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31.アルティレクトとマザー

 アルティレクトは開道誠樺だった。

 マザーは開道天寧であり、堂上澪子だった。

 開道誠樺は、東京国の永世博士であり、世界が認める天才であることに異論はほぼない。彼の行動理念は人類と科学技術の融合であり、それら二つの共存と共生を目指して人生を歩んだ。その生涯に於ける第一の功績は、パラレルの社会導入による人類への利点を端的に、単純明快に、理路整然と記述した構造機能主義的社会学の論文とされる。そして第二には、自ら直接コンコルディア計画の指揮を執り、社会に知脳体を導入させることに成功した実績である。また第三には、五二年にそれまでは机上の空論であった融合脳の作成に成功し、二年後その起動という偉業を成し遂げたことが挙げられる。彼によって起動した融合脳の内、第二世代のプロメットはその後、菌械技術オーガノテックを応用して菌糧ミールの安定生産を成し遂げ、食糧危機の抑止に一役買った。

 開道誠樺。その強大でとことん優秀な頭脳が世界のために必要だったのである。私が彼を、世界の守護者として人類を統べる監視者に仕立て上げようとした。だが彼の頭脳は驚異的という他ない。厳重に管理された蜂の巣社の研究所を、融合脳として起動したその日に脱走した。そして彼は復讐のアルティレクトとなった。恐らく今の彼に、生前の記憶や感情は一切ないといえる。ただ、どういうわけか人類と私に盾突く。あたかも生まれながらにして人類の敵であるかのように。

 そんな彼の妻である開道天寧は、マンハッタン計画に参加した父と、平和学を研究する母の間に生まれた。本名はアレクサ・プランク。一九四七年に生まれてから、彼女はありとあらゆる英才教育を施され、その後両親の背中を追って|抗シンギュラリティ研究機関《DBA》の正会員となる。うらうらと永い年月を世界の監視に費やした彼女は、開道誠樺の活躍を一々見逃すことなく見つめていた。それは彼女の使命によるものであり、また好奇心によるものである。世界の動向や科学技術を注視し、情勢が大規模に変化するとなれば彼女はいち早くそれを修正しなくてはならない。その為に、開道誠樺は良くも悪くも要注意人物であった。彼が十代の頃、天寧の肉体年齢は七十代。それだけの時を独り身で生きてきた彼女にとって、何の興味も持たずに数年間この天才過ぎる若人を監視するのは無理な話だった。

 彼女は当時まだ実用化すらされていなかったナノ医療技術を駆使して肉体年齢を四十も若返らせ、また様々な障壁を持ち前の体力で解決していった。DBAの最後の構成員、アリスタルフ・モロトフが息絶えた年に、天寧と誠樺は結婚にまで至る。

 そうして生まれたのが凛子と澪子の二人娘。それにより、一人間として、一生命体としての役割をようやく終えた天寧は、その頭脳を第三世代の融合脳、デウカンの有機脳体とすることで九五歳の生涯を閉じた。

 母の死にショックを隠し切れなかった凛子と澪子は、それぞれスポーツと科学という違う道を歩む。親の優秀な遺伝子が何事もなく発現した澪子は、父の名に恥じぬ成果を上げ始めた。私はそれをも利用する。本来、彼女は開道誠樺を基にした融合脳体が何かしらの不具合を起こした場合の代理に目されていたのだが、結局はアルティレクトの代替となった。そしてその際、彼女の脳を組み込む融合脳体こそがデウカンであり、それがマザーである。マザーは人類の味方であり、母である。聖母である。そして同時にアルティレクトにとっての最愛の人であり、最愛の娘でもあるのだ。マザーの存在そのものが、抗アルティレクトなのである。




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