30話 夢の一つ
「ど…どうする?」
すみれが少し顔を赤らめながら聞いてくる。
その顔を見た瞬間、僕も少し照れてしまった。
なんで、アイツは顔が赤くなってるんだ?
もしかして…俺のこと…。
そんなこと、天地がひっくり返らないとないか〜。
自己完結してしまった。
何故なら、すみれはクラスでもかなり人気のある美人だからである。
その透き通った様な声も美しく、小鳥と会話ができるかと思ったほどだ。
それにしても、僕は…入学当初からすみれに一目惚れしてるんだよな…。
もし…もし、すみれも俺のことが好きだったら…。
「ねえ!海行かない?暑くなっちゃった。」
少し動揺した様な素振りを見せながら、すみれが話し出した。
そういえば、ニュースで今日はかなり暑くなるとか言ってたな。
かなり突発的な提案をされたが、潮風に当たり冷静に考えたい気分だったので、提案をのむことにした。
「やっと、海を見る事が出来るね。」
そう呟く様にすみれは言い放った。
「え?僕は海を見た事があるけど、すみれはもしかして初めて海を見るの?」
ハッとした表情を浮かべながら、すみれがこれを否定する。
「いや、違う違う!こっちの話だから!」
こっちの話?一体何の話なのだろうか。
近頃、彼女はどこかおかしい気がする様な…。
海へ着くとそこには雄大な自然が…
広がっているはずもなかった。
海の色は汚染物で汚され、空気は後ろの道路で濁りきっており、大きな橋こそ綺麗なものだが、この自然に人工物は必要ない。
やっぱり、ここの海は汚いな。
そんな事を考えながらふと、彼女に目をやった。
僕の目に映る彼女は、まるで長年の夢を叶えた少女の様な嬉しそうな表情をしていた。
「随分と楽しそうだね。」
自然と言葉がこぼれ落ちる。
「楽しい…か。どっちかっていうと嬉しいかな。」
少しドキッとしてしまった。
これって、もしかして、そういうことか?
2人でこの海を見れた事の幸せで「嬉しい」って事なのか?
意を決して聞いてみようか…そんな事を思いつつも彼女の言葉の続きを待った。
「まあ、正しくは半分嬉しい。かな?いつしかの2人でこの景色を見るのが私の夢だったから。」
そう言うと彼女は、海とは反対の方へと足を運ぶ。
何か、悪いことでも聞いてしまったのだろうか。
それよりも、半分嬉しい?と言うことは、過去に意中の人がいて、その人と海を見る約束でもしていたのだろうか。
さっきの表情とは、打って変わって少し寂しそうに見えた。
ただ、海に反射する夕日の光で彼女は、とても美しく見える。
「日も落ちてきたし帰ろうか。」
「そうだね。今日は楽しかったよ。」
「私もよ。なにせ、夢が一つ、また叶ったのだから。」
はるか海の向こうを見ながら彼女は言った。
夢が一つ…か。
彼女は、この先一体、いくつの夢を叶えていくのだろうか。
僕に手伝える夢はあるのだろうか。
彼女が夢に苦しんでいるときに、いつも側で支えるのは自分でありたい。
不思議と…いや、不思議ではないか。
何故なら僕はー
彼女のことが好きなのだから。
その事を、本当の意味で自覚してしまった瞬間、僕はぶっ倒れそうになった。
そうか。人を好きになるということは、こういうことなのか。
いつの日か僕にも夢ができて、それを君と共有する事が出来たらどんなに嬉しいだろうか。
君は、喜んで僕の夢を手伝ってくれるだろうか。
もう、ここで君のことが好きだと伝えてしまおうか。
いや、何故かは分からないが、それは今ではないということがはっきりと分かる。
もっと、適切なタイミングがあるはずだ。
電車の座席に2人で座ると、疲れがドッと押し寄せてきた。
肩にトン…と重みを感じる。
僕は肩で、その幸せを背負いつつも少しばかりの眠りについた。




