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8話 動き出す世界

 「もう、遅くなっちゃったね。」


 大きな目で、綺麗な月を見上げて彼女がそう呟く。


 「最後に、聞きたいんだけど、鈴木君は何部に入るの?」


 最後の質問がそれか。

 てっきりもっと難しい質問が来るのかと思った。


 「僕は、青楽部を作ったんだ。学校行事の手助けをしたり、生徒の悩みを解決したりするんだ。」


 まあ、活動内容は全てあいつらが考えたものだがな。


 彼女の口角が少し上がった。


 「それ。面白そうだね。私も青楽部にはいる!」


 おいおいまじかよ。

 こんな美女と同じ部活にいて良いんですか?


 放課後に同じ教室にいても良いんですか?


 今日は運が良すぎる。


 帰り道に、交通事故に遭いませんように。


 「それより、何を思い出したの?」


 僕は、ずっと聞きたい事を聞いてみた。


 そうすると彼女は、少し困った顔をした。

 んー、という言葉にならない声を出した後に、


 「もう遅いから今度ね〜」


 とはぐらかされた。


 まあ、確かに今日はもう遅い。

 翔太郎も流石にもう帰っただろう。

 そう思いながら僕は、帰ろうと屋上のドアノブに手を伸ばす。


 その瞬間、頭が割れるような痛みが走った。


 幸いにも一瞬だけの出来事だったので、視界が一瞬ボヤけただけで済んだ。


 「大丈夫?どうかしたの?」


 心配そうに彼女が話しかける。


 「大丈夫だよ。なんでもない。」


 そう言いながら、僕たちはそれぞれの帰路についた。


 「ただいま。」


 一応、家に帰るときには毎回言っている。

 母親がそこらへんには厳しかったので癖のようなものになっているのだろう。


 ただの一度も返事が返ってきた事はないが。


 「お帰り。」


 頭が真っ白になった。


 返事が返ってきた事にも驚いたが、あの父親がリビングにいるのである。


 今まで、ほとんど自室に閉じこもっていたのに。

 

 今日は、1日中色々なことが起こりすぎている。


 流石にもう疲れた。

 今までの平凡な日常は、どこへ行ってしまったんだ。


 「陽太、今日黒髪の…髪の長い女の人と会ったか?」


 …なぜ知っている?

 あそこにいたのは、僕と彼女の2人だけのはず。


 いや、そもそも父親は外へは出ていないはずだ。


 全身から血の気が引いてくるのがわかった。


 「その女の子は…どんな表情をしていた?」


 僕が返事をする前に、父親は話を続けた。


 恐らく僕の表情を見ただけで、会った事がわかったのだろう。


 「泣いていたよ。」


 数年ぶりの父親との会話。

 まさか、話の内容が女の子の表情の話になるとは。


 父親は、僕のその発言を聞くと


 「そうか。」


 とだけを言い残して、また自室へと帰っていった。


 一体なんだったんだ。


 なぜ、僕と彼女が出会った事を知っていたんだ。


 追いかけて問い詰めたかったが、朝からいろんなことがあったせいで、全身から力が抜けていく。


 僕は、その重い足取りで自分のベッドへと向かう。


 もう、疲れた…

 明日の朝、シャワーを浴びれば良いや。


 その日は、不思議な夢を見た。


 大きな洋室の中の、ベッドの上で眠っている夢だ。

 僕は、夢の中でも眠っているのかよ…呆れた奴だ。

 側には、僕のことを見つめる数人の人間がいる。


 格好的には、メイドさんと執事さんだろうか?

 豪華な夢だな。


 そんな事を思っていた矢先、部屋の中の扉が開く。


 ーその瞬間、夢が終わってしまった。


 気がつけば朝になっていた。

 すごく短い夢だった。しかもつまらない夢だ。


 全く寝た気がしない。


 シャワーを浴び、支度をして、いつも通り学校へと向かう。


 昨日と違う事は、僕は部活に所属していることと、気になっていた彼女と知り合いになった事だ。


 平凡な毎日はこれで終わりだ。

 僕には、青春がやってくる。


 しかし、僕はまだ気付いていなかった。


 昨日。僕と彼女が出会ったあの瞬間に、世界の常識の全てが変わってしまっていたことに。


 出会ってはならない2人が、出会ってしまっていたことに…

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