28話 積み木を乗せて
まだ書きます
横から体を押し出すかのように少し冷たい風が吹いている。
海に程近いこのお台場で、半袖短パンで散策をするのは、屈強な外国人ぐらいだろう。
そんなことを考えながら、鈴木は目的地であるダイバーシティへと足を運んでいた。
「おーい!鈴木さーん!」
小さな女の子がこちらへ向かって手を振っている。
「ああ、元気そうで良かった。」
そんな言葉を零しながら少女たちの元へと向かう。
少女の名前は、莉里。
狼男となってしまった飯竹の妹だ。
今は、訳あって有馬という謎の少女の元でお世話になっている。
今日は、莉里と有馬が上手くやれているかどうかのチェックの様なものをしに来た。
「はい、5分遅刻〜。ランチ奢りね?」
すみれが少し小馬鹿にしながらそう言ってきた。
最近、すみれは何故か僕にだけ態度を変えてきているかのように感じる。
教室の中での硬派な態度とは裏腹に、僕の前では冗談を使いながら接してくれている。
彼女のことが気になっている僕にとっては、少し嬉しいことだ。
心が緩む。
「違うんだよ!俺は朝のお天気ニュースの占いを見ないと外に出れない人間なんだ!」
本当は、今日見た変な夢のせいで頭が追いつかなく、準備が遅れただなんて言えない。
「一切、占いを信じない鈴木君がそんなもの信じる訳ないでしょ。」
「鈴木さん変な人ですねー」
2人からは、一蹴されてしまった。いや、これはリフティングか?
「はじめまして。鈴木君。有馬です。本日はよろしくお願いします。」
綺麗な顔立ちでエメラルド色の髪をしたこの人は、有馬ひじり。
肌も透き通っていて、居るだけで目立つような人だ。
実際、通行人の何人かはもう恋に落ちているだろう。
教室では、物静かな人で人と話しているところをあまり見ないな。こんな話し方をするのか。
「鈴木と言います。こちらこそ宜しくお願いします。」
取り敢えず、敬語で返してみる。
因みに、握手は無視された……。
残念だったね鈴木さん。
そんな声が俺の左下から聞こえてきた。
「そういえば、莉里は今日何を買うんだ?」
「今日はね、ひじりさんのところへ住むために必要なものを買いに来たの!」
「え?でも、必要なものって家から持って来れば…」
ズドン
ここで、すみれの肘打ちが僕のあばらを的確に潰しにかかった。
「君ねえ、本当にデリカシーが無いよね?彼女とかいた事ないでしょ?」
心と身体が同時に痛い。
そうですよ。どうせ僕は一生童貞ですよ。
ねえ神様。今、僕の周りには美女が3人も居るのにどうして手が出せないのでしょうか。教えて下さい…。
「今のお家にあるものはね、いつか皆んなが帰ってきたときの為に、そのままにしておきたいの。」
そうか…そうだよな。
今は、有馬さんの元でお世話になって居るけれど、いつか皆んなでまた、過ごせる日が来るといいな。
「じゃあ、今日はこのお兄さんが何でも買ってくれるって!」
すみれが僕の両肩に手を置いて莉里に話し出す。
髪の毛が舞い、少しシャンプーのいい匂いがした。
「うぇっ⁈ちょっ、勝手に決めるなよ!俺は今金欠なんだよ!」
必死の抵抗も虚しく、僕はこうして服屋へとやってきた。
私服は、有馬の家に大量の子供服があるらしい。
聞くところによると、有馬の家は豪邸だ。
昔からの由緒ある家柄らしい。
本当に一体何者なのだろうか…
今回買うのは、パジャマ。
莉里は、パジャマにこだわりがあるので、買いに行くことになった。
女の子らしいモコモコとした服が好みらしい。
「ねえ!有馬さん!この白い服なんて可愛いくないですか?」
「そうねえ、白い服も似合うけど、汚れが目立つからこっちの黄色い服なんてどう?」
なるほど…女の子とショッピングに来たのは初めてだったが、いつもこんな会話をしているんだな。
これは、今後の僕のデートの参考にしよう。
彼女は…いないがな。
それにしても、有馬さんは子供の扱いがなれている。
最初から、莉里の選んだ服を否定するのでなく、一度肯定してから別の服を提案している。
同い年なのに、子供の扱いにこれ程の差が生まれるのか。
僕は、今日の莉里に対しての最初の態度を悔い改めた。
「ねえねえ、これなんか私にピッタリなんじゃない?」
すみれは普通に自分の洋服を選んでいた。
今日は、莉里の買い物だろうが…
そんなことを考えていても、やはりすみれは可愛い。
長く黒い髪。白い肌。そして、柔軟剤の良い匂いがする。
正直、どんな服を着ても似合うだろう。
「まあ…結構似合ってるんじゃないか?」
少し照れながら答えてやった。
すると、すみれも少し顔を赤らめながら
「あっ、そう。どうも。」と中身のない返事をする。
少し照れてしまった。
誰でも、好きな人と話すときは、こんな気持ちになるのだろうか。
ふわふわしているような、まるで自分がここに居ないような、そんな感じがする。
(やっぱり、君はそういうところがズルイよね。)
ボソッとそんな言葉が聞こえたような気がした。
この頃からだろうか。
僕が、すみれという存在に、違和感を覚えはじめたのは…。




