33.夕日を背に ◆東京国目郷区・第三コンドミニアム・ぎりしあ荘 TK.MS.tc9360:s33045F
どこにいても、ほのかに混沌の残り香がする。東京国を見渡せば、常に崩壊した建物や土煙が目に映る。救急隊の司る管翼のサイレンと人々の鳴き声が鼓膜にこびりつき、まさに今、この未来都市は阿鼻叫喚地獄となっている。しかしそんなことはお構いなしといった風に、中工蟲は優雅に空を舞う。クラゲ型、鳥型、蝶型などの種類があるそれらは、今や結果的に人々のせわしない心をしばしの間癒してくれる存在となっていた。
一行はそんな未来都市の東京で思い思いに真っ赤な本心を語らい合う。それにしても静まり返った国だと、公威が言うその声がずっと遠くまで直進する。
「なんだか、今日は、懐かしいにおいがする」
夕暮れ時に、昔懐かしい団子を口に頬張りながら琳瑚が言う。彼女は一連の出来事を取り込んで、過激な本能を少しばかり丸くしていた。わびさびを実感する心も目覚めさせた彼女は、屋上に皆を集めた。
「しない? 懐かしいにおい」
「なんだそれは」
淡くしらける中、ハベルが尋ねた。この大気を懐かしむのは、琳瑚の鼻腔につながる頭だけだ。
「私の、堂上凛子としての記憶がよみがえったのかもね」
手短に語る。音声言語が果たす役割に、この感情を事細かに伝えるというものは無いのだ。
半ば心を通わすことで、皆一定の心を持ち続けようとしていた。そうでない限り、染まればどうにかなってしまいそうな静寂が、死神を真似て背後にいるのだ。底知れぬ恐怖を払拭するために、西の空を見る。直視できない黄金の日が、空を燃やしている。計り知れないほどの、無量の火。あれが、地平線に落ちるにしたがってどんどんと勢力を増しているように全身で感じる。いつの間にか回りだしている。物凄い音がする。そして日輪が豪奢に、視野のすべてを巻き込むような想像が全員に共有された。
「跡部さんのことは、心から、残念でしたね」
「うん。でも、カーネルも」
「お互い様って、こういうことを言うんでしょうか!」
「すず……、うん。そうだね」
「師匠、それで三貴志の皆さんはどないしてはるんです」
「ウラカンとヒュウガは、集中治療中だ」
「それは、ご愁傷様です。みんな傷ついて、混乱に潰されて。俺、仲間が心配で」
初冬の気配に、公威は景色通り文字通り、日の丸を背負う。ハベルは地下の天森を背負い、琳瑚はビル群を背負う。則雄はガレキを背負い、クレアはすずしろとグエンを背負う。
「ね、そろそろ、行こっか」
クレアが率先して、屋内に誘う。一向に悪い心地はしないのに無性に逃げたい一心で、皆従った。浮遊都市国家という高度技術がここなのに、この空間には指定技術一つの気配も感じられなければ、菌械技術や、亜人体の存在もないも同然だった。
日はそれで、朱く巨大に落ちるのである。




