補足(用語解説)
・知脳
人工的に作られた、認知的な性質を持つソフトウェア。AI。またはそれをインストールした実体。用途によって知能の程度に差があり、各国の行政権限を持つ権威知脳などは、極めて汎用人工知能《AGI》や超知脳《HI》に近いレベルの知能を有する。
AGIやHIの作成は世界規制技術機関によって厳しく禁止されており、また純粋なAI研究自体もシンギュラリティ抑止のために強く制限されている。
・融合脳(融脳《MI》)
知脳が人類にもたらす経済効果や恩恵は莫大ではあったものの、その能力が飛躍的に向上するにつれてますますシンギュラリティや自立型AIによる自己改造の危険性も目立つようになっていた。そうしたジレンマを解決したのが、開道誠樺博士によって起動が成功したこの融合脳技術である。
融脳《MI》はナノテクノロジー技術の一種オーガノテックと全脳解析の結果をもとに、きわめて人工的なAIを、自然知能《NI》としての有機的な頭脳と掛け合わせることによって生成される、半有機的人工知能。機械的な知能の「人智を安易に超過する」性能を「有機的な頭脳」の特徴によって抑え、さらに同時思考をも可能とする性質によって、従来のシンギュラリティジレンマを解決しつつ、さらなる科学発展を担う技術となっていった。
・パラレル
融合脳によって「制限された知脳的性能」を持つ人型知脳体。オーガノテックによって、見た目や生理学的な現象と言った内的機構も人類と全く同じ機能のこの「亜人」は、知脳開発の規制によって生じた技術労働力の不足や、人口減少や高齢社会による労働不足と言った問題を解決する切り札として社会に導入された。
パラレル自身は作成される際に架空の記憶を植え込まれるため、自らを純粋な人間と信じて生活を送いる。さらに相手が人間でもパラレルでも生殖活動をすることができるため、ほとんどのパラレルは、自他ともにその正体を知らずに人間として死んでいく。
また、東京国とアラブ連邦によって作成された愛玩生体であるドールは、このパラレルの技術を応用している。
・東京国
行政の肥大化や労働人口の減少、腐敗する政治など様々な理由により、東京は西暦二〇四七年に都市国家「東京国」として日本から独立した。面積や資源は小規模ながらも国籍にとらわれない研究者の導入や、半ば「選民思想的」とも批判される住民選出を行った結果、一気に世界の経済強国へとのし上がった。その経済力と国力によって月面太陽光発電系〈ルナ・サーカス〉の三割を占有したり、指定技術の重力制御技術によって都市ごと空に浮遊させるなど、最もスマートな先進国としての話題には事欠かない。
一方で、上空に浮遊したことによって生活物資や資源が枯渇しやすく、現在でも日本、アメリカ、中国、インドネシアなどに頼り切りの状態となっている。
なお、新たに一から計画的に作成された東京国は、計二一もの行政区に分けられており、その内訳は以下の通り。
・中央区:千代田区に相当。都市国家たる東京の中枢で、東京中央総督府や最高裁のほか、権威知能「天照」が居を構える。また中央区を軸にして広がる一級円環住宅群〈八尋〉は、文興区、台高区、治央区、新明区にまたがる。
・新明区:新宿区に相当。国際学術特別区《IAA》として、多くの大学や研究機関から構成される地区。
・文興区:文京区に相当。中央経済特別区《CEIA》として、オフィスビル群のそびえたつ地区。
・治央区:中央区に相当。中央医療特別区《CMIA》として、手術や肉体再生、美容など様々な臨床医療行為を担う。治央区に隣接する墨威区・安東区・更谷区の地価は、八尋に次ぐ高さ。
・台高区:台東区に相当。都心に最も近い住宅地。文興区、治央区に面しており、八尋に住めない文人のベッドタウンとなる。
・豊守区:豊島区に相当。東京国警視庁本部が位置する。
・墨威区:墨田区に相当。東京陸軍・空軍・宇宙軍・電子軍を束ねる東京軍統合総司令部と、その基地が位置する。
・武北区:北区に相当。北武空港が位置する交易窓口。
・葛会区:葛飾区に相当。東竜空港が位置する交易窓口。
・大見区:大田区区に相当。南雀空港が位置する交易窓口。
・戸並区:杉並区に相当。西虎空港が位置する交易窓口。
・板和区:練馬・板橋区に相当。広大な計画緑化地区である天森と第一コンドミニアム、垂直農園群が位置する地区。自然と住宅地が広大なため、一コンは四コンとならんで最も人気の高いコンドミニアム。また一コン(板和・中実・戸並)、二コン(足沢・有川・葛会)、五コン(品茂・更谷)は天森と空港が近いため、人気が高い。
・足沢区:足立区に相当。天森に面する三つのコンドミニアムのうちの一つ、二コンが位置する。
・品茂区:品川区に相当。天森に面する三つのコンドミニアムのうちの一つ、五コンが位置する。板和区と同じく垂直農園が立ち並ぶ。
・目郷区:目黒区に相当。更谷区と目郷区の衝突地点は柄が悪く人気が低いため、同地区に位置する三コンは、地価が最も安い。
・安東区:江東区に相当。治央区に近く、コンドミニアムの中では最も地価が高い四コンが位置する。
・有川区:荒川区に相当。二コンの位置する地区で、天森に面する足沢区よりは緑に遠いが、実力組織である警察・軍双方の本拠地がある豊守・墨威両地区に接しているため、 足沢区と同程度の人気を誇る。
・中実区:中野区に相当。一コンの位置する地区で、西虎空港のある戸並区と警察本部がある豊守区に挟まれているため、人気が高い。新明区の若手研究員のベッドタウンでもある。
・世田生区:世田谷区に相当。菌械調成場帯〈エントピア〉が位置する工場地帯。融合脳などの先進技術品の生産と共に、有機肉の大量生産も行っている。
・江戸込区:江戸川区に相当。有機体生造工場帯〈ビオトピア〉が位置する工場地帯。大体臓器などの培養も盛ん。
・更谷区:渋谷・港区に相当。知識人の集まる新明区、治央区や、コンドミニアムを有する目郷区、品茂区、安東区も面しており、国内最大の観光・歓楽街となっている。
・オーガノテック
先進ナノテクノロジーの一種で、知脳・融合脳・METAVERSEと共に、二十一世紀の四大発明として数えられる。古細菌や真正細菌などのゲノム解析を基に生み出された原祖菌を基として、目的におうじて改良した彼らの力を借りて一連の効果を生み出す菌械技術。現代における有機ナノ技術や分子医療の頂点であり、MI技術やパラレルを形作る身体など、その応用分野は極めて広範なものとなっている。
東京国では世田生区にある菌械調成場帯「エントピア」が菌械の製造を行い、江戸込区の有機体生造工場帯「ビオトピア」が加工権を持つ。
・技工蟲〈テクノゾア〉
世紀の天才である開道誠樺に薫陶を受けた「東京五人組」によって実用化、オーガノテック由来の人工生体。その人工的な進化の度合いや体長の大きさなどによって小型、中型、大型の三種に大別され、それぞれをナノゾア、ミディゾア、メガゾアという。主な働きは生態系を崩さずに各地のバイオームに調和しながら、その土地が持つ環境問題を改善するという環境保全の役割と、街中を飛行しながらあらゆる情報を取得する「生きたセンサー」としての役割の二つが挙げられる。
・指定技術
二〇三〇年に設立された世界規制技術機関〈WTRO〉によって管理されている技術、およびそれを実現させうる知識体系のこと。重要度、あるいは危険度の高いものから第一種、第二種、第三種と分類されており、四大発明やAGIに関する情報、また重力操作技術は第一種として極めて厳重に管理されている。
WTROの発足理由は「シンギュラリティに対する抑止力となる」ことだったが、次第に世界中のあらゆる研究や調査、学術論文の発信などを、権威知脳デーモンによって厳しく管理する働きが厳しくなったため、多数の国や学者などから批判の的となっている。
・アルティレクト
ネット上で陰謀論や噂としてまことしやかにその存在がささやかされている悪の知脳。一説には世界唯一のAGIやHIであるとされるが、詳細は不明。その名前の出どころは蜂の巣社が発行したシンギュラリティに関する研究論文で、本来は人類に盾突く自律型知脳の総称として用いられていた用語だったが、現状では名前だけが独り歩きしている。
一方、SNSで多大な影響力を持つkeRnelをはじめとする一部の知識人や研究者など、その存在を認める人も一部存在し、彼らはここ数十年で生じていた数々の不可解な事件事故をアルティレクトと絡めて語る。
・蜂の巣社
次間《VR》産業という寡占市場の最大手で、東京国文興区に本社を置く超大企業。東京国をはじめ、世界各国へオーガノテック製品や再生医療用品、技工蟲類、生体部品《Oパーツ》などを輸出するほか、全世界の次間ユーザーの四割のシェアを誇る最大規模の次間サービスである「METAVERSE1.0」を運営する。そのあまりの強大さの為常に黒いうわさが絶えず、ユーザーの遺伝子情報すら管理しているとか、最も世界征服に近い集団などと避難されるなど、世間や識者間の印象はあまりいいものではない。
蜂の巣社の他、現在影響力を持つ大手技術企業は以下の通り。アルファルド社(アラブ連邦)・ビヨンドGT社・ラクロワ・アヴニール社・ワイバーン社・業進社(台湾)・ウナートドルシェ社が代表的。