ただそれだけで
続きます。
○有栖川溯斗
7限まで終わり、全てのテストが返却された。今は終礼が終わったところである。結果から言おう。泣きそうである。
国語 86 43位
数学 82 24位
英語 89 21位
理科 43 256位
社会 58 121位
偏りがえっぐい。
もはや卵焼きまである。ちなみに卵焼きの中で一番好きなのは目玉焼きの醤油です?よろしくお願いします(?)あ、ケチャップ派?あぁ?やんのかてめぇ!?あ、すいませんでした。ボコさないでください。命だけは!
ってガチ目にやばいな。
特に理科。
中学の頃はワークを何周かしているだけで高得点が取れたのに、高校となれば話は別のようだ。
256位て。
うちの高校はひと学年につき300人くらいの生徒が在籍しているため、だいぶ悪い点数を取らなければこの順位は出てこないはずである。
まあ教科書に触れた回数が一番少ないランキング一位では一位をかっさらってきたから、これはこれでいいのか?
嗚呼、なんて一位というのは清々しい。神よ、一位を授けていただき、ありがとう。
でも、国語と数学と英語が安定して取れているのはいいことだと思う。これは続けていこうと思う。というか、英語もう少し上位に食い込んでいたと思ったんだけどな、読みが外れたな。
という感じで自席で反省をしながら、帰りの準備をしていたのだが、前の席で陽奈が素点表と睨めっこしているのが見えた。
ご褒美のこともあり、また、陽奈のテストの結果によって俺の休日の過ごし方が変わってしまうので、早めに聞いておきたいと思った俺は陽奈に結果を尋ねてみることにした。
「陽奈、結果どうだったんだ?」
「うう、、、、んまぁ、ここじゃなんだし帰りながら話さない?」
「そうだな」
いい予感がしなかったものの、とりあえず俺たちは学校を出るのだった。
◇◇◇
帰り道。まだ日が暮れるほどの時間帯でもないため、あたりは明るい。そしてポカポカしている。まだこのくらいならちょうどいいんだけど、夏とかになると蒸し蒸しするからな。四季を無くしたい。
ん?そうだ!
俺が23,4度傾いた地軸を直せばいいんだ(?)
俺、今から宇宙に行って、地球にあたりに行くよ!(?) (そして宇宙の塵となる)
妄想に耽るのはよろしくないので横で歩いている陽奈に話しかける。というか、さっきから陽奈の表情が心なしか暗そうである。気のせいだろうか?
「んで、テストの結果、どうだったんだ?」
「うーん、あんまり良くなかった…」
「同感だ」
「溯斗君もなの?」
「ああ。理科、43点で256位だぞ?もう、泣けばいいのか、笑えばいいのか」
「そうなんだ。私もね、英語と国語と社会は75点以上あったんだけど、理科が69点で、数学が57点だったんだ………」
「そうか、にしても理科はむずかったなー」
「うん、そうだね……ねぇ?」
陽奈は何か言いたげな顔をしている。
「どうした?」
「がっかりしないの?」
「がっかり?どうしてだ?」
思いもよらない言葉が耳に入ってくる。
俺は陽奈が言いたいことがよくわからず、首を傾げる。
「だってさ、溯斗君がせっかく頑張って数学教えてくれたのに、私全然いい点数取れなかったんだよ?自分の頑張りが私のせいで水の泡になったなーって思わないの?」
「仮にだ、逆の立場だったとして陽奈は俺のことを責めるか?」
「責めないと思う。だって溯斗君が頑張ったんだもん。それにケチなんて付けたくない!」
「だろ?つまりはそういうことだ。お前は一緒懸命に頑張った。そしてそれを俺は知っている。ただそれだけで十分じゃねーか」
「………うん。ありがとう。なんか、さっきまで抱えていた重い気持ちが軽くなったよ」
「そうか、まあご褒美があげられないのは残念だが、これからも……」
俺が続きを言おうとすると、遮られる。
「あぁ!ご褒美!忘れてたー。うぅー、悔しいよー。買い物行きたかったなぁ」
そう言って陽奈は少ししょんぼりして見せる。
「人の話を最後まで聞くんだ」
「あっ、ごめんなさい」
「ああ。その買い物の件だが、まあ今回は残念だったが、また次頑張ればいいだろ」
「へ?」
「ほへぇ?」
なぜか陽奈がきょとんとした顔でこちらを見つめてくる。
「次のチャンスをくれるの?一回失敗したのに?」
「人生一度きりなんて流石に可哀想だと思ってな。まあ俺からのご褒美ごときで陽奈がいい点数取れるなら、別にいいかなって思ってな。それに俺だってお前と買い物に行ってみたくなった…………なんてなー」
嘘ではない。コイツといると楽しいし、それに陽奈がそばにいる時は、俺の知らない世界が広がっているんだ。
そう言ってみたものの、陽奈はよくわからないが硬直して、俺の顔の一点を、見つめるようにしていた。
「どうしたんだ?さっきからぼーっと俺の顔なんか見て。なんかついているのか?」
「………ううん、なんでもない……」
「気になることがあるならはっきり言えよ。気になるだろうが」
「ええっと、うん……さっきのってどういう?」
「ご褒美があったらお前ががんばれるみたいな話?」
「そこじゃなくて!」
「人生一度きりは可哀想ってところか?」
「もういいよ!」
何故かほんのりと頬を紅潮させる陽奈。それに今はさっきの暗い表情と打って変わって少しぷりぷりしているような……
言葉なんて伝えられなきゃわからない。
ましてや伝えられてもわからない。
尋ねることが正しかったとしても、言葉が発せられたとしても、果たしてそれは本当に伝わったと言えるのだろうか?
俺は彼女の真意を聞くべきなのだろうか。
言われてもわからない——わかろうとしない。だって
今までがそうだったから
俺は他人のほとんどの質問に対してわからないで突っぱね続けた。
その結果がぼっちだ。
だが、俺は池野陽奈という人間に出会ってから、考え方が変わった。
知らない価値観だった。
なら俺は同じ道を、間違った道を進み続けるべきなのだろうか?
怖かった———今までの自分が否定されていくようで。
進めない。
鎖に縛られているみたいに思考回路が動かなかった。
それ以上は考えるなと暗示をかけられているようだ。
無言のまま思考を動かしているとすっかりいつもの分かれ道だった。
「もう別れ道だね。溯斗君、さっきから何も喋らなくなったけど何かあった?」
「む。いや別に」
「そうなんだ。言うことがあるなら、ちゃんと伝えてね。じゃあね、ばいばい」
そういって手を振りながら別れ道の方へと消えていく陽奈の後ろ姿を俺は黙って見ることしかできなかった。
言いたいことがあるのは陽奈だって同じじゃないのかなんて言葉は陽奈には届かなかった。
○池野陽奈
(もう、どう意味なのかなー!)
溯斗君と分かれ道でさよならを言った後、家に帰り、自室に入った瞬間ベッドにダイブ。そして今に至る。
『それに俺だってお前と買い物に行きたくなった』
「あああああああああああぁ」
枕に顔をうずめながら、私は控えめに叫ぶ。足もジタバタせずにはいられなかった。
思い出すだけで顔が赤くなるのが自分でもわかった。
(友達として?それとも異性として?)
「こんなの、恥ずかしすぎて直接なんて訊けないよ」
小声で囁いてみるものの、当然返事は返ってこない。
思い浮かぶのは溯斗君の顔。
からかってくる時の顔。
真剣な顔で勉強を教えてくれる顔。
私のために優しい言葉をかけてくれた時の顔。
ここ2ヶ月間で見た溯斗君の顔がよぎる。
彼の言葉に何度も助けられた。優しくて、頼り甲斐があって、面白くて………
そんなひとから一緒に買い物に行きたくなったなんて言われたら………
「嬉しいに決まってるじゃん」
自然と頬が緩んでしまう。
「えへへ……」
(でも溯斗君が私のことを嫌いになっていなくてよかったぁ)
私は安堵する。つい最近まで溯斗君に他の女の子の友達ができたからという理由で私は溯斗君にはいらない存在なんじゃないかって思ってたけどそうじゃなかったんだと実感がわく。
それにしても溯斗君に私以外の女の子の友だちができるのはなんか…嫌だなー。
我ながら浅ましい独占欲だ。
溯斗君は誰のものでもないのに。
よし決めた!私、溯斗君の友達として恥ずかしくないように溯斗君を束縛するような真似はしない!
もし溯斗君に彼女さんができたら、私に構ってくれなくなるのかな。
嫌だな。やっぱり溯斗君はずっと私といて欲しい。
ってだめだよ。さっき決めたばかりじゃん私。
溯斗君に彼女さんができたとしても、心から祝福できるようにならないと……!




