凶事の予感
結城はスマホの検索で猟奇殺人鬼Xについて調べる事にした。
すると、どれも身の毛がよだつような犯行の数々であった。
なかでも、8人目の被害者。2023年3月4日に被害者の貸コンテナの中で発見された遺体は、鈴木園子63歳。頭部に打撲痕があり、四肢と眼球が無く、自身のはらわたで椅子に縛られた状態で見つかった。そして、テーブルには二つのコーヒーが入れられており。被害者のコップには目玉が入れられていたそうだ。
「うっ。吐きそう。」
結城は検索した事を後悔してしまった。そして、自分に突き刺さったナイフの感覚を思い出し、身震いした。
「なーにやってんだよっと。」
突然背中に軽い衝撃を受けた結城。
「うわぁっ!!」
その衝撃は夢でナイフを刺された時の感覚に似ており、咄嗟に反応してしまい、翻ってそのまま尻もちをついてしまった結城。
「おっ、おい。結城!?そこまで強く叩いてないぞっ!?」クラスメイトの翔がクラスの全員の冷たい視線を受けてオロオロと狼狽していた。
「あ、ご、ごめん。ちょっとビックリしただけ。」結城は尻をはたきながら姿勢を起こす。その額には脂汗がタラリと流れ、心臓は大太鼓の如くドン、ドンと音を鳴らすのを感じた。
「朝からお前少し、いや、かなり変だぞ?ちょっと話聞かせろよ。」翔は心配そうな顔で結城に申し出た。
「絶対信じないだろ。あと、多分笑うから嫌だ。」ちょっと不機嫌そうに結城が言う。
「絶対信じないし、絶対笑う!でも、情報共有ってした方が何か解決する事もあるんだぜ?」ニヤニヤしながら得意げに翔が言い張ると、結城はずっと朝からモヤモヤしたものを吐き出したいと思っていたので妙に納得してしまい、翔に対して今朝見た夢の事を話すのであったーー。
結城は翔に夢の詳細を語り終えると、内心どこか軽くなった気がした。しかし、翔の反応は予想以上に淡白だった。
「つまり、クリスマスの日にお前がナイフで刺されて死んだ夢を見たって話か。それで猟奇殺人鬼Xってやつが関わってる…かもしれないと?」
翔は腕を組み、真剣そうな表情を浮かべる。だが、その口元には明らかに笑いを堪えている気配が漂っていた。
「おい、その顔、バカにしてるだろ!」
結城が睨むと、翔は慌てて手を振る。
「いやいや、悪い!別に笑うつもりじゃないんだけどさ、ちょっと突拍子もないだろ?現実的に考えれば、ただの悪夢だと思うけどなぁ。最近なんか怖い映画でも見たとか?」
「映画じゃない!」結城は声を荒げた。「感覚がリアルすぎるんだ。刺された時の痛みも、血の感触も、あの犯人の異様な雰囲気も…。ただの夢じゃ説明できないんだよ!」
その真剣な様子に、翔もようやく笑いを引っ込めた。「分かった、分かった。じゃあ、その話が本当だとして、どうするつもりなんだ?」
結城は言葉に詰まった。自分でもどうすればいいのか分からなかった。夢が「未来の出来事」だという確証もなければ、それを防ぐ手立ても見つからない。ただ、漠然とした恐怖と不安だけが、彼を追い立てていた。
おもむろにスマホを弄る翔の顔が凍りついた「おい、コレって…11人目の犠牲者の記事。遺体のそばにあった手紙に『待ち遠しいクリスマスを愛しのM.Yと共に』だって」
二人は顔を見合わせると、これから起きるかもしれない凶事の予感に背筋が凍りついたーー。