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大奇襲戦

「アネッサぁ!!」



 呼んだのは一人の名だが、テントというテントから人が顔を出している。


 私としても、思ったより大きい声が出たよ。

 テントを出るなりだったから、動きの勢いが乗ったんだな。


「お呼びですか!」


 飛び出してきた姿は鎖帷子(くさりかたびら)

 帰陣したが疲れ切ってしばらく動けず、今プレートアーマーを脱いだってところか。

 ようやく一息ついたところで申し訳ないが、



「今すぐ出陣する!」



「えっ!?」


 そんなこと言っている場合ではない。


「騎士団全員、準備をさせろ!」


 アネッサに指示を出しているが、みんな顔出してたしな。

 聞こえているだろう。


 でも、言われるがまま準備に引っ込んだヤツ。

 ポカンとした顔が出たままのヤツ。

 半分半分ってとこか。


「守備隊は」

「残さん! そんな余裕はない!」

「はっ、はい!」


 ついさっきまで戦闘だったのがうまく作用したか。

 またすぐに準備が整ったメンツが集まってくる。


「よし。オマエたちはテントを周って、寝ているヤツがいたら起こせ」

「はっ」

「アネッサも鎧を着てこい」

「はい!」


 さて、考えろ、考えろ。

 どうするべきか。

 出撃するとして、どう動くべきか。



 数分考えていると、アネッサが戻ってくる。


「団長。そろそろ何があったのか教えていただけないでしょうか」

「そうか、話してなかったな。すまん」


 私としたことが、焦って報連相を忘れていた。


「敵を尋問して分かったことなのだがな。



 このままでは本隊が奇襲を受ける」



「ええっ!?」


 そりゃそうなるよな。

 奇襲するつもりだったのは我々だ。


 奇襲しなければならないような、博打に出なければならない弱者側の。


 何より、さっきこっちで戦闘があったんだ。

 で、本隊にはいまだボヤ騒ぎのひとつもない。


 思ってもみない話ばかりだよな。


「団長、馬を」

「ありがとう。君、この書簡を本隊へ届けてくれ。大至急だ。存亡に関わる」

「はっ、はいっ!」


 よし、するべき対応は着々とこなせている。

 冷静に対処すれば、活路はあるはずだ。


「それは、具体的にどういう」

「あぁ、すまん」


 とりあえず馬に乗る。

 指揮官の準備ができていると、みんな待たせまいと急ぐものだ。


「昼間、連中が予想どおりの位置に布陣しただろう」

「はい」


 アネッサの馬も来たか。

 目線が同じ高さになって、会話しやすくなるな。



「だがアレはブラフだ」



「えっ」


 私も驚いたよ。


「海戦で名を挙げたくせにな。

 なかなかどうして、陸戦でしか使わん奇策を知ってるじゃないか。



 本陣に目立つ篝火だけ残しておいて、

 本隊は夜陰に紛れて出撃している」



 遠く東の国では、


『藁人形に鎧を着せて、遠目に軍勢を水増しして見せる』


 という奇策があるとか。


 それと同じような虚陣戦法だ。


 人はいなけりゃ船が動かん海上戦では、使うべくもない。

 どこで知ったんだあのヤロウ。


 しかも、念には念を入れてくる。


「こちらに敵勢が来たのも、いい位置を取りたい思惑が重なっただけじゃない。



 万が一にも本陣の動きが見える位置に我々がいた場合、注意を逸らすためだ」



 アネッサもいよいよ青ざめたな。


 そうとも。

 我々は怪物を相手にしているんだ。


 広い内陸海の覇権をとった男だ。

 狭い白十字王国など、ボードゲームのごとき児戯らしい。


「では」

「そうだ。



 我々はいち早く敵奇襲部隊を見つけ出し、これを叩かねばならない」






 果たして敵がどのルートで来るのか。

 捕虜のアイツは知らなかった。


 暗闇の山中、探してまわるわけにもいかない。

 となると、ピンポイントに読んで抑える必要があるわけだが、



「来たぞ」



 私たちは今、陣から山の中腹まで下がったところ。

 木の陰、茂みの中で息を殺している。


「本当にこっちへ来るなんて」


 アネッサから金属音がする。

 緊張で震えて、鎧が擦れたんだろう。






 アネッサは昼間味方が仕掛けたルートから来ると予想した。

 私も最初はそう考えた。


 土地に不慣れな相手が、視界不良の中初見の山道を進みたくはないだろう。

 ならばすでに一度、交戦までしているルートが通りやすい。


 何より迂回するより速い。最短ルートで仕掛けられる。

 奇襲は気付かれないから奇襲だ。

 移動に時間が掛かればその分、失敗の可能性が増え続ける。



 だが、相手の気になって考えたとき、それは違う。



 正面から行くのはさすがに丸見えだしな。

 警戒すれど、夜襲が来るとまで構えていなかった我々が対応できた。

 本陣なら()()()()だろう。


 パッと来て魔法や矢を撃ち散らかしてすぐ帰るならともかく。

 じっくり叩きたいなら、もうひと工夫がいる。



 と考えれば、迂回路をとってくるはず。


 本陣もおそらくアネッサと同じように、正面から来ると思い込んでいる。



 予想外の横っ(つら)から殴られたら、やすやすアゴに入るだろう。



 つまり西回りか東回りかの問題だ。






 ここで重要になるのが、


「わざわざ我々の目潰しに、部隊を寄越したわけだからな」


 この事実。

 もし我々とは逆方向から部隊が回り込むのであれば。


 この手は必要なかった。


 夜の闇と山陰に隠れて進めるからだ。


「『ここに目撃者がいる可能性は絶対排除したい』ってことは、


 当然私たちの膝下を通る」


 ちょうど敵部隊の戦闘が、私たちの正面まで。


「まだ仕掛けるな。指揮官がいるだろう中団が来てからだ」


 細い山道のおかげで隊列も伸びている。


「弱い脇腹を食い破るぞ」


 推理モノの演劇と一緒だ。

 犯人はバレないようにトリックを(ろう)するが、


 看破された瞬間、急所となる。



 敵勢が目の前を通り過ぎていく。

 まだこちらの存在はバレていない。


 が、バレたら終わりだ。

 今見ただけでも500では効かない数がいる。

 袋叩きになってしまう。


 お互いコソコソしてるってのは、具合がよくないもんだな。

 心臓に来る。

 やっぱり開けた場所でドカッとやるのが一番だ。






 なんてことを考えて、何分やり過ごしたろう。

 長く感じたが、1時間とかはないはず。


 で、そのときがやってくる。


「おい、来たぞ」


 先行する歩兵隊に続いて、シームレスに現れた集団。


 第四騎士団全員に緊張が走る。


 もちろん私たちは長靴軍ではないから、連中の細かい配置や編成は知らん。



 だがこれは確実だ。


 まず、騎馬のシルエットが明らかに多い。

 旗本と見ていいだろう。


 指揮官は騎乗しているに決まっている。

 追従する彼らも同じ水準の機動力を持っているわけだ。


 で、何より、



 夜風に翻る旗。



 これはもう間違いない。

 今までの連中はみんな、旗を掲げていなかった。


 当然だ。

 奇襲は見つからないように進むのが絶対条件。

『我ここにあり』と喧伝する旗指物(はたさしもの)など、頼まれたって出しゃしない。



 だが、その奇襲部隊にあって、唯一旗を掲げる者

 掲げなければならない者がいる。



 それこそ、



 味方からも位置が把握できていなければならない、

 指揮官という存在だ。



「いいか。あの集団を食い破って、中心にいるヤツを仕留める。そうすれば



 敵は頭を失って奇襲は不可能、敗走し、

 私たちの大勝利だ」



 背後で大勢の息を飲む気配。


 いいぞ。今度は恐怖から来る緊張じゃない。



 チャンスに対する功名心、興奮から来る()()()だ。



 素晴らしい。オマエら立派な戦士だ。


 なればこそ。

 私も指揮官として、その気持ちを解き放ってやらねばなるまい。


 行くぞ!



「第四騎士団! 突撃!!」

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