心配性、ボス前商人で金使いまくってしまう説
「今回、私が持ってきたおすすめ商品はこちら!」
【白金の勇者】プラチネは慎重に慎重を期す為、ありったけの回復薬ポーションを買い込んでいた。
それもそのはず、この後彼女は【七大魔王】、【暴食】のグラトニーの配下である【五魅】のうちの一人【腐食】のアシドと戦うのである。
「おいおいおい、世界に七人いる内の魔王の、更にその配下の五人いる内の一人で、そんなに入れ込んだら今後大変だぞ」
と仲間であり幼馴染、そして、パーティーの盾であるルド=シイには苦笑いされた。けれど、プラチネにとってこの一戦が大切だ。だからこそ、こうして多少割高である旅商人の商品を大金払って買い込んでいるのだ。
街から街へ旅をつづけながら商売をする旅商人。しかも、彼らはダンジョンにも潜ったりする。理由は、冒険者たちがアイテムを消耗した時こそ最高の儲けのチャンスだからだ。とはいえ、商人というジョブはモンスターとの戦闘には向いていない。基本的に得られるスキルが道具やお金に関するものだからだ。
プラチネも初期のころはパーティーに商人を入れていた。先立つものがなければ冒険にも出られない。そういう面で商人は本当に助かる存在であった。安い八ゴールドの薬草を更に安く手に入れ、より効果的に使用してくれるし、倒したモンスターの素材を無駄なく回収しパーティーの資金面も支えてくれた。けれど、モンスターが強くなるにつれ、商人の能力では旅を続けることが難しくなる。彼らはそのタイミングちゃんと理解している。引き時を心得ているのだ。
そして、プラチネのパーティーだった商人も途中で別れることとなった。その時入れ替わりに入ったのが、今、旅商人からマナポーションを買い大きな口を広げ一気飲みをしている水魔法使いのウオルターだ。
「ぷはー!きたきたきたきたきいてきたー!今ならサラマンダーも吹き飛ばせる気がしますよ!」
別れた商人は、その後冒険者の経験を活かし、ダンジョンに潜る旅商人をしていたが、大切な引き際を誤って、モンスターに殺されてしまった。ダンジョンに潜るということは、そのリスクもあるということだ。儲けを得るためにはソロで潜るのが一番儲かる。だから、逃げ足や道具を効果的に使いながら、出来るだけ浅い層で商売をする。だが、時に不運な商人もいて、転移の罠にかかったり、迷子になったり、モンスターから逃げる流れだったりでダンジョンの奥深くに来てしまうことがある。
今、目の前にいるのがそういうタイプの商人だ。
彼はなんとこのダンジョンのボスであるアシドの部屋の前まで来てしまっていたのだ。アシドは腐食の名を持つだけあり、腐ったものを好んで食べる為、匂いが酷く、モンスターさえも近寄らないそうだ。なので、彼はモンスターの近寄らないここで冒険者を待ち続けたという。そう、ある意味ここはこのダンジョンで最も安全な場所なのだ。
この情報を得てくれた盗賊であるキュウ=カクーは準備していた【消臭】の匂い袋でも抑えきれない匂いに顔をしかめていた。
「もげるよお……鼻が、鼻が、もげるよお……くうぅん」
プラチネ達はそこまででもないのだが、聴覚と嗅覚にすぐれる犬の半獣人である彼女にはこたえるものがあるようだ。旅商人が自分も使っているという消臭の魔石ペンダントを買っていた。匂い袋よりも数段高い上に、恐らく今後は使い道がないであろうその買い物はパーティーにとって痛手ではあった。
しかし、この一戦を確実に勝つためには彼女の力が必要だ。
アシドは、このダンジョンの近くにある【イハンバ都市同盟】の宝である【ソロバンの盾】をたった一度の襲撃で奪ったのだ。ソロバンの盾は、【商業神ソロバン】の恩恵を受けた盾で、町一つ分を囲むくらいの魔法防壁を生み出せる神のアイテムであり、その防壁は、災害と呼ばれるA級モンスターでも簡単には破壊できないほどであり、ハンバ都市同盟にとっては守りの要であった。その防壁を破ったというのはそれだけアシドは強いということだ。そして、ソロバンの盾は守る範囲が狭まれば狭まるほど効果が高くなる。つまり、アシドはA級モンスターを超える攻撃力と、ソロバンの盾、しかも圧縮強化された魔法防壁というA級モンスターでも壊せない防御力を兼ね備えているのだ。
この守りを破るには、噂に聞く【必断の剣聖】や【消滅の魔導士】といった人を外れた化け物級の猛者を連れてくる方法が一つ。けれど、彼らも他の【七大魔王】との戦いの最前線で戦っていると聞く。連れてくるのは、困難を極めるだろう。
そこでキュウの力だ。キュウは【盗賊神ハンズ】の加護を得た貴重な存在なのだ。ハンズは正確には技術の神なのだが、キュウは盗賊神のほうがかっこいい、とそう呼ぶのを嫌がる。ともかく、盗賊神の恩恵【見えざる手】というキュウが持つ力は、あらゆる存在を超える魔法の手を使うことが出来るようになるのだ。この世界の法則を無視するようなこの力によって、ソロバンの盾を奪う。それが今回の戦いの肝となる。
ただし、黙ってアシドがこちらを近づけさせることはないだろう。元々アシドは遠距離での魔法を得意としている。アシドの放つ【竜の飲み水】《アクアレジア》は水魔法だが、金属をも溶かす力を持っていて、イハンバ都市同盟に雇われていた【バゲニーゼ傭兵団】は文字通り溶けてなくなった。
それを見て誰よりも涙を流し、この戦いへの決意を固めパーティーに参加してくれた神官のプリエがどれだけ持ちこたえられるかによって結末は変わるだろう。彼女は風の属性持ちで、回復魔法【癒しのそよ風】《ヒーリングウィンド》や解毒魔法【浄化の吐息】《ブレッシングアンチドーテ》が使えるだけでなく、風の防御付与魔法【逆巻く風】《アドバースウィンド》が使える。これは魔法をかけた対象に風の壁を付与する魔法で、対象の防御力が高ければ高いほど風の壁は強く大きくなる。この魔法を壁役であるルドにかける。ルドの防御力は折り紙付きだ。誰よりも大きく強い壁が生まれるだろう。それに壁は風なのだ。水の攻撃魔法は非常に相性が悪い。きっと防いでくれる。けれど、心配性のプリエは少しでも威力を上げようと旅商人から風属性の魔力を高める【緑の羽】を教会から与えられたお金を使い果たし大量に買っていた。羽をつけすぎてパッと見たらハーピーに見えてしまうのではなかろうか。
「これで良し。エール様、貴方様の忠実なる信徒、この私に御力を。あの可哀そうな魂に報いるための御力をお与えください」
満足した彼女は信仰する【薬神エール】に祈りを捧げていたが、一見モンスターに見える彼女を薬神は救ってくれるのだろうか。




