図書室にて2
続きます
次の日。昨日は火曜日であるということは、今日は水曜日。つまり、図書委員の仕事がある。
ちなみに紗耶高校はテスト1週間前になると部活動と委員会活動が休みになる。学校としても、生徒にできるだけテストで高得点を取ってほしいのだろうか。
ふと思ったのだが、もしかして、昨日、図書室のカウンターに誰もいなかったのは2週間前から委員会がないとおもっていたから?
まっさかぁ。
結構頭のいいこの学校にそんなことをする生徒がいるはずないじゃないですかー。
※俺はどうなんだって?
例外なんだよなー。そもそも人間というふるいにかけられるかすら怪しいほどに、そして人間性の「に」の字もないほどに、人間やってる自覚がない。人間というのはおそらく心があたたかい人のことを指すんだと思う。
なんてことを考えながら、放課後がやってくるのを待つのだった。
やがて、放課後になり、俺は教室を出て....じゃねぇわ。あっぶなー。某Hさんに一緒に行くように言われたんだった。
いやまあ、言われてから早一か月くらいが経っているから、忘れてたという口実を造れなくはないけど。
されどそこまで時間は変わらないから、待っておくことにする。
教室の扉から陽奈の机のほうを見てみると、彼女はいま何かを探すようにあたりを見渡していた。そして、やがて目が合い、彼女はこちらに手を振り、そして駆け寄ってくる。
「今日はちゃんと待ってくれたんだね。約束、ちゃんと覚えてくれてて、うれしい」
そう言って、陽奈は微笑を浮かべる。
「偉いぞ、遡斗君」
なぜか陽奈は俺の頭に手をのせ、わしゃわしゃとしてくる。
これ絶対俺を子ども扱いして、からかっているよな。といっても、ほめられているのは悪くはない。
だが、髪が乱れるのもよくないので、陽奈のうでを優しくつかんで頭から退ける。
いや待てよ?
これじゃあ、まるで俺が頭を撫でられるのが恥ずかしくて手を退けたみたいじゃん。
勘違いされてそうだから、「違うからな」と一言添えておく。
「よかったぁ」
なぜか安堵の言葉が発せられる。
何が?
そう思い、尋ねてみる。
「ん、いやあ、遡斗君のことをからかおうとして頭撫でたけど、嫌だったんじゃないかなって。けどそうじゃなかったんだね!」
あ、そういう解釈なのね。
こちらとしては好都合なので何も言わないが。
「んじゃ、行くぞ」
「うん」
二人並んで歩く。
「にしてももうテストかー。2ヶ月前まで入試で死ぬくらいには勉強したのにね。私たちに休みはないのかなー」
「まあ分からなくはないが、学生の本分は勉強だからな。致し方ない」
「でもさー、数学とか勉強しても将来使わなくない?」
「たしかにプログラマーとかなら使うかもだが、サラリーマンが使っているのは想像がつかないな」
「あ!いいこと考えちゃった。みんなで数学のテストをなくすデモをするのはどう?」
「それ、某K育委員会に反逆することと変わらないけど、大丈夫そ?」
「あはっ、あはははは。私、冗談で言ったのに、溯斗君、本気にしすぎ。あはは、お腹いたたた」
よっぽど面白かったのか陽奈はお腹を抱えて笑っている。
「まあ、でも勉強はホワイト企業に入るための切符を得るための手段の一つなだけだからな」
「溯斗君、そんなふうに考えてたんだ」
「陽奈は違うのか?」
「うん。私はね、勉強は人生のチュートリアルで、ゲーム感覚で人生の生き方の基盤を作るものだと思ってる」
「というと?」
「例えばさ、数学は努力をして解法という経験値を貯めるゲームだと思う。そしてこのゲームのラスボスは入試問題。ほら、このゲームで勝ったらさ、そこからの人生も努力でなんとかなるんだろうなーって思えるじゃん?」
なるほど、確かにそうだな。いつもの俺の、メリットの享受しか考えない思想の一部がこいつの思想の一部に塗り替えられたような気がする。
それはまるでタバコを吸いすぎて黒くなった肺が健康な肺に取り替えられたように。
そんな会話をしていると、図書室につくのはすぐに感じた。
「17世紀から18世紀初頭にかけて、フランスで絶対王政をしていた人物で、ベルサイユ宮殿を建てた人物は?」
「ええっと、14のひと、誰だっけ....」
「ルイ十四世でした」
「それ!」
今、俺たちがしているのは図書室のカウンターで座りながらの歴史の一問一答である。
ちなみになぜカウンターでそうしているかというと図書室には昨日同様、誰もいなく、加えてカウンターでの仕事は人が来たときのみ発生するからである。
陽奈によると、『この仕事は人が来ないときは勉強できるから、良い!』とのこと。
なんでみんな図書室で勉強しないのかね。いや、別に仕事を望んでいるわけではないが、全くないのはやりがいが感じられないのはどうなのかねって感じっすわー。
「どうしたの?しょんぼりしてない?」
俺の顔色を伺ったのか、陽奈がそう質問してくる。よって、思っていることを話すと、ドンマイと言いながら、肩を軽くポンポンされる。距離感近くない?普通の男子はそういうのをされるとイチコロだなんてよく言われているが、俺は陰キャぼっちだったが故にそういう感情は向けられるわけないとわかりきっている。さすが俺、不動心。そう、ぼっちは不動心をもっている。
ぼっちこそメンタル鋼なのだ(?)
ん?お前のメンタルは豆腐だって?はははははは、そ、そんわけないじゃないですか。もう、お姉さんったらいやあね。
豆腐だって美味しいんだから、いいじゃん!
うんうん、そうだね(自己肯定)
自分の世界に浸っている場合じゃなかった。なにか、話題を!
「そういえば、豆腐って美味しいよなー」
「ほへぇ?なんで、いきなりルイ14世から豆腐の話なの?」
「いやぁ、豆腐っていいよなー」
「さっきと同じこと言ってる……」
「実は俺は(メンタルが)豆腐なんです〜。俺だって、鋼になりたいんです!」
俺は泣くふりをしながら、そう叫ぶ。
「私、豆腐好きだし、溯斗君食べてあげようか?」
軽くホラーである。
「いやぁー、おそろし。って、そうじゃねえ」
「ほ、ほうー?」
コイツ何言ってんだって感じで、首を傾げる陽奈。
「もしかして、心の例えのやつ?」
「はひい。そうです」
なんとか通じたようだ。
「よし!決めた。私が溯斗君のメンタルを強くする!」
「本当ですか!?師匠(?)、よろしくお願いします!」
そうして、謎の訓練が始まったのだった。




