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8.暗殺 ◆日本国旧東京・台東区 NH.TK.tt3459:94949g


 旧東京――影の町は、その形成段階こそ国の意図するものではなかったものの、今では日本国が意図的に、その治安を低いままに維持している。それは第二世代融合脳のプロメットが提唱した「役割集積型《IRモデル》都市」を基盤としているためである。この都市・社会計画ではあらゆる分野において役割の集積化が最も効率的であるとして、例えば些末な農地や家屋を、高層建築による垂直農法群や高層巨大集合住宅コンドミニアム群などにそれぞれ吸収させ、役割の集積化を図る。ニューデリーやシンガポール、そして東京国は特にその特徴が大きいことで知られているが、影の町のように、「反社会的勢力」役割をも集積化した国家は、未だ日本国だけである。

「そろそろ帰らねえと。明日もあるからな」

「んえ? まだ一時回ったくらいじゃんか。どうせ画像分析のバイトなんて遅刻とかもないんだろ? じゃあもう一杯くらい、いいじゃないか」

「無理だ」

 そんな日本国、影の町にあるこうした酒場は、そのほぼすべてが喧騒と喧嘩にまみれていることで知名度があった。それはもちろんごろつきのたまり場であるということを意味している。喧嘩沙汰は日常茶飯、また既に先進国では宗教上の理由でなしに酒を禁じている国もあるというのに、ここにいればそうした違法な代物に難なくありつくことができる。

「んじゃまた! 今度そのマザーっても連れてこいよ」

「いやだから、彼女じゃねえっての! ん、じゃあな」

 乱雑な手つきで、木の机に現生キャッシュが置かれた。二人組の片割れが独り店から出ると、外の夜はすっかり深い。その海底並の暗黒を追いやるこの夜の街の賑やかさが、男を光に酔わせた。店の壁に走るひび・それに地面から斜めに生えている街頭など、所々見えてしまう震災の爪痕も気にならないほどに騒がしい。

 独り身を慰めてくれるから、夜の街はとこしえにこうあってほしかった。理由は違えど、たいていの日本人はあらかた共感をするはずだ。彼らが都市を形成するようになってからずっとその血は、夜の賑わいを存分に楽しみたがるよう意味づけられている。

「おかみ、ねえ」

 夜の暗さに負けず、さらに黒く空を浮く東京国を見て不意に言葉が漏れる。自分など到底辿り着けるはずのない、夢の都市。地震も犯罪も物資の不足もない東京国おかみには、どんな賑わいが蔓延しているのか。どんなお偉いさんやお歴々が住んでいるのか。

 若干卑屈になって肩をすぼませながらも、男は満足のいくまで人ごみを堪能した。永い事屋外にいたせいか、夜冷えが膀胱を刺激して困る。適当な路地裏を立ち入った時だった。

「んグっ」

「はっ! 背後もよく見て歩きな、子供アンファンちゃん」

 声がした。その前に顎を強く蹴られていたと理解出来た時には、もう一打を食らう寸前だった。闇に親和する襲撃者から逃げるように、瞬発的に後ずさる。が、

「ごきげんよう」

 揺らめく視界と断続的な聴覚によって、上手く足が動かない。乱れた後ずさりによって、彼は流れるようにもう一人の気配にぶつかる。そのまま何をするまでもなく重撃を食らう。徐に闇をかき分けて見せた二人の襲撃者は、巨大なブーツの女が一人と、一つ目のゴーグルが一人。ヘルメスとエリス。私の手を離れ、暴虐の限りを尽くすアルティレクトの手駒である

 腰から拳銃ハンドガンを取りだした男が前に向かって発砲して、ほぼ同時に後ろに銃口を向けた。彼が振り向く時間の隙間で、銃弾を弾いたエリスがまず蹴りつける。よろめき、銃を握る力を減らしたのを確認してから、ヘルメスがその銃を奪う。奪われて間もなく、銃は早業で分解されてしまった。その部品がいちいち落ちる様子を目に入れながら、彼は失血によって、意識をなくした。

「これくらいで。よろしいでしょう」

「あーあ、あと何人居やがんだよアンファンってのは! かったりいな」

 ヘルメスは血の付いたままの刃をしまい、暗みに行く。エリスは地面に落ちている銃のパーツを派手に蹴り飛ばして、闇と刺激的な接触音に気配を隠した。



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