思わぬ拾い物
相手はどうやら一人。
あるいは後続がいるかもしれん。
どっちにしろ、
「ハイヤッ!」
『おおぁっ!?』
制圧するにかぎる。
一人なら脅威は消滅、仲間がいても人質だ。
『めっ、「女熊」!?』
逃げようったって、そうはいかない。
馬に乗ろうとするタイミング。
あぶみに足を乗せて体を浮かせ、バランスが悪い。
顔面スレスレ目掛けてハルバードを投げてやれば、
「おわあっ!」
容易くバランスを崩して、尻餅突いてしまうって寸法だ。
あとは起き上がるより先に近付いて、
「おりゃあ!」
『グエッ!』
馬上から、馬の加速も乗った飛び蹴りで倒す黄金コンボ。
馬から人間に馬乗り、相手の腰の剣を奪って抜けば
「『抵抗するな』。熊より酷い目に遭わせるぞ」
勝負ありだ。
「こっ、降参!」
「おっ。言葉が分かるのか」
ソイツはありがたい。
どのみち陣には連れて行くが、通訳の手間が省ける。
見てくれは同世代、少し上かぐらいか。
「よし、降伏するなら質問にも答えるな?」
「それは」
「答えたくなければそれでもかまわん。オマエは抵抗を放棄したに過ぎないからな。義務はない」
「……が、気に障れば、生殺与奪は」
「そういうことだ」
言語以外でも話が早くて助かる。
「立て」
とりあえず背中に刃を突き付け移動する。
ずっとここにいて、敵が来ないともかぎらんしな。
でも先にハルバードは拾っていこう。
「まずキサマの官姓名を教えろ」
「サンドロ・マルティノ。第五騎士団団長を務めている」
「ほー!」
これはこれは!
確かによく見たら、首周りには上等の赤い戦袍が巻き付いている。
焼け焦げてボロボロだが。
お、ハルバードが木に刺さっている。
無事に回収できたことだし、こっちを突き付けるか。
長柄の間合いなら急に反撃してきても届かない。
「その第五騎士団長ともあろう人物が、どうしてこんなところに1人」
「オマエたちの仕業だろうが!」
そう怒鳴るなよ。
でもそれはそうだろうな。
明らかに焼け出された格好だし。
鎧もあちこち煤だらけ。
さっきまでの私に近しい。
「オマエたちが無作為に火を着けるから! おかげで火に巻かれ逃げ惑い、味方とはぐれてこのザマだ!
自国の山を燃やすとか正気か!?」
「文句があるなら正気で勝てる戦を起こせ」
「まぁ、うん」
とりあえず私は馬に乗って。
そうだな、コイツの馬も連れていこう。
置き去りはかわいそうだし、我々も昨日の戦闘で不足している。
逃げたら困るし、乗せてはやらんが。
さて、あとは何を聞こうか。
相手の策はこのまえ別のおっさんから搾った。
もちろんあとで聞きはするが、おそらく新規の情報はあるまい。
別に私も観光ガイドじゃない。
話すことがなければ無言でもいいのだが、
「せっかく、先鋒隊指揮官の栄誉に与れたのに」
勝手にしゃべってくれるらしい。
それなら私も退屈せずに済むよ。
「指揮官がそんな、焼かれる位置にいたのかね」
最後尾か最前線か知らんが、極端な位置にいたもんだ。
そんな中心までよく焼きになる火力だったとは思わないが。
「指揮官を外され、最後尾に下げられていたんだ! オマエらのせいで!」
「ほう」
どうやら事情があるらしい。
しかも思うだけでイラッとするような、屈辱的な。
ずっと背中しか見えんが、気配が物語っている。
「そりゃ最初は
『ゲイル語が話せるから』
で選ばれただけなのは理解している!」
ペラペラだもんな。
言葉が通じれば、尋問から占領地域の慰撫までスムーズだ。
まさに今のように。
妥当な人事と言えよう。
「でもアズロレッテで快勝して、認められるところだったんだ!」
「アレもオマエか。やるじゃない」
「なもんか!」
急に振り返るな。
槍刺さるぞ。
「その直後、オッツェンで退却した!」
「あー」
「オマエだ『女熊』!
圧倒的有利な追撃戦だというのに! オレはわずか500の敵を抜けず、撤退することになった!
勝ち取った評価は一瞬でパーだ!」
そりゃご愁傷さまだ。悪いことをしたな。
プイッて前向いちゃった。
でもそれが騎士って商売だから仕方ない。
「結果、ナルデーニ閣下が動くことになった。
で、その閣下に先鋒隊の番手を下げられた!
おかげで最後尾にいたから、今度は燃やされる羽目になったんだ!」
「武運のないヤツだな。教会行け」
「お祓いしろってか」
「成仏できる」
「まだ討ち死にしてないわ!」
どうやら知らん間に因縁浅からぬ仲となっていたらしい。
「お互い雑な配置されて苦労するよな」
「ぅむ……」
なんだ、同情しただけで急に引くじゃないか。
『戦争だから仕方ない』ってのはどこかで理解してるんだろうな。
あと、
「でもオッツェンだって、敗れたわけじゃない! 被害と見合わないから、損するまえに退いただけだ!
確かに、勝って当然の戦いを勝ちきれなかった部分はある!
でも、それで先鋒隊の指揮を一発解任なんて!
アズロレッテでの戦果はなかったみたいに!
クソッ!」
真に不満があるのは、私ではなくナルデーニからの扱いらしい。
気持ちは分かる。
まぁそのアズロレッテも数で言えば勝って当然。
そもそも加点にならない。
だからコイツは負けただけ。
そう言いたいナルデーニの気持ちも分かる。
海軍は海という死地にて、狭い軍艦で一蓮托生。
一人一人が全員の命を背負う。
ヤツも当然、厳しい部分があるだろう。
双方仕方ないといえば仕方ないのだが。
「上司がアレだと苦労するよな」
「分かってくれるか」
「分かるぞ。似たような目にも遭わされてるしな。
何より、オマエのがんばりを身をもって知っているのが私だ」
「そうか、そうか」
「我がことではないが、なんだか切なくなるよ」
心なしか後ろ姿が丸くなったな。
ガスが抜けて縮んだみたいな。
やっぱりコイツ、上司が厳しくて優しさに飢えてんだ。
「こんなこと言ってはいかんが。いかに騎士とはいえ、上司に腹を据えかねる、ってこたあるよな」
「そうだそうだ。先鋒隊も名誉だとは思っているがな。要は『オマエの代わりに命張ってるんだぞ』と」
「リスペクトが足りんよ」
「うむ! 後方で偉そうに、椅子に座って『死んでこい』とばかり」
おぉ、出るわ出るわ。
私も逆の立場なら『ザウパー死ね』とか言うだろうしな。
コイツがどこまで本気でナルデーニに腹を立てているかは知らんが、
いや、私のまえにはそんなもの関係ない。
もうすぐ味方と合流する。
見られるまえに、毒牙一発決めておくか。
「私は君の気持ちが分かるよ」
「おっ」
戦場は優しさ以外にも、女にも飢えがちだ。
『女熊』なんて言われる私でも、この流れで近寄ってやれば。耳元で囁けば。
割と男のメンタルは揺れる。
「だから私なら、君をそんな粗末な扱いはしない」
「な、なんだ、オレを籠絡するつもりか!?」
「そんなんじゃないよ。ただ、
そんな私から、いい提案があるの。
お兄ちゃん♡」




