ランドセルの代わりに
その思い出は、確か小一の下校時。背負っていたランドセルに、後ろから走ってきた幼馴染のヨウが飛びついた。元々ランドセルが重く、その姿はともすれば、ランドセルが歩いていると言われるほどに、当時は体格があまり良くなかった。
そんなわけで、飛びつかれた勢いとその重さに耐えきれず、そのまま後ろに倒れてしまった。自分にもヨウにも怪我はなかったものの、その日からしばらく口を聞かなかったのを覚えている。
「なぁ」
「……」
時はそれから流れに流れ、今は早くも高二になった。既にランドセルは卒業したし、体格もあの頃と比べれば少しは良くなった。
なのに、未だになぜかデカいランドセルを背負っている。
「なぁ」
ヨウが「俺の部屋で勉強をしよう」と言い出したにも関わらず、入って間もなく、ベッドに寝転がり、あまつさえスマフォゲームをしだした。部屋の中心辺りにある、勉強用の折り畳み机に向かっているのは、最初から今まで自分だけ。
「なーあー」
「うるさい」
「勉強飽きたし、一緒に遊ぼうぜ。今イベントやってんだって」
「学年首位と万年赤点組を一緒にすんな」
「赤点まではいってないだろ?」
「うるさい」
ぴしゃりと言って、また手元のノートに視線を落とした。小難しい計算に、頭はもうパンク寸前だ。勉強をしようと誘ってきたのはヨウなのだから、少しくらい教えてくれてもいいのに。
「なぁ」
「……」
「おいって」
「……」
「そこ、違うけど」
「え、嘘。どこ」
「ここ」
ヨウは後ろから覗き込むようにして、手元のノートを指差した。差されたところで、何がどう違うのかわからないけど、学年首位サマが言うには違うらしい。
「だから、どこ……っ!?」
ずしり、と重みを感じた時には既に遅し。ヨウが後ろからのしかかるようにして、手元のノートをそっと示した。
「ここだって」
「あ、は、へ……」
「いやだから」
「うるさい!」
頭に顎を乗せてきたヨウに、下から頭突きをするように頭を動かす。ガチンッと歯が鳴る音がして、ヨウが「むごっ」と呻き声を上げた。
「お、い……! 何すんだ!」
「うるさい! 黙ってゲームでもしてなよ!」
「はぁ?」
まだヨウは不機嫌そうだけど、背を向けてるからどんな顔してるかなんてわからない。だからどうか、私のこの顔にも気づかないで。