26話 過ぎていく過去
もう二度と会えなくなるわけじゃない。
涙を堪える小さな少女にそう話しかけた。
警察に連れて行かれ、小さくなっていく母親と幸太郎の背中を見つめながら、少女は小さく頷いた。
「お兄ちゃんとはいつ会えるの?」
「さあ、それは分からない。だけど、莉里が大きくなる頃には会えると思うよ。」
事実。幸太郎は人を殺しすぎた。最悪の場合、死刑になるだろう。
ただ、今回のケースだと幸太郎自身が望んで怪物になったわけではない。
この事件には、関係者が多すぎる。
情状酌量の余地があれば……あるいは、死刑は免れても長い懲役刑を課されることは必至だろう……
「私ね、将来の夢。決めた!」
少女が声を絞り出しながら呟く。
「私は、将来お医者さんになる!いつか、お兄ちゃんとまた会えたら病気を治してあげるの!そうすれば、家族みんなで笑顔で暮らせるから!」
その眼には小さな滴が溢れていた。
「そうか、それは立派な夢だね。その夢は絶対に叶えた方がいい。僕も応援しているよ。」
応援している。何という響きの良い言葉だろう。
僕は、この言葉が嫌いだ。
自分は何もしない。けれども、貴方は頑張って成果をあげてね。
成果をあげたその日には、一緒になって喜ぼうね。
と、そう聞こえてしまう。
この子には、今後、犯罪者の家族としてのレッテルが貼られてしまうだろ。
こうした過去の書き換えの出来ない、現実から目を背けないで生きて行かねばならない。
この子の今後を考えると、あまりにも不憫であった。
さて、この子はこれからどこで過ごすのだろうか。
引き取り手は、いるのだろうか、と考えていると1人の女の子がこちらに寄ってきた。
背丈と年齢は、僕と同じぐらい。
長い髪にクリーム色の綺麗な女の人だ。
「莉里ちゃんね。話は、警察の人から聞いてるわ。これからよろしくね。」
そういうと、彼女と莉里は2人で何処かへ行ってしまった。
あの顔、何処かで身を覚えがあるような…
そんな事を考えていると、横で手を叩きながら、すみれが答えを出す。
「有馬さんだ!有馬ひじりさん!」
「あ〜、どこかで見たと思えば、同じクラスの有馬さんだ。いつも席で本読んでるアイツな!」
どうやら皆んなも、僕と同じ事を考えていたらしい。
いつも、本を読んでいて、物静かな有馬さんは、クラスでもあまり目立たない方の人だ。
どういう経緯で、莉里を連れて行ったかは分からないが、悪い人ではないだろう。
同じクラスなら、莉里の様子を知ることもできるだろうし先ずは一安心だ。
その日、色々なことがあり疲れた僕たちは解散し、帰路についた。
翌日、学校に行くと、下駄箱に奇妙な手紙が入っていた。
確か、前にも似たような光景があったのを思い出すな…
恐る恐るその手紙を開けてみると、奇妙な事が書かれていた。
「有馬に近づけ。さすれば、この世界の真理に近づける。」
新聞の文字を切って貼り付けてある。
やはり、差出人は不明だ…
有馬に近づく、か…
莉里の話題を持ち出せば、少しは仲良くなれるだろうか。
そもそもこの世界の真理とは、一体何だろうか。
考えて生きているのに、分からないことが増えていくばかりだ。
どうやら、この手紙の主は、僕に危害を加えるつもりは無いらしい。
この手紙の意図は、分からないが、この世界を知るためになら、何だってやってやる。
そうだ!莉里の話題を出すなら、すみれにも協力してもらおう。
確か、すみれと莉里はかなり仲が良かったはずだ。
その後…僕達は恐ろしい事実を知ることになる。
それは、僕が「忘れていた」とある記憶の物語へと繋がっていく…




