屋上にて
続きます。
まず、俺が扉を開けて、見えた光景は当たり前だがフェンスで囲まれた屋上、池野と池野の友達の女の子、そして、先輩だろうか、ガタイのいい男性、そして、頬を数発殴られた痕跡のある男の子、身長的に1年だろうか。
場にいた全員がこちらを向く。
あの先輩に関して言えば、乱入者を睨むような視線、女子2人に関しては、怯えて、早く立ち去りたいという視線、そして、男の子からは明らかに助けを乞う視線を向けられる。
「有栖川君!」
困惑と安堵が混ざったような目で池野はこちらを見つめてくる。なぜ、俺がここにいるのかという戸惑いと味方が1人増えたことに対する安堵と言ったところか。
「なんだ、てめえ」
頭のいい高校にもヤンキーみたいなのはいるもんなんだな。
「てめえは誰だって、聞いてんだよ!」
そいつは苛立ちを隠さず、俺の方に向かってくる。俺は無言を返す。
とりあえず、今の優先事項は女子2人をここから逃し、教師を呼んできてもらうことだろう。俺はブレザーを脱ぎ、その場に捨てる。あまり手荒な真似はしたくなかったが。
「2人は職員室に行って、誰でもいいから、教師を呼んできてくれ。」
「でも、それだと、有栖川君が」
「俺は昔、武術を習っていてな、こう言うのは得意なんだよ。だから、多少の時間稼ぎなら、お安い御用だ。早く行け」
その言葉を聞き、2人は屋上から逃げ出そうと
する。
「させねーぞ、おい、待てよ、ゴミども」
「そりゃ、引き留めますよね。だって、学校側にこの一件が知られれば、あなたもただじゃ済まない。あなたにはどんな罰が待っているんでしょうね。俺は楽しみだなあー。あはは」
俺は先輩を嘲るように、可哀想なものを見るように、挑発する。
「てめえ!」
やっぱり、注意を惹きつけるには挑発が1番だ。そして、これは相手の行動を鈍らせる。
だが、俺としては、あまりこの手は好きじゃない。武術の礼儀作法に反するからだ。
しかし、そんなことを言っている場合ではない。あの男の子をいち早く手当しなければならないのだから。
誰かがピンチだったら、俺は悪魔とでも契約してやろう。
先輩は問答無用でパンチを繰り出してくる。
それに対して、俺は避けながら、言葉で先輩の動きを封じようとする。
俺がやり返さないのは先輩を完全に敵に回すのが怖いから、そして何より俺自身が暴力沙汰で学校側からペナルティを受けたくないからである。
「先輩、今こうして俺に暴力を振るおうとしていますが、これに何か意味があるのでしょうか」
俺は先輩の拳を避けながら、言葉を続ける。
「あなたはあそこの男の子に暴力を振るったので学校側から確実にペナルティを受けます。俺に暴力を振るおうとしたことがバレれば、より大きなペナルティを受けるでしょう。それは退学かもしれません。思いとどまってください。」
先輩のパンチは威力が小さくなっている。
「あなたはこんなところで、計り知れないものを失うつもりですか?それは、あなたにとっては友人からの信頼であったり、両親からの信頼かもしれない。」
先輩はパンチを止める。何か、思うところがあったのかもしれない。いや、何かを失ったことに気がついたのだろうか。跪き、俯いている。
「俺はどうすりぁいいんだよ!」
先輩は嘆いている。池野が俺にそうしてくれたように、俺は先輩にそれを言う。
「先輩が他人と関わっていく過程で、答えを探せばいいんですよ。」
「そんなの、、、そうか」
そこで気づいたように先輩は男の子の名前を呼ぶ。
「谷崎、悪かった。オレのしたことは許されるべきではない。でも、オレは一時の感情に身を委ねて、お前を殴ってしまった。その結果がこれだ。オレはお前からの信頼、尊敬など数えきれないものを失ったような気がする。だから、本当にごめん」
そうして、先輩は立ち上がって、谷崎という男の子に頭を下げて謝罪をした。
「いえ、先輩が謝ってくださったので、あなたを許します。けど、今度からは優しく接してほしいです。」
「ああ、わかった」
先輩はこうして、成長していくんだなと俺は思ったのだった。
女子たちと教師がかけつけたのは先輩と谷崎が仲直り(?)の握手をした直後だった。