわけはない。

 私たちが戻っているんだからな。


 だが一旦陣を出て、森の中へ伏せておく。


「まだ仕掛けるなよ。


 アイツらが油断したところを包囲する」


 そしたらもう一瞬だ。


 5倍の兵力に囲まれて、

 しかもマルティノくんは元より士気が低下中。


 抵抗されることなく捕虜とした。



 で、あとは予想どおり。


 念のためマルティノくんを


「お兄ちゃん。私たちを


『お兄ちゃんの部下』


 ってことにして連れてってほしいな♡」

「全然オッケー♡」


もう一度妹属性で蟲惑したあと、


「よし。多少パツパツになっているヤツもいるが、大丈夫だろう」


 捕虜と選抜100名の鎧を交換。


 長靴軍として、まんまと敵陣へ潜り込んだわけだ。


 捕虜はどうしたかって?

 我が生き恥の目撃者だ。

 本来は消しておきたかったが、


 残り400名が拘束して見張っているよ。

 捕虜の扱いはデリケートだ。



 で、


「そろそろ食糧庫の見張りが交代する時間らしい。


 頃合いだ。仕掛けるぞ」


 真夜中に行動開始。






 放火魔となって今にいたる。


「団ちょ」

「よせ。お互いヒラ騎士の格好で、おかしいだろ」

「フューちゃん」

「大将首は目と鼻の先だ。気を引き締めろよ」

「それなんだけど」


 アネッサの表情は、炎に照らし出されてなお暗い。

 というか迷いがあるのか。


「どうした」

「行く必要ないんじゃないか、って」


 坂をひとつ登れば柵があって、その向こうにはナルデーニと旗本の陣がある。


 だが、『何を今更』とも思わないな。


「ここまでは味方のフリで進んでこれたけど。この先はそうはいかないでしょ?」

「そうだな」


 ナルデーニの首を狙うのであれば、最後には切り込み。

『敵』という正体を現さねばならない。


 この敵本陣、2万の長靴半島王国軍のど真ん中で。


「下手したら、ううん、高確率で生きて帰れないよ?」

()()()()なら行けるかもよ?」

「無茶すぎる。大将が一人で()()()()してると思う?」


 ごもっとも。

 だが歩みを止めるわけにはいかない。

 この騒ぎのなか立ち止まってても怪しいしな。


「食糧庫も焼いたんだしさ。もう()()()()()だよ」

「あまり明け透けに言うな。誰が聞いていないともかぎらん」

「でもこれで長靴軍は撤退する! 無理しなくても」

「否だよアネッサ」


 さて、坂の傾斜に足を掛けた。

 ここが運命の分かれ目にして一本道。


「食糧切れで逃げ帰ったとしても、それじゃまたいつか攻めてくる。何も変わらない。


 どころか、相手は我々の手口を学習し、こちらは手札が減っていく。

 ジリ貧で悪化していくだろう」


「それは」



「だからここで決定的な。

 あるいは、少なくとも簡単には立ち直れない打撃を加えねばならない」



 つまりは、戦線維持能力の喪失か、

 残酷ながら替えが効く兵士とは違う、特別な才覚の首か。


「団長、我々は(みな)、分かっております」


 不意に返ってきたのは男の声。

 どうやら話しているうちに、部下たちも追い付いてきたらしい。


 みんな、明日の国家の(いしずえ)となる、決意に満ちた瞳をしている。


「ありがとう」


 と同時に、


 すまんな。


 だって、



 功を焦る大部分は、私の出世のためもあるからな。



 さっさと宮殿にでも入って、戦争とも魔法とも妹属性とも縁がない人生を送るんだ。


 そのためには、食糧庫焼いて撤退させたではまだ足りない。


「いいか。この道の先に、未来が待っている。()えある明るい未来だ」

「「「「「はい!!」」」」」




「確実に成し遂げるぞ!」

「「「「「オオーッ!!」」」」」




 いい士気だ。


 だが怪しまれるから大声は出すな。

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