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卵焼き

続きます

知人と何も言葉を交わし合わず、お互いの目を見つめ合う。カップルだったら、いいかもだけど、知人だったら?


てな感じで、俺は今まさにその状況に直面していた。


はっきり言って、ちょっとだけ気まずい。陰キャには気まずさの解消の仕方なんてわからん。


とりあえず、何か話そう。そしたら、池野とその友達——えっと、名前は確か、なんたら嘉だったかな——が俺の話を増大してくれるだろう。いやまあ、増大という言葉で表現していいのかはわからないのだが。


「そ、そういえば、お、俺さー、昼ごはん、焼きそばパンだったんだよねー」

「そっかあ、焼きそばパンかぁ。あれ、美味しいよね。え?でも、それだけじゃ、お腹すかない?」

「いやまぁ、そうなんだけど。昼ごはんにお金使いすぎるのも良くないし、かといって、作るのは面倒いからな。仕方ない」

「んー」

と彼女は唸るようにして考えるような仕草をする。


こういうことすると、本当にコイツ頭良さそうに見えるんだよな。


そんなどうでもいいことを考えていると、友達——んんー、加河だったような気がする、うん、加河でいいや——が池野に耳打ちをする。その耳打ちに対して、池野は顔を赤らめながら、首を横にブンブン振る。


「そんなこと、やったことないし。できないよ。恥ずかしいし」


控えめな声で池野が加河に主張する。


「ねえ、陽奈ちゃん。屋上の時のお礼したのかな?」

「う。まだ、だけど」

「やっぱり、じゃあ、いい機会じゃん。ね!?」


なんか、加河が食い気味に、というか、興奮気味に池野に詰め寄りながら、そう言う。


「もー、わかったよ。やればいいんでしょ?」

「そうそう、にひひひ」


うげ。なんか、加河から不気味な笑い声がする。


何かするのだろうか?なんて、思っていた瞬間だった。池野がまだ少しほんのりと顔を紅潮させながら、言った。


「有栖川君、口開けて」

「は?」


ナチュラルにびっくりして、心の声がもれてしまった。

何のために?



昔読んだ小説の話を思い出す。

とある夏の夜、少年は田舎の人が少ない町に心霊現象を感じるために行った。確か、その少年は心霊が大好きだったっけ。行きは夜6時くらいの電車だった。駅から歩いて、町に向かう道中で森を抜けないといけないんだけど、ほとんど誰も通らない。んで、少年は最初のうちは頑張って町の方に進んでたんだけど、途中で迷ってしまうんだ。来た道もわからなくなっていた。2、3時間歩いて、疲れ切った少年は近くにあった大きな木に寄りかかって、休憩しようとした。しかし、あまりにも疲れすぎて、口を開けて、寝てしまった。後の解説にあったんだけど、悪霊の魂が口を経由して、少年の体にはいりこんだんだって。やがて、起きた少年は自分の体が勝手に動くことに気づいた。体は木を登り、高さ20メートルほどのところへ。少年は体がいまから何をしようとしているのかを理解する。でも、体の融通は効かない……..

怖い話を思い出して、目を瞑ってしまう。



「そのままだよ」


もう、意図も目的も分からずただひたすらに俺は困惑していた。その瞬間だった。柔らかいものが口の中にぶち込まれたのだった。

ん?

もぐもぐもぐ

卵焼きだった。甘い。うちのは塩気が強いけど、どうやら池野家の卵焼きは甘めのようだ。


「うめぇ」

「よかった。それ、私が作ったんだよ」

「へぇ、料理上手なんだな。意外だな」

「それは失礼」


そう言われて、頭を軽くチョップされる。全然痛くない。というか、逆にマッサージみたいで気持ちいい。


※変態ではない


まぁ、本人は笑いながらチョップしてたし、冗談なんだろうけど。


そんなこんなで、卵焼きをもらえた俺は少し腹が膨れるのだった。

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