27話 1万年後また会えたら
その日、不思議な夢を見た。
城の裏にある、大きな原っぱで少年と少女が楽しそうに駆けている。
時折、少年は物珍しそうに昆虫を見てみたり、花の匂いを嗅いでいた。
どうやら、少年は身体が弱く、少し走っただけで、息が切れてしまうほどだ。
「ねえ、スリード。大丈夫?苦しくない?」
優しく声をかける少女の服装は、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
それに対して、少年の方は、貴族の様で格式のある格好をしている。
「ああ、大丈夫だよ。それよりも見てよ!この蝶々!図鑑で見たものとそっくりなんだ!」
少女は少年に微笑みかける。
「僕も早く、病気を治してこの世界の色々なものを自分の目で見てみたいな。きっと、この世界は図鑑に書かれていない、沢山の不思議に満ち溢れているんだ!」
少年は、目を輝かせながら原っぱに寝転んだ。
暖かい気持ちのいい風が、頬を撫でる。
「そうだね。君ならきっと叶えられるよ。でも、旅をする時は、私も一緒に連れて行ってね?」
少女も少年の横に寝そべった。
「え?どうして君もついてくるんだい?」
少女の顔が徐々に赤みをおびていく。
「だって…それは…君のことが--」
風でその先はよく聞こえなかった。
ただ、少年の顔も徐々に赤くなっていったので、恐らく、そういう事なのだろう。
というか、何故、僕は他人の告白で少し恥ずかしくなっているんだ?
これが、共感生羞恥心ってやつ?
ズキン
急に頭が痛み始める。
ズキン
ズキン
ズキン
頭が肩割れるようだ。
目の前が、ノイズが入ったように何も見えなくなる。
ここで、僕の心の中に一つの疑問が浮かんだ。
これは、本当に夢なのかーー
やっと、前が見えるようになったと思ったら、舞台が急に変わっていた。
説明されなくともわかる。ここは、あの少年が住む城の中だ。
窓からは、美しい庭園を覗き込むことができる。
その廊下で、どうやら噂話をする2人のメイドの姿が見える。
「また、王子様がお城の外へ逃げ出したらしいわよ。先ほど、執事が死に物狂いで探しに出かけたわ。」
「また、逃げ出されたの。今月でもう何度目なのかしら。噂によると、城下町の見窄らしい娘と遊んでいるそうじゃない。」
廊下に響かないように交わされたその会話を、聞いている人物が1人だけいた。
その男は、廊下の奥から現れた。
屈強な身体、アゴに蓄えた大きな白い髭、そして、
「息子がいつも迷惑をかけているようですまない。許してほしい、あの子はもう長くないのだ。」
この身体全身に響くような低い声。
まさに、王になるべくしてなったような存在。
慌てふためく、メイドの様子が見てとれる。
『い、いえ!申し訳ございません!ご子息様の噂話など‼︎』
メイドの1人が近くにあった花瓶を割りかける。
危ないところだった…あのポンコツ具合は、ゆりに似ているな。
「長くないからこそ、息子には自由に生きてもらいたい。今でこそ、お騒がせモノになっているが、アレでも昔は、病気のことで塞ぎがちだったのだ。
少しでも、暇つぶしになる様にと買い与えた図鑑を見る様になってからは、よく外へ逃げ出す様になった。」
少し笑いながら、王が話を続ける。
「息子の夢は、世界を自分の目で見ることだ。この世の不思議も、暖かさも、切なさも、恥も。何もかもが息子の前では、新鮮なのだよ。
出来れば、その夢を叶えられる様に…もっと丈夫な身体で…産ませてあげたかった…。」
「王様…どうか涙をお止めください…。」
どうやら、少年の命はもう長くないらしい。
恐らく、少年の世界を見るという夢は叶わないだろう。
そして、あの2人には、いずれ別れがーー
パッと目が覚めた。
知っている天井。ここは僕の部屋だ。
僕は、夢の出来事をハッキリと覚えていた。
またあの夢か--
それにしても、何故、こんな夢ばかりを見るのだろうか。夢にしては物語が出来すぎてはいないだろうか。
まあ、考えてもわからない。
取り敢えず、約束の場所へと向かうとしよう。
土曜日の朝は、最高だ。
今日一日遊び倒しても、次の日はまた休みがある。
今日は、莉里とすみれと有馬さんとショッピングモールで買い物をすることになっている。
勿論、目的はそれだけではない。
昨日、突然身元引き受け人として、現れた有馬と莉里の仲を確かめるためだ。
少しでも莉里が、怯えている様子があれば、打開策を考えなくてはならない。
最悪、ウチで引き取ることになったとしても!
アイツが帰ってくるまで、莉里を泣かすわけにはいかない。
いざ!尋常に勝負!
僕は、ショッピングセンターへ向かうため台場へと足を踏み進めるのであった。
その日、僕は有馬の不可解な言動を度々、耳にすることも知らずに…




