31話
夢のような週末が明け、憂鬱な月曜日がやってきた。
朝ご飯のパンを食べながら、少しだけ父親の寝室を覗いてみたが、どうやらまだ働きもせずそこら辺をぶらぶらしているらしい。
全く、辛い事があったとはいえど、1人の子供を持つ父親なのだから、もっとしっかりとしてほしいものだ。
この家にいたままでは、自分も同じ人を育てられない人間になったしまうかもしれない。
「こんな家、早く出て行ってやる」
この感情に名前を付けるとすれば、軽蔑だろうか。
朝から嫌な気分になってしまった。
だが、今週はそんな事も言ってられないぐらい忙しくなりそうだ。
何故かって?
そう……
何故なら……体育祭の練習が始まる!
この一週間で練習をしまくり土曜日に本番だ!とクラスで意気込んでいる。
中でも、体育委員に推薦された来道という男は、やる気が一際目立っており、放課後に残って体育祭に向けた練習をすると意見を出している。
流石にそこまでは、やめてほしいものだ。
朝、教室に行くと青楽部のメンバーが僕の机に集まっていた。
どうやら、有馬ひじりについての事らしい。
主な情報は、やはり真庭が持ってきていた。
「有馬ひじりについての情報だ。まあ、情報とは言ってもわからない事だらけなんだがな……。」
勘が鋭く、情報収集能力の優れている真庭でさえお手上げな程、どうやら有馬さんは素性が知れないらしい。
それもそのはずで、この紙面に記された情報によると、彼女はエルフだった。
それもハーフエルフ。
差別の対象である-。
元より、エルフは多種族を好まず、この地域の近くの森に住んでいたと伝わる。
エルフにとって人間とは、森を破壊する侵略者であり、目の上のコブの様な存在であった。
一度、生を受けてしまえば、その寿命は軽く3千年を超えるとされており、繁殖能力はそこまで高くはない。
一方で、人間は寿命は短いが、その繁殖能力と環境適応能力で数と領地を増やしていった。
時が経つにつれて、その優劣の差は歴然となり、エルフの歴史の最後は、戦う事なく、この領地を明け渡し、各地方へ分散して行ったという。
その時の生き残りが有馬ひじりだろう。
また、ハーフエルフに関して記された書籍は少なく、なぜ、差別されていたのかの記載もない。
いや、そもそもエルフがハーフになる事自体が非常に稀で、地域によっては、生まれてすぐに殺してしまう所もあるらしい。
エルフとは、一つの繋がりを大切にする生き物で、他の種族の介入を許してこなかった。
そんな背景があるのだろう。
だが、ハーフエルフだった有馬は、そんなエルフ特有の考えを持たなかったからこそ、現代社会にも適応し生活できているのかも知れない。
不吉の象徴として、この世界に生まれ落ち、それが功をなして今、生きている。
なんとも不遇な人生なのだろうか。
さて…と、僕は資料に目を通し始めた。
今から約二千年前有馬は、この世界で生をうける。
その後、差別の対象となり、実の両親からも虐待を受けるが、村から離れた地に住む爺さんに拾われたらしい。
まったく…一体どこからこんな情報を仕入れたんだ?
約二千年も前の情報だぞ⁈こんなの、エルフにしか知らないような情報じゃないか。
「この情報源は確かな所からなのか?」
僕は疑いの姿勢を全面に押し出し、翔太郎を問いただす。
彼は、何の動揺も見せず手のひらを組み合わせながら
「ああ。確かに信用できる場所からの情報だよ」
と、そう答えた。
お前は碇ゲンドウかというツッコミを押さえて続きの資料を読む。
今から約1000年前、エルフに現代の宿敵ともいえる疫病が流行る。
エルフは、急激にその数を減らし、最終的には、戦うことなく、その聖地を人間に明け渡した。
人里離れた地に住んでいた有馬達には、人間の手が回らなかったらしい。
その後、人間としての生活をしていく事で、彼女は今に至るまで生きながらえてきた。




