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結局勇者ってなんなのか説明できる人いない説

神頼みはプラチネからすれば気休めだ。

何故なら、彼女は神に選ばれた勇者だからだ。世界を救うとされる【勇者】と呼ばれる存在だが、この世界では二種類の勇者が存在した。

神選勇者と人選勇者だ。

文字の通り神が選ぶか人が選ぶかの違いがある。

神選勇者は、神託によって突如として勇者になる。神託を受け取るのは、神に仕える教会の人間であったり国の王だったり、はたまた本人にだったりする。プラチネは国の大神官が受け取った神託によってえらばれた勇者だった。それまで細工師のジョブだった彼女は突如として勇者のジョブになったのだ。

一方、人選勇者はジョブが変わることはない。何故なら、彼らの与えられる勇者は称号であり、栄誉だからだ。彼らは冒険者として活動し、その中で魔王軍の主戦力を葬ったり、危険なダンジョンを攻略したりすることで、国家公認の冒険者となり多大な援助を受ける。その為に与えられた称号なのだ。勿論、神選勇者も国の援助は受けている。神選勇者を持つことは国にとっては立派なステータスなのだから。けれど、受ける身としては複雑だ。まだ何も成してないにも関わらず、国から援助を受けるのだから。

だから、プラチネは何としても魔王の幹部を倒し堂々と勇者を名乗れるようになりたかった。

その為に、出来ることは全てやった。有り金をはたいて強力な装備を買い揃え、何度もダンジョンに潜り、構造を調べ、モンスターを減らし、罠を解除し、危険性を削りに削った。その上で、全員の体調管理をこの日に照準を定めて整えた。

なんだったら、占いにも頼った。世界に知られる【先見の占術者】が隣の都市に来ていたと聞き、自分のへそくり使い果たし占ってもらったのだ。今月は水の曜日が幸運の鍵と言われたので、水の曜日に行けるよう調整した。ウォルターが放つ水魔法の威力が上がって、他のメンバーはほぼ消耗なしで最速と言える半日でここまでたどり着けた。それに、少ない所持金だったが、私が欲した水の曜日限定の水属性アイテム割引デーだったのだ。いつもよりポーションが一個分お得に買えた。占いは正しかったのだ。

ただ、だからこそ、もう一つの幸運の鍵を失ったことで彼女の心に少しばかりの影を差した。


「はあ~……金の腕輪……」


溜息をつくプラチネを見てルドは苦笑いを浮かべていた。


「お前な、まだ言ってるのかよ。いい加減行くぞ」


プラチネの今月の幸運色が金色だったのだ。普段装飾品など身に着けない彼女だが今回は、と走り回って探したのだ。結局、アシドにより苦しめられていたこのあたりの地域では金の首飾りのようなぜいたく品は自分で見つけることができなかったのだが、あまりにも必死だったのが可哀そうだったのか、ルドがなんとか探し出して買ってきてくれたのだ。しかも、付与効果のある魔導具の腕輪だった。けれど、ダンジョン内での戦闘でモンスターが放った強力な呪殺魔法に対し『呪いを防ぐ』という効果を発揮し消えてしまった。

そこから目に見えてプラチネの表情が暗くなったことにルドは気づいていた。


「アシドと戦う前になくなったのが辛いのは分かるが、占いの結果としては合ってただろ。お前を守ってくれたんだから」

「でも……ルドが初めてくれたモノだったのに……」


プラチネは、しょんぼりと俯きながら小さな声でつぶやいた。それを聞いたルドは顔を赤くしキョロキョロと周りを見渡した。すると、ウォルターは二本目のマナポーションを少し吹き出し、キュウはさっき迄の引き攣らせていた頬をこれでもかと緩め、このパーティーにおける新参者のプリエは何かに気づいたように目を見開き穏やかな微笑を浮かべ、更にはパーティーメンバーでない旅商人すら厭らしい笑みを浮かべていたので、ルドは、違う違うぞなどと言いながら迫っていた。

こんなにも自分は落ち込んでいるのに、なんでそんなに元気なのかと顔を上げたプラチネはルドに何か組み技をかけられている旅商人を見て、「あ!」と叫んだ。


「そ、その!その首飾りを私に売ってください!」


旅商人が首にかけていたのは金の卵のような飾りのついた首飾りだった。

旅商人にとってはこんなところまで来てしまうのは不幸であっただろうが、自分にとっては幸運だ、とプラチネは心から喜んだ。失った金色のアイテムを旅商人は持っていたのだから。


「いいえ」


断られた。プラチネは二度目の衝撃を受けた。この旅商人は商魂逞しい商人だった。

こんなダンジョン奥深くまで来てしまったにもかかわらず、回復アイテムも惜しみなく売ってくれたし、帰りのことを考えると必要ではと自分の食料を、なんだったらアシドの戦闘で匂いが染みついた衣服で帰るのはいやでしょう、と。体形の近いウォルターに来ている服一式、なんだったらパンツまで売る提案をしていたのだ。

そんな旅商人が、言ったら悪いが、金とはいえ大きくもなく、素晴らしいデザインでもない金の首飾りを売ることを断るとは思っていなかった。

元細工師だったプラチネからすれば、その職を離れた自分でも作れそうなものだった。

何せ、卵のような形に数字の『8』のような刻印があるだけなのだ。

しかし、パンツまで売るつもりだった彼が売らないものなのだ。何か思い出のあるものなのかもしれない。また、もしかしたらとてもつもなく価値がある魔導具なのかもしれない。そういえば、あのデザインの魔導具をどこかで見たことがあるような気がした。ルドのくれた金の腕輪のような魔法の発動が出来る何かだったような……。


「ルドのくれた金の腕輪……」


思い出して泣けてきた。周りがうるさい。泣いてる私がそんなにも可笑しいのだろうか。

ただ、旅商人だけはその姿を見ていたたまれなくなったのか声をかけてくれた。


「道具は、所詮道具ですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」


それは分かる。けれど、私は不安なのだ。

勝手に選ばれた勇者。細工師として生きていてモンスターと戦うことなんて学校で学んだ程度のことだった。ところが、勇者になった途端、力が溢れ、今まで戦闘技術なんてほとんど学んでこなかったにも関わらず、モンスターを簡単に倒すことが出来た。

私と違う冒険者の道を選んでいたルドは複雑な表情を浮かべながらも、私の力を認め付いてきてくれた。

ウォルターは勇者の力となるよう彼の師である世界に名を轟かす大魔法使いに言われ、彼女の元を離れやってきてくれた。

キュウも勇者が誕生したと聞きその力になれるならとはるか遠い地から馳せ参じてきてくれた。

プリエは私が勇者として悪しき魔人であるアシドを討ってくれると信じている。

私の力は確かに強い。それこそダンジョン内のモンスターが放った自爆覚悟の呪いでもない限り、倒せないくらいに。けれど、今から戦う相手は今までとは違う。

国に認められる人選勇者が誕生するレベルの強敵なのだ。

神にも縋りたくなる。けれど、神は私に託したのだ。

ならば、私は人としての手段を尽くすしかない。


「先見の占術者の力まで借りたのに、不安なんです……」


世界を救うといわれる勇者にあるまじき震える声で、絞り出した。

彼女は、二つの幸運の星を揃えれば、黒い影は必ず消えると言っていた。

揃えた。そして、その結果、ここまで来ている。

それでも、怖いのだ。

旅商人は少し目を伏せると、意を決したように顔を上げ、こう言った。


「そんな貴方にぴったりの商品がこちら!」


今までの空気がなんだったのかというくらい陽気な声で旅商人が差し出したものは……


「ああー!金の首飾り!」


お読みいただきありがとうございます。


実験も含め、今日ラストまで一時間ごとの連続投稿させていただきます。

23時で完結しますので、一気読みされたい方は23時にまとめてお読み下さい。

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