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タダより高いモノはないと本当に実感したことある人意外に居ない説

旅商人の首にかかっていたデザインとは違い、細かい意匠がこらされた雄々しい鶏が空に向かって鳴いている姿が中央に刻まれていた。


「そ、それ!ください!」


プラチネは飛びかからんばかりの勢いで旅商人に迫った。

その勢いが強すぎたのか、ルドは慌てて彼女を引き離した。

それを見てにやつくほかのパーティーメンバー以上に、にやついた旅商人がプラチネに聞いてきた。


「いくらまで出してくれますか?」


プラチネは、う、と先ほどの勢いを殺されてしまった。

彼女にはもうほとんど所持金が残っていなかった。

パーティーメンバーを振り返る。

けれど、彼らもこの戦いにかけていて、ほとんどを装備に使っているはず。

ならば、持ち物を売るしかない。

ウォルターのまだ飲んでいないマナポーションを売ってもらうか?

いや、ウォルターは今までもこの後もパーティーにとって貴重な魔法攻撃の持ち主なのだ。

彼の魔法あってのパーティーの攻撃力だ。

キュウに消臭の魔石を?

けれど彼女の感覚が鈍れば、これまで彼女のお陰で避けることが出来た死の危険を今度こそ避けることが出来ないかもしれない。それに。半獣人は確かに普通の人間とは違い、強い筋力や鋭い五感を持つ。けれど、半獣人は人間によっては差別の対象となる。現に彼女は故郷の者達に強く反対されたにも関わらずやってきてくれたのだ。

プリエの緑の羽を?

彼女の風魔法がこの戦いにおける守りの要なのだ。元々彼女は冒険者でも何でもない。そんな彼女が勇気をもってこの戦いに参加してくれることの凄さを、元細工師であったプラチネは分かっていた。そして、その不安も。それに彼女の買ったアイテムは占いという不確かなものではなく、確実に力になってくれるものなのだ。

自分の持っているありったけのポーションはどうか?

プリエの回復魔法は勿論ある。けれど、彼女は今回ルドへの付与魔法に集中することになるだろう。

傷ついて回復させるよりも、傷つく前に守ることのほうがより重要だからだ。

けれど、その魔法が破られ、ルドが傷ついたら? 死んでしまったら?

プラチネはその時ようやく自分の不安の先にたどり着けた気がした。

顔を上げ、旅商人に向かって答える。


「私にはもうほとんど所持金がありません。なので、それを買うためには持っているものを売らなければなりません。けれど、今私たちが持っているものは全て必要なものです。手放せないものです。だから、私から売れるものはありません。だから」

「1ゴールドでいいですよ」


旅商人は決意に満ちたプラチネの言葉を遮り、そう言った。


「え?」


プラチネは出しかけた言葉を飲み込まざるを得なくなり、そういわざるを得なかった。


「これはうらない商品だったんですが、今のあなたの気持ちを聞いて、今は1ゴールドでという気持ちになりました」


神妙な面持ちの旅商人はそう言って金の首飾りを差し出してきた。


「じゃ、じゃあ、1ゴールドで……」


と、おずおずと1ゴールドを差し出し、金の首飾りを受け取るプラチネだったが、何かに引っかかったかのように止まった。


「ん? いま、は……?」

「ええ、今は1ゴールドで。このあと街でお会いした時に残りのお金をいただきましょう! その価値は貴方が決めていただいて結構ですよ!」

「ああああああああああああ!」


やられた! 心の中でプラチネは舌打ちした。

旅商人は、占いの結果としてこれが必要なことに気づいているだろう。

これを手に入れ、アシドに挑む。

アシドに勝つことが出来たとしたら、それはここで金の首飾りを手に入れたおかげともいえる。もちろん、そうでないと言い張ることも出来るだろう。けれど、神託とはいえ勇者に選ばれそれを全うしようという使命感正義感のあるプラチネにとって、自分に嘘をつくという行為は出来ない。商人にとって相手を見破ることは重要なことだ。幾ら持っているかは勿論のこと、どんな人物であるか、何を求めているか、何を自分の中で大切にしているか、それを見抜くことのできる目が必要なのだ。

旅商人は恐らく自分のすべてを見透かしこの商談を成立させたのだ。

アシドとの戦いはプラチネにとって大きい。

そして、必要としていたこの金の首飾りもまた……。


「わかり、ました……」


観念したようにプラチネは旅商人の言葉にうなづいた。

旅商人は成立した商談に満足そうな笑顔を浮かべながら、


「毎度あり!」


とタダ同然の言葉を差し出した。

その悔しさを振り払うかのようにプラチネはアシドの住処へとずんずんと足を進めた。

パーティーもあわてて続いていく。


「あ、お客様」


プラチネは、今までの不安な顔がなんだったのかというオーガも泣き出すような表情で振り返った。それを見たパーティーは異常な緊張感に包まれたが、旅商人は意に介さず、


「先ほど言いましたように、道具は道具であり、大切なのは中身です。最善を尽くしたあなた自身を信じてあげてください。『表紙で本を判断するな』です」


プラチネは今日何度目であろうか。目を見開き、そして、うなづいた。


「ありがとうございます」


旅商人は相変わらずの笑顔でさらにつづけた。


「これは私が先生から頂いた言葉なので。言葉はタダみたいなもんですし」


本当に何度目になるのだろうか、今度は少しだけ目を見開き、苦笑いを浮かべ、プラチネは仲間とともにアシドへ戦いを挑みに駆け出した。

お読みいただきありがとうございます。


実験も含め、今日完結まで一時間ごとの連続投稿させていただきます。

23時で完結しますので、一気読みされたい方は23時にまとめてお読み下さい。

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