小悪魔的(?)尋問
まさか我々の痴態を、周囲が理解していたとは思いたくないが。
指揮官が虜となったことは伝わっているようだ。
『撤退だーっ!!』
「追撃せよーっ!!」
突如として始まった夜戦は、完全に決着した。
あとはひたすら追い首を獲る、ボーナスタイムと言える時間だったが
「団長!」
「もういい、ここまでだ」
「しかしご自身が」
「夜の山は危ない。勝った戦いに余計な血を流しては、かえって誉れに傷が付く」
さすがに全滅をとるには至らなかった。
ちっ。
私の妹姿を見た可能性があるのだ。
一人残らず消し去ってやりたかったが。
こんな夜中に
『何人の首級をあげた』
とか死体を数える趣味はない。
追撃が終わればさっさと帰るにかぎる。
もちろん明日に備えてさっさと寝る、というのもあるが。
「さて。まずは安心してほしい。我々白十字王国軍は、たとえ敵国の人間であろうと、捕虜であろうと。
神と国王とエーデルワイスの元に、その人権の一切を保証する」
本当、通訳を挟む会話って緊張するよな。
テンポは伸びる。
意図したニュアンスが正しく表現されているかの不安も付きまとう。
帰還した陣の中。
私のテントの中央で、両手両足を縛られた中年が地面に座っている。
祖母に長靴半島の人間を持つ青年騎士が、耳元で翻訳を囁いている。
単純に絵面もよろしくないよな。
いや、戦場のテントで乙女の部屋もへったくれもないが。
「ただし。
人権が保障されるのは、人間の範囲においてだ。
貴兄が我が国家に仇なす悪魔と判じられた際には、そのかぎりではない。
従順であられることを、切に願う」
追撃をやめたのも、寝ないのもこのためだ。
やっぱり我々伏兵隊の存在はバレてしまうわけだからな。
こちらもいち早く相手の手の内をゲロらせねば。
実際、向こうの大将ナルデーニが名将
いや、並程度はある将なら。
普通は捕虜が出た時点で漏洩を警戒し、策を変えるだろう。
だが相手の優秀さに投機した行動はリスクが過ぎる。
ときには無能であることに賭けるよりも、な。
第一、未帰還者は戦死扱いで報告が行く可能性もあるし。
てことで、今や拷問も辞さないわけだが。
「団長」
「なんだ」
「『そんな怖いこと言うなよ、かわいい妹よ』
って言ってます」
絶賛妹属性魔法の弊害が発動中。
コイツはいつも人の正気を失わせる。
やい妹属性魔法。
世の中の兄姉がみんなシスコンだと思うなよ?
あとオマエ。通訳。
ドン引きの顔してるけどな。
ついこのまえのオマエも、アレと同じだったんだからな。
もうみんな1回滅べよ。
「『チュッチュッ♡』ってやってますよ」
「いらん翻訳はせんでよろしい。見れば分かる」
はぁ。もう情報吐かせるとか関係なく拷問してぇな。
「どうします? 1発殴って分からせますか?」
そうか、オマエも殴りたいか。
気持ちは分かるぞ。
だが
「やめておこう」
いかん。
我々騎士の精神は、国名のように清廉清潔でなければならない。
『戦場だし風呂入ってないじゃん』とかそういう話じゃないぞ。
「しかしこの態度では、まともに尋問ができるか怪しいですよ?」
「まぁそうなるな」
ナメられてると口を割らないからな。
上下関係、苦痛と恐怖の予感は示しておかねばならない。
普通なら。
が、
「キサマ、名と出身は?」
「は?」
「答えろ」
「ヨハン・ゼーラー、ロカール出身であります」
「よろしい、ヨハンくん。
今からここで見聞きすることを人に話せば、マジョリカ湖に沈むと思え」
「は!?」
私だってな。部下にパワハラなんぞしたくないんだぞ。
でも仕方ないじゃないか。
私は一番手っ取り早い方法を知っているんだから。
「今から私が言う文章を、一字一句違えず翻訳しろ」
「はっ!」
「それを私に伝えるんだ」
「え? 私が話すのではなく?」
「うむ」
たぶん私の声で直接言う方が、効果は高いと思うからな。
「いいか、まずは……」
「えっ」
「黙れよ」
「アッハイ」
さて、翻訳作業が終わり、発音も覚えたところで。
ここからが本番だ!
オラ! 捕虜のおっさん!
特別サービスだ! 耳元で囁いてやる!
「『ねぇ、お兄ちゃん』」
「げっ」
「実家を沈めるぞ」
「ワタクシは何も見ておりません、閣下」
よし、目撃者は黙らせた。
この世の全てが暴力と威圧で解決すればいいのに。
では改めて。
「『ねぇ、お兄ちゃん』」
『なんだい、妹よ』
「えっ」
「湖」
「えっ、えっ、絵が観たいなぁ」
いっそ一瞬の恥を忍んで、コイツにも妹魔法を掛けておくべきだったか。
どうせ翻訳してもらう過程で同じ文章を聞かせるんだから。
いや、もう迷うまい。
気が散る分だけ恥辱で死にたくなる。
「『あのね? お兄ちゃんたち長靴半島軍がどんな計画を立ててるか。知ってることがあったら教えてほしいの』」
『全部かい?』
「『全部♡』」
ウルセェよ!!
何が『全部♡』だよ!
この世の全部湖に沈め!
私から優先的にな!
あぁ、きっと私の前世は史上最悪の妹だったんだ。
兄を謀略で追放し、帝位を簒奪し、辺境で暗殺したりしたんだ。
信心もなくて神の国に入れず、穢れた輪廻をしているんだ。
だからきっと今世で妹を強いられているんだ。
もう反省したから、次は生まれ変わらなくていいかい?
『仕方ないなぁ。いいかい? 小さいころ聴かせた童話のように、いい子にしてよく聞くんだよ?』
何を言っとるのか分からんが、おそらくまだ作戦に関係ないことだな。
でもって、なんかキモいこと言われてる気もする。そういう顔してる。
誓ってそのような過去はない。
「団長、高い声も出るのですね」
「無駄口叩かず翻訳しろ。オマエの魂も高いところに昇らせるぞ」
「黙ります!」
青ざめるなら最初から口を挟むな。懲りんヤツめ。
永遠にその顔色にさせるぞ。
私から距離を取るように、青年は捕虜の口元へ耳を寄せる。
と、
「……何?」
その顔が
さっきまでと比べ物にならないくらい、色を失う。
そのまま数分硬直したかと思うと、
「それは間違いないのか!?」
『うおおお』
急に捕虜の肩をつかんで揺する。
「やめろやめろ。いったいどうした」
「団長、大変です!」
そりゃ見たら分かる。
私が知りたいのは、その内容
「このままでは本隊が危険です!!」




