姫様は勇者を好きになれない
「姫よ!助けに来ました!」
「おのれ勇者!姫を返して欲しくば我を倒してみろ!」
勇者と魔王の戦いが始まる。私は玉座の奥の檻に捕まったままその戦いを見てた。遠くてよく見えないわね......。
「勇者......見ないうちに姿が.....」
「行くぞ魔王!!」
勇者様。私の勇者様。魔王城まで私を助けに来てくれるなんて、こんなのずるい。戦いを見ているだけで頬が赤くなっちゃう。
「ぐわああああああ!」
魔王も孤軍奮闘頑張っていたけれど、部下を全員倒した勇者様のレベルはもう最大に近かった。初めからあなたが出ればいいのに......。わざわざ敵に塩を送るなんてお人好しよね。
「なぜ、お前はそんなにも...ム...」
そんなことを考えていると魔王が倒され塵になって消えてしまった。勇者様も剣を床に刺して息を整えている。壮絶な戦いだった。怪我もひどそうだ。
「姫様!今助けます!」
とてとてと急いでやってきた勇者様は、牢屋を一発で両断してしまった。なんて腕力、ちょっと怖い。
なんだか光が反射してよく見えない。こんなタイミングで光が差し込むなんて、まるで運命ね!
「さあ姫、お手を」
座り込んでいた私にそっと手を伸ばす。影が生まれて勇者様の姿をはっきりと目に......。
「姫様、どうして婚約を断ったのですか?あんなにカッコいい方なのに......」
「だって勇者様ゴリゴリなんだもん」
思ったより筋肉質だった。
怖い!筋肉!あんな手で掴まれたら骨がバキバキになっちゃう!
顔もかくばってて、妙に白い歯がキラって見えるのほんと良くない。服もぴちぴちだし......。私は王家の庭でメイドと一緒にたそがれていた。
歴代の勇者様って結構細身じゃなかったっけ?私の代だけあんな化け物なのずるい!
「はぁ......」
「ため息をつかれるほど......嫌なのですか......」
侍女がやれやれと首を振る。こいつメイドのくせに生意気ね。
「私にも好みってもんがあるのよ!細身で気弱なかわいい感じの......」
そういった後に、この庭園を横切る影が一人。その容姿を見るな否や私は彼を指さした。
「そうそう、あんな感じの子がタイプなの」
メイドはその指の先を追ってみると、驚いた顔をした後なぜか頭を抱えた。
「はぁ、彼も災難ですね......」
「うん?なんのこと?」
「いえ、こっちの話です」
「姫に隠し事はダメでしょう!」
このメイド、ぼこぼこにしてやる!
このわちゃわちゃを遠くから眺める人が一人。先ほど姫が指さした張本人である。彼は姫に秘めた思いがあるがこの姿では勇気が出ない。
彼は勇者である。
彼は昔から姫のことを思い慕っていた。それをあのいつも後ろにいるメイドに相談したところ、「まあ、ムキムキがいいんじゃないの?」と鼻をほじりながら返答された。
彼はムキムキではない。その事実に愕然とした。
そこから筋トレを始めたが勇者という称号の呪いで体は耐え難い負荷にも強く、残念なことに筋肉は発達しなかった。
そこで覚え始めたのが幻覚魔法。筋肉がないならばそう見えればいい。勇者は自信満々に魔王を討伐した。
しかし、帰ってきたのは姫の拒絶。勇者は頭を抱えることとなる。
自信を喪失した今、彼は姫を遠くから眺めることしかできないのである。
どうしようもない二人の関係。誰が悪かったのか。
答えはメイド意外に存在しないのだ。