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アゲハチョウ

作者: 南波

毎朝目が覚めて絶望することがある、それは私が生きていることだ。

うつ病になってから私は考え方、性格、顔つき、何もかもが変わってしまった。

毎日死にたいと願い、腕を切り続け、理由もなく泣き続け、生活もまともにおくることが出来ず実家に戻った。


こんな人生をおくる予定ではなかった。

毎日そう思っている。

天井を見つめ、幼少期の頃を思い出す。


小さい頃、私は活発な女の子で、休み時間は必ずグラウンドに出て男子と遊んでいた。

"女の子らしくない"とよく人に言われていた。

長い髪の毛は私の性格に合わず、クラスの男子と同じくらい髪の毛が短かった。

夏は日に焼け、いつも砂っぽく、「可愛い」からは無縁な私を「可愛い、可愛い」という女の子がいた事を思い出した。

彼女の名は白川さん。

別に友人という訳でもないのに何故か白川さんはいつも私にべったりで、一輪車を漕いだり、縄跳びで二重跳びをしてケタケタ笑う私をただ見つめて「可愛い」と言うのだ。

男子からは嫌われていたし、正直私もいい気分では無かったが何故か嫌いになれなかった。


ある日、白川さんは傷ついたアゲハチョウの幼虫を学校に持ってきた。

周りの女子からは気味悪がられ、距離を置かれてヒソヒソ話を始められていた。

時折「へん」だとか「きもちわるい」など聞こえてきたが、白川さんは1ミリも動じなかった。

ただただ席について傷ついた幼虫を手のひらに乗せていた。

赤子を見る母のような目をしていた。


数分後、男子が噂を聞きつけたようで白川さんの周りをゴチャゴチャ囲み、そして去っていった。

残ったのは白川さんのみ。幼虫は男子にさらわれてしまったようだ。

遠くで男子の騒がしい声が聞こえる。

幼虫がどうなったかは結局知らないが、白川さんは窓の外を眺め、そして私の席に寄ってきた。

「今日も可愛いね」、そう言って席に戻って行った。

その時の白川さんの目が忘れられない。

私は何も返すことができず、孤独を感じた。

斜め後ろの席で。


その後何があったか全く覚えていない。

どれくらいの時間でこの出来事があったのかもわからないけれど、何故かこんな時に白川さんを思い出した。

彼女は彼女のまま今も生きているのか、それともどこか遠くの地にいるのか、この世にいないのか。

何故かこんな出来事を私は思い出していたのだ。うつ病の時に。

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