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9話 百詣り

 今朝、学校に登校すると教室が少し騒がしかった。

 

 よく見てみると、僕の机の隣に、少しばかり人だかりができている。


 「歌ちゃんって、こんなに面白いのにどうして学校に来なかったのー?」


 「色々と事情があるのよ!」

 

 クラスの女子の会話が聞こえた。


 そうか、そういえば、僕の隣の席の人は一度も登校していなかったな。


 そんな事を考えながら席につく。


 今まで僕と同じで、根暗なやつなのかなと思っていたが、見る限りそんな事はない。


 むしろ、笑顔で明るく話すその姿は、クラスの中心人物になり得るであろうとさえ思った。


 その見た目は、茶色いポニーテールに赤いシュシュがよく似合う、可愛い女の子だった。


 ふと、その子と目が合う。


 「私は、琥珀歌っていうの!よろしくね!」


 「あっ。僕は、鈴木陽太。よろしく。」


 突然話しかけられて、戸惑ってしまった。


 なんだよこの子。めっちゃいい子じゃん!

 喋ったし、後でスタンプ押しておこ!


 浜辺の分と一緒に押そうと、スタンプラリーの紙を手に取る。


 「なあ、鈴木。」


 突然、少し暗い声で翔太郎が話しかけてきた。


 「どうした?元気ないな?ちなみに、僕は今のりにのってるぜ!」


 「そんな事はどうでもいいんだ。それより、廊下へ行くぞ。」


 僕は翔太郎に廊下へと連れ出された。

 そこには、当然のようにゆりもいた。


 「なあ、お前らおかしくないか?」


 「何がだ?」


 「教室を見てみろよ。もう、4月だってのに、マフラーをしてるやつがいる。」


 僕は、少し笑いそうになってしまった。

 

 「そんな事で、廊下まで呼び出したのかよ。勘弁してくれよな。」


 「それだけじゃないんだ。何か、何かが違うんだよ。昨日までの雰囲気とか全部違うんだ。」


 言われてみれば、確かにそう思う。

 朝、教室に入ってきてから違和感は確かにあった。


 「とにかく、口では説明できない何かが起こっているんだ。」


 「その、何かってのはなんなんだよ。お前、変なこと言ってるぞ?」


 僕は、別に翔太郎を疑っているわけではない。


 こんなに真面目な目をしているこいつを見るのは、久しぶりだ。


 「なら、もっとおかしいこと言ってやろうか?」


 翔太郎は、僕の持っている紙に目を向ける。


 「その、スタンプラリーの紙。琥珀の名前はなんて書いてある?」


 「は?」


 「だから!琥珀の名前は、なんだって聞いてるんだよ!」


 何を馬鹿なことを聞いてるんだこいつは。

 そもそも、この紙を書いたのは、翔太郎なのに。


 「歌だ。歌って書いてあるぞ。」


 翔太郎は、やっぱりなという顔をしてこう言い放った。


 「俺は、歌だなんて書いてない!」


 「は?だって、この紙はお前が書いたんだろ?書き換えようがないじゃないか!」


 「違うんだ!俺は、絶対に歌だなんて書いてないんだ!」


 おい、おかしいぞ。僕がおかしいのか?

 それとも、やはり翔太郎がおかしいのか?


 もう一度、紙に目をやる。

 確かに、歌と書いてある。


 「あいつの名前は、歌じゃない…音だ。」


 俺とゆりは、顔を見合わせた。


 「お前さ、疲れてんだよきっと。五月病ってやつか?」


 「違う!確かにあいつは、音だ!音って名前なんだ。」


 俺は、目でゆりに助けを求めた。


 彼女は、ため息をつきながらもある打開策を告げる。


 「じゃあさ、確かめればいいじゃない。ちょうど今日から部活動で活動ができるんだし。放課後、別館の部室棟で話し合いましょ。」


 「クソッ。どうして信じてくれないんだ。」


 少し不満げな顔をしながら翔太郎が言葉を捨てる。


 「取り敢えず、この件が解決するまでは、琥珀の名前は歌に統一すること!いいわね!」


 まあ、名前は、クラスのみんなに合わせてそうするほうがいいだろうな。


 学校中に、鐘の音が響き渡る。


 「さあ、1時間目が始まるぞ。教室へ戻ろうか。俺は、スタンプを押さなくちゃなんでな。」


 そう言いながら、自分の机へと向かった。


 そういえば…スタンプなんて買ってなかったな。


 まあ、赤いペンで丸でも書いておくか。


 筆箱から赤いボールペンを取り出し、おもむろに2人の名前に丸をつける。


 そして、今日も退屈な授業が始まった。

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