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6話 夕焼けの鐘と共に

 僕は、少し文句を漏らしながら三階の生徒会室に来た。


「こんにちは、1年A組の鈴木です。部活動設立の用紙を出しに来ました。」


 そう言いながら、生徒会室の扉を開く。

 中は、本棚と机が並べられているだけで閑散とした世界が広がっている。


 本棚を整理していた、1人の男が眼鏡を直しながら、こちらをマジマジと見つめる。


 「キミ!もしかして、陽太くんかい⁈大きくなったねえ!」


 「お久しぶりです!拓人さん」


 この人は、翔太郎の兄である。真庭拓人だ。

 とても、変人である。


 「今日は、部活動設立の用紙を持ってきました。」


 「設立⁈キミが⁈」


 そんなに驚く事ないだろ。失礼だな。


 「まあ、僕が、と言うよりかは、翔太郎とゆりが。ですけどね。」


 右手で顎を触り、何か考え事をしているようだ。これは、拓人の癖のようなものである。


 「そうか、翔太郎が…」


 少し安心したような顔を彼は見せた。

 その後、彼は部活の活動内容を一瞥した。


 「活動内容は、イベントの手伝いと、学生の青春における悩みの解決か。うん!面白そうだね!」


 いや、待て。悩みの解決?僕は、そんなの聞いてないぞ。

 また、アイツは勝手にそんなものを書いたのか。


 普通の生徒であれば、こんなアホみたいな部活には、悩み事を相談しにこないだろうに。

 

 《そう。普通の生徒であれば。》


 僕は、後に後悔することになる。

 

 今、この時に活動内容を変更していれば、刺激的すぎる毎日に巻き込まれなかったのにと。

 

 「面白いので許可します。」


 案外許可は早く出た。


 それは、この生徒会長が適当なだけなのか。

 

 それとも、翔太郎が関係しているからなのかは、分からない。


 僕は、一礼をして生徒会室を後にした。


 誰もいない廊下。

 

 オレンジ色の光が僕の影を伸ばしていく。


 廊下から見える桜は光り輝いていた。


 「さて、用事は済んだ事だしもう帰るか。」


 そう考えていたまさにその瞬間だったー


 窓から歌声が聞こえてくる。


 僕は、この歌を知っている。


 しかし、どこで知ったかは、覚えていない。


 作曲者も分からない。


 ただ、一つ分かることがあるとすれば、これは、《約束の歌》だと言うことだ。


 僕は、この歌を歌いながら誰かと約束をした気がする。


 遠い。本当に遠い昔の記憶でー


 僕は、この声も知っている気がした。

 

 聞いたことがある。ただ、誰の声かは知らない。


 本当に綺麗な声をしていた。


 色を付けるとするならば、水色のような。


 透き通っていて、一切の濁りを感じさせないその声に僕は聴き惚れていた。


 風が、木々を揺らすざわめきのように、声が自然の一部となって、僕の耳へと届く。

 

 気が付けば、夢中で走り出していた。


 声は、一つ上の階。屋上から聞こえてくる。


 もしかしたら、この歌を歌っている人が、僕の《約束の人》なのだろうか?


 たとえ、違ったとしても僕は、この声の主を誰だか知らなくてはならない。


 確かめなければ。

 

 約束の内容も。

 

 昔の記憶も。


 会えば、全て思い出す気がする。


 僕は、屋上の扉を思いっきり開いた。


 空いっぱいの夕焼けが僕の眼をぶん殴る。


 学校中の鐘の音が鳴り響き、2人の出会いを祝福しているかのように思えた。

 

 さっきまでの考えは、散りゆく桜のように、全て吹き飛んでしまった。


 目の前にいたのは、入学式で見つけた。

 

 彼女であったからだ。


 探していた。

 

 ずっと探していたんだ。


 やっと、見つけることができた。


 ただ…


 その彼女はなぜか、悲しげな表情を浮かべて、


 泣いていた…

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