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海の悩み陸の悩み

 その日は両軍動くことはなかった。


 向こうは奇襲失敗で作戦練り直し。

 こっちはこっちで奇襲失敗、仕掛けても無駄。


 いや、アイツもコイツも奇襲しか狙ってねぇな。

 普通にやれ。

 普通にやったらこっちが負けるけど。






 で、私は何をしていたのかというと。

 当然休暇ではない。


 まず第四騎士団は私と別れた。

 今頃アネッサの指揮でハイキングしているだろう。


 行き先は前回布陣していた高台。

 やはりあそこは敵に取られたくない。



 何より、私の計画に欠かせない。



 で、その計画した本人は何をしとるかというと


 本隊に赴いて生存報告。

 からの作戦会議。


 しかし、


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 偉そうな顔、実際偉いのは偉い男どもが揃ってのコレ。

 なんにも言えず、水ばっか飲んでる。

 チラチラチラチラ視線送り合って、好きな子の前か。


「あー」


 お、ゼッケンドルフ卿。

 さすが我らの指揮官、何かあるのか?


「……ゔっゔん」


 咳払いに逃げやがった。


 でもまぁそうなるよな。

 乾坤一擲の策が不発に終わったんだから。


 アイデアが浮かぶ数、というよりは条件の問題。

 結局数で劣るこっちが相手を撃退したけりゃ、奇襲か籠城戦になる。


 だが奇襲は警戒されてると返り討ちに遭うもの。

『選択肢に持っている』とバレた時点で難しい。


『まさか連続猫騙しはないだろう』

 と相手が踏んでいる


 に賭けるのはさすがに無謀すぎる。


 そりゃ黙ってしまうだろうさ。


「はぁ」


「「「「「!!」」」」」


 うわ、ため息しただけでこの視線よ。

 そんな期待した視線向けるな。


 でもこの状況、なんであれ『沈黙を破る』者には責任が生じる。


 年下の娘に(私より年下もいるけど)、ガン首揃えて()()()目しやがって。


 仕方ないな。


「よろしいでしょうか」

「ミュラーか。発言を許可する」



「私にひとつ、すでに進行中の策がありまして」



「何ぃっ!?」



 お姉さんがなんとかしてやろう。


 妹するより100倍マシだからな。











 翌日。

 早朝のハイキングは気持ちがいい。


 戦場でなけりゃ、最近登った山でも楽しいものなんだが。


「団長!」

「おうアネッサ。変わりないか」

「はい」


 あいさつや陣の視察はあとでいい。

 まずは一番奥のテントだ。


 そこは私の

 ではなく


「よう。無事そうで何より。気分はどうだ」

『夜中死ぬほど寒かったよ』

「『そこそこ』と言っています」

「そうかそうか」


 通訳と


 地べたに座らされた、夜襲のときの捕虜。

 地面に突き刺した丸太を背中側、後ろ手で抱き込むように縛られている。


 マルティノくん?

 彼ではないよ。

 彼は今朝お帰りいただいた。


 なんでって?

 いずれ分かるさ。近いうち。


 それよりこのオッサンだ。


 尋問を終えてすぐ出撃したから、拘束だけして放置されていた。

 明らかに『そこそこ』とは思ってない顔してる。

 恨み節をカットされたな。


 まぁ安心しろよ。もうじき長靴半島のお仲間が迎えに来る。

 人質にしたりもせんさ。


『おい!』


 お、顔色が変わったな。

 どうやら私は、そんなに悪そうな顔をしていたらしい。


『何を企んでいる!』

「なんと言ったかは分からんが、そんな顔するなよ。戦場で騙し合いなんて、海に魚がいるようなもんだ」


 なんて、吠えられているのも束の間。


「団長! 敵勢が現れました!」

「よし! 全員配置に着け!」


 ついに作戦が動き始めた。

 あのマルティノとかいった男、約束どおり来たようだ。


「あぁ、そうだ。罠だとバラされたらたまらんからな」

『なっ、なんだ!? 何をする!?』

「安心しろ。殺しゃせん。従順なうちは、って約束だからな。ただ、


 ひと芝居付き合ってほしいだけなの、お兄ちゃん♡」






 さぁて、私もぼちぼち身を隠すか。


 これがうまく決まれば、勝利がグッと引き寄せられる。

 いや、



 確定まである。











「ナルデーニさま。生姜湯をお持ちしました」

「ありがとう」


 (おか)の戦いのいいところは、余裕があるところだ。

 海は一度出航したらば全てが有限。


 補給や現地調達が難しいこと、船の大きさと数。

 量も種類も制限が多い。

 

 少なくとも、水が腐ったとき用の酒はあっても


「お、この香り」

「ハチミツを加えてあります」

「素晴らしい」


 嗜好品じみた水の飲み方はなかった。

 海軍時代からの若い従卒も、レシピが増えて楽しそうだ。


「地図と睨めっこ、ですか」

「あぁ、新しい作戦を立てねぇとな」


 机にカップを置く。

 生姜湯の液面がすぐに動かなくなる。

 これもそうだ。


 海じゃ、今座ってる椅子が、地面が。

 いつ波で()()()()()()か分からない。

 艦長室も、このテントのように広くはない。


 そんな、過酷な海を制してきたというのに。


「ままならねぇモンだな」


 陸の戦も、なかなか思ったように進まない。


「地の利、地の利、地の利、か」


 狭くて兵が展開できないとか、

 急に斜面を下って現れるとか。


 潮と風の流れを支配すれば勝てる海より、複雑化している。


「しかし、数で言えば圧倒的にこちらが有利です。

 奇を(てら)わず、王者の戦いを敷けば自ずと(まさ)るでしょう。

 そう無理に策を絞り出そうとなさらずとも」

「ふむ」


 確かに。

 オレはあのヴァリア=フルール王国との争いを制したんだ。


 より小国な白十字に、負ける道理があるはずない。


「そうだよな。遠征軍とはいえ、ここは陸だ。時間を掛けて戦うモンだよな」

「御意」


 わずか500の殿(しんがり)に追い返され、

 奇襲に奇襲を合わせられ。


 思わぬ失点が重なって、冷静さを欠いていたかもしれない。


「脳をアップデートしねぇとな。

 白十字を破ったら、フルールや鉄血と国境を接する。

 いつかは『聖女』や『鉄鹿』みたいなバケモンと当たるんだ」


 と、ちょうど



「総司令閣下! マルティノ閣下が帰投いたしました!」



 頭を切り替えるのにいい話題が。


「おお、こっちへ通してくれ」

「はっ!」






「閣下! サンドロ・マルティノ、帰還いたしました!」

「ご苦労」


 晴れがましい顔してら。

 どうやら、



「マリオ・ボスキ隊長も無事、救出いたしました!」



 首尾よく行ったらしい。


「私のためにわざわざ手間を割いていただき、なんと申し上げたらよいか」

「気にするな。マルティノ卿に感謝を」

「ははっ」


 あの夜襲のとき、先んじて高台の目眩しに兵をやった。

 そのとき行方が分からなくなっていた男だ。


 死んだと思っていたが、捕虜になっていたらしい。


 これまた行方不明だったマルティノが、(はぐ)れ敵兵から聞き出した。


「マルティノ卿。重ねて言うが大手柄だ。味方を1人救うことは、10の敵を討つに(まさ)る」

「もったいないお言葉です」

「このことは論功行賞においても、深く考慮されるだろう」

「ははっ!」


 このまえ先鋒隊の総指揮を剥奪したところだしな。

 やりすぎかとも思ったが、腐らずよくぞ燃えてくれた。

 停滞している我が軍も、今一度ピリッと締まるだろう。


「君も帰ってきてすぐ出発したし、ボスキ隊長も捕虜として囚われていた。体力の消耗が激しいだろう。ゆっくり休んでくれ」

「「ははっ!」」


 気持ちを切り替えたところに、いい成果。


 よし、少しずつ流れが来ている。











 高地の夜は寒い。

 温暖な内陸海に慣れたオレには特別厳しい。


 で、テントってのがまた、思った以上に『室内』じゃない。


 もらった白湯は、また地図を睨んでるうちに冷めてしまった。


「あー、チクショウ」


 いっそ、外で焚き火に当たった方が(ぬく)いかもしれねぇ。


「でも、高地の星空は寒いんだよな」


 見えてる星も一緒なのにな。

 海にいたころは道標(みちしるべ)になって、母なる宇宙だった。


 でも高地では近くて、デカくて、黒くて。

 薄ら寒い恐怖を感じる。


「ま、それは見なきゃ済むことか」


 風邪引く方が問題だ。

 椅子から腰を上げたその瞬間、



「ナルデーニさま!」



 従卒が暑そうに、息を切らして駆け込んできた。


「どうした!」


 礼儀正しいコイツが、『失礼します』もなし。

 高地の夜空より、よっぽど嫌な予感が……



「我が陣のあちこちで、火の手が上がっております!」



「なんだとっ!?」

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