ありがとうって伝えたくて
続きます
○池野 陽奈
「メンタル豆腐を鍛えるっていっても、どうするんだ?コレをすれば鋼のメンタルになりますっていうのがあるのか?」
溯斗君はそう言って首を傾げる。
「あると思う?」
「ナイデスヨネー」
「やっぱり、修羅場を体験させるのが1番!ってことで今から校長室でなにか問題を起こしてみよう!」
「しれっと俺を退学の末路へと誘おうとするんじゃない」
「ふふっ。冗談だよー」
「ちょっとずつ慣れていくしか道はなさそう」
そういって私は溯斗君を指でつついてみる。
「何してるんだ?」
「ん?見ればわかるよねー」
「俺が聞いているのはそうじゃなくて、なぜそんなことをしているのかなんだが、、、」
「多分、これは近からず遠からずなんだけど、男の子って女の子に触られると気持ちが舞上がっちゃう生き物だよねー?」
多分間違ってないよね?
いやまあ、目的の一つとして、メンタル改善もあるけど、そこに至る過程で、溯斗君が恥ずかしくなるようにしむけて、その顔を見て楽しむこともそれなんだけどね?
そしてなぜつんつんすることがそれにつながるかというと、前、図書委員の時に起きた事故で、私は溯斗君が顔を赤くするのを見てるんだよ。これが何を指すかって?
少なからず溯斗君でも女の子との触れ合いは意識せずにはいられないということだと思う。多分。
つまり、メンタル制御をできるようにすることで、メンタルを強化しようという算段なんだよ。
「まぁ、一般的にはそうなんだろうけど。俺は違うけどな?」
事故の時は、あんなに顔を赤くしてたし、心臓もどくどくなってたのに?あれは少しの間だったけど、鳴ってたのはよくわかった。
そうとわかった私は話を続行する。
「んでその気持ちをコントロール出来るようになれば少しはメンタルも強くなるんじゃないかと私は思ったんだよー」
「話聞いてた?俺、多分その一般の中に入ってないんだが、、、」
「嘘を付かなくてもいいんだよ?」
「……ついてないぞ?」
何さっきの間?ふふ、わかりやすいなぁ。溯斗君ったら、意外と内面の感情が外に出てるよー。私は心の中で呟く。
「さっきの間こそがそれを証明しているんだよ。それに、前図書委員のときに私を庇って抱きしめたときに溯斗君の心臓の鼓動音すごかったの、私知ってるんだからね?」
「うぐ」
ほらやっぱり。
「図星さんだ〜」
「煮干しってうまいよなー、あははっ」
なんで煮干し?ああ、ぼしつながりってことか。全然似てないけどね!
「話を逸らさないの。豆腐から脱却したいんでしょ?」
「いや……でも恥ずかしいし、な?」
ふふ、溯斗君が照れてきている。可愛い。彼の照れた顔は何故か小動物を連想させる。
「照れないでよー」
よし、このまま攻め続ければ、オーバーヒートして動かなくなった電子レンジみたいに、恥ずかしすぎて何も言えなくなった溯斗君の姿が見れる……はずだった。
「陽奈、そんなにして俺に触れたいのか?」
え?
一瞬溯斗君の言っていることが理解できなかった。
「ふぇ?!別にそうじゃないもん!」
正常な思考に戻った私は咄嗟にそう返す。
私は溯斗君に触れたくてこんなことをしたの?
会話では否定したものの、ふと、自問してみる。
わからない。
わからない。
わからない。
どれだけ自問しても、帰ってくるのはその答え。
確かに溯斗君にはたくさん助けられた。
屋上のこと。
遠足でのこと。
でも、だからと言って、助けられたからって、きちんと全てに対してその感謝を私は伝えたの?本心からありがとうって言ったの?
思い出す。
けれどそんな記憶はなくて……
私は溯斗君に何もしていないのに、助けられてばっかりなことを自覚させられる。
そうか、私は溯斗君のメンタル強化を手伝うことでその感謝を伝えようとしていたんじゃないか?
いや違う。
それも嘘ではないが本心でもない……と思う。
やっぱりわからない。
でも、触れたいか触れたくないかによらず、溯斗君に触れること———メンタル豆腐鍛えを手伝うこと———が感謝を伝えることだというのは間違いない。
だから
『私は溯斗君に触れたくてこんなことをしたの?』
これに対しての答え———感謝の気持ちを伝えるために溯斗君に触れた。
今はそれでいい。
個人的な感情じゃない。あくまで事務的な感情にすぎない。けれど、かといってそれ以上の感情を彼に求めるのは違う。だって、いつもいつも与えられてばかりの私がそれを求めるのは欲張りで傲慢だから。
「私はただ溯斗君がメンタルを強くしたいっていうから、手伝おうかなって思っただけで……」
「そっかそっか、でも陽奈にばっかり手伝ってもらうのも悪いからなー。あ!そーだー、最近友達ができたから、その人に手伝ってもらおうかなー」
その子はどんな子なんだろう?男の子なのかな、それとも女の子なのかな?どんな趣味なんだろう?どういう考えをするんだろう?詮索がよくないことだってわかっていながらもつい詮索してしまう。少しだけなら、そう思って一つだけ質問する。
「その人って男の子なの?」
「女の子だが?」
え?
ねぇ、私は?
私のこと、嫌いになったから、他の子に手伝ってもらおうとしているんじゃない?
だめだってわかってながらも邪推してしまう。
「〜〜!溯斗君、それはやめといた方がいいんじゃない?」
豆腐メンタルを鍛えるなんて、溯斗君は冗談で言っているはずなのに、どうしてかムキになる私がいた。
「なにかあるのか?」
不思議に思ったのか、彼はそう質問してくる。
「何もないけど、でもその場合はその子に迷惑じゃない?」
そんなこと思ってないのに、サラサラと口からそんな言葉が溢れてくる。
「もう!わかった。んじゃあ、さっきのは認めたってことでいいから、その子には手伝ってもらわないで!」
強く言い過ぎたかな。
なんで、私はこんなにも必死なんだろう。
こんなの束縛に他ならないのに。
よくないことだってわかっているのに。
「は、はぁー、じゃあ、この件はなかったってことで」
「え?」
「え?っじゃねーよ。そもそも付き合ってない男女がこう言うことをするのはだな……不健全っていうか……そのー……とにかくなしだな」
「わ……わかった」
「んじゃあ、続きを再開するぞ」
今の私じゃ、溯斗君の役には立てないんだ……
いつも助けられてばかりなのに、ごめんね。
そうして、私はモヤモヤした気持ちのまま、社会の一問一答を続けるのだった。




