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23話 悲しみの夜へ

きりの良いところまで書こうとしたら長くなりました。

 時は夕暮れ。

 赤い太陽が、高い建物の奥へと落ちていく。

 空は低くなり、少しばかり気温が落ちていった。


 今日は遂に、あの病院の院長と、面会をする機会をもうけることができた。


 やはり、院長と言うだけあって昼間は忙しいらしい。

 面会の条件はただ一つ、幸太郎を呼ばない事だった。


 僕は幸太郎を病院に近づけさせないように、翔太郎と遊ぶように仕向けた。


 勿論、莉里はゆりと、すみれに面倒を見るよう任せてある。

 作戦は完璧だ。


 そして、もう1人、僕と共に院長と面会を許されたものがいる。

 

 今は、そいつと待ち合わせをしているのだが…


 「おーい!遅れてごめんよ!」


 片耳にピアス。そして、派手髪。


 こいつの名前は、下田カイト。


 しがないコンビニ店員であり、僕の同級生だ。


 カイトと幸太郎は親友同士だ。

 僕にわからないことがあったとしても、カイトが気付いてくれるだろう。

 

 そのことに期待して今日は呼んだが、もう一つ理由がある。


 カイトは正義感が人一倍強い。

 何故だか分からないけどね。


 僕は、あの院長が正直めちゃくちゃ怪しいと思っている。


 変な行動や、許されない発言をした時にカイトに手助けをしてもらおう。

 その為に呼んだんだ。


 遅いぞ。と言いながら中へ入る。


 受付の人に用を話し、部屋へと案内してもらった。


 「すっごい綺麗な部屋だな。」


 どうやらカイトはこの部屋の綺麗さに感心しているようだ。


 木彫りの机に、高そうな照明。

 外は暗い事も相まって、不思議な雰囲気を感じる。

 まるで、校長室のようだ。


 ふかふかのソファーに座る。

 腰まで沈み込むようだった。


 ただの高校生との面会なのに、この部屋は豪華すぎやしないか?


 それとも、ただ単に客人用の部屋が一つしかないなのか。

 そんな事、今はどうでもいい。

 今日は、幸太郎と院長の間に何があったのか。

 

 それをハッキリとさせに来たのだから。


 ガチャ


 木で作られた扉がゆっくりと開く。


 「やあ、ごめんね。遅くなってしまって

 僕の部屋へようこそ。」


 ニッコリとしたその笑顔は、何処か裏の顔があるようにも思えた。


 僕たちは立ち上がり、挨拶をした。


 「今日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。」


 良いんだ。気にしないでくれ。そう良いながら院長も席へとついた。


 「それで、話とは何かな?」


 ここは、いきなり本題へと切り込んでいくべきか、それとも他愛の無い話をしてから本題へと移るべきか。

 そう考えていた時、


 「今日は、幸太郎くんの事についてお聞きしに来ました!」


 カイトが物凄く元気に院長へと言葉を投げつけた。


 こいつを連れてきて良かったよ。

 僕は心の底からそう思った。


 一瞬。院長の表情が曇る。


 僕は、その表情を見逃さなかった。

 間違いない。この人は何かを隠している。


 「悪いけど、僕からは何もいう事はできないよ。

患者様のことなら尚更ね。

 僕だけでの問題ではないから…」


 院長は頑なに幸太郎について、話をしようとはしなかった。


 どうにかして、この状況を打破出来るものはないだろうか…


 僕は必死に考えた。


 隣では、カイトが必死に院長を説得しようとしている。


 今日。この機会を逃すと、恐らく、もう二度と面会の機会を与えてはくれないだろう。

 大人とはそういうものだ。


 この膠着状態の状況を打破できる方法は一つだけある。

 ただ、この話をしてしまうとカイトにも聞かれてしまう。


 なるべく、自分と部活の仲間での情報で留めておきたかったが、今はそんな事で迷っている状況ではないだろう。


 僕は、意を決した。


 どの道、カイトは幸太郎の親友だ。

 話をすれば分かってくれるかもしれない。


 僕は、院長をまっすぐ見て、睨むように質問を繰り出した。


 「院長さん。彼は、幸太郎君は狼男なのではないでしょうか」


 口論をしていた二人が話を止める。


 カイトは口を開けたまま、コイツは何を言っているんだ?という表情をしていた。

 

 無理もない。

 この世界には、不思議な体験をした奴と、そうでない奴に二分されているのだから。


 実際に、僕も不思議な体験をしていなければ、今の自分の発言にも、自信を持つ事が出来なかっただろうし。


 「な…何を言っているんだ。鈴木君。狼男なんているわけがないじゃないか。

 そんなバカな事を聞きにきたのであれば、僕は退席するよ」


 どこまでもしらばっくれるつもりか。この人は…

 

 院長の態度に、僕は腹が立ってしまった。

 

 「いえ、狼男は実在しますよ。僕は見たことありますから。

 僕達は、あの時の狼男が幸太郎君なんじゃないかって聞きにきたんです」


 院長は、頭を抱えた。

 その顔は、もうこれ以上は逃げられない。

 そう言っているようだった。


 「だとしても、何故それを僕に聞こうと思ったんだ?」


 この人が何かを隠している。

 その確証があったわけではない。


 ただ、ここへ来る前、僕はカイトからとある情報を仕入れていた。


 幸太郎が、この病院に長いこと入院していたというその事実。


 長い間、幸太郎君と共にいたこの人なら何か知っているかもしれない。


 ただ、それだけの事だった。


 「感ですよ。ただの」


 僕の隣に、未だにこの状況を理解できていない人がいる。

 だが、今は放っておこう。後で、説明してやるから。


 暫くしてから、院長は僕達に全てを話してくれた。


 「僕は、医者だ。困ってる人を幸せにするのが医者としての、責任だ。

 そう考えて、毎日、患者さんを幸せにする手伝いをしてきた。

 そんなある日、病弱な男の子が病院へと運ばれてきた。

 その子は、外へ遊びにも出られず、同い年の友達もいない。

 唯一の話し相手は、僕だった。

 話しただけで分かったよ。彼はとても優しい子だってね。」


 院長の表情が和らぐ。


 僕も、彼がとても優しい事は知っている。

 とても面倒見が良く、妹の為ならなんでも惜しまない。そんな奴だ。

 そんな奴だからこそ、何かで悩んでいるのなら、力になりたい。


 「暫くしてから、彼の体調が安定しない日が続いた。精密検査の結果、彼が生きていける時間はそう長くない事を知った。

 悲しかった。本当に悲しかったよ。

 そして、僕の独断で母親に伝える前に、本人に先に伝える事にしたんだ」


 死ぬという事を、本人へと伝える。


 恐らくこれは、両者とも辛かっただろうな。

 特に、二人は長く共にいただろうから……

 

 院長の眼から涙が溢れる。


 「僕は、彼に君の命はもう長くない事を伝えた。

そうしたら、彼は何て言ったと思う?」


 僕達二人は、顔を見合った。


 「お礼を述べたとかでしょうか?」


 カイトが呟くようにそう答えた。


 僕は、黙ってその話の行く末を聞く事にした。


 「違うんだ。彼は、『僕は、幸せだったよ』とそう言ったんだ!

 幸せなものか!外へも行けず、友達もおらず、ただ、白いベッドの上で1日を過ごす。

 そんな毎日が幸せなはずが無い。

 彼は…優しすぎるんだ……怖いぐらいに」


 幸せ…か。幸せの定義とは、人それぞれである。

 お金持ちの幸せも、貧乏な人の幸せも、それぞれの定義がある。

 幸せを知らない僕が言うのもあれだが、彼は幸せの定義が狭すぎたんだと思う。


 きっと、彼にとって幸せとは。


 毎日を生きることだったのだろう……

 

 この世界には、普通に生きるということでさえ、願っても叶わない人がいる。

 そういう人がいるという事を、改めて知った。


 「それから僕は必死になって心臓のドナーを探したんだ。

 彼に、もっと幸せになってほしいとね。

 少なくとも、人並みの幸せを。と。

 そして、ある日、とあるルートで心臓の提供者が現れたんだ。

 それが、狼男さ」


 僕は、カイトがどんな表情をしているのだろうと、覗き込んで見た。


 未だに、信じられないという顔をしている。

 まあ、これが普通の反応なのだろうがね。

 

 「狼男は、一つの条件を提示してきた。

自分の心臓を渡す代わりに、莫大な金を要求してきたんだ。

 勿論、取引は成立したよ。

 彼を救う為ならどんな事でも惜しまないと、そう決めたからね。

 そして、僕は母親にも承諾を貰って心臓の手術をしたというわけだ。

 だが、これには多くの問題があった」


 暫くの沈黙が続く。

 部屋には、壁にかけられた時計の秒針が響いていた。


 「一つ目の問題は、狼男の特性だ。

狼男とは、人の脳を食べてその自我を保ち生きている。脳を食べなければタダの狼になってしまうからね。

 二つ目の問題は、その寿命だ。本来、狼男の寿命とはそんなに長く無い。持って30年ぐらいだ。

心臓を提供してきた男の年齢は、20代前半だった。

勿論、臓器にも寿命がある。

 せっかく、移植したとしてもその臓器の寿命がきてしまえば…」


 確か、幸太郎が心臓の手術を受けたのが、8歳ぐらいの頃のはず。

 

 つまり、幸太郎の寿命は…


 「持って後、数年かもうすでに尽きかけている」


 「それは…幸太郎は知っているんですか?」


 カイトが立ち上がりながら、答えを問う。


 「いや、知らないはずだ。

 何せ、私も知ったのは彼が退院した後だったから…

 そして、最後の問題点だ。

 これが最も重要で最も悩ましい問題だ」


 …もうやめてくれ。


 正直、彼は、狼男であって欲しくはなかった。

 心のどこがでそんな事はないと。

 そうであって欲しくはないと、そう願っていた。

 

 だからこそ、一番合っていて欲しくない答えがわかってしまう。


 「どうした⁈おい!鈴木!どうしたんだよ!」


 下を向いたまま動かない俺をカイトが必死に起こそうとする。


 頼む…今は、泣かせてくれ…


 「狼男は本来、人を食べてその姿を保つ生き物だと話したね。

 心臓の移植先は、人間。

 つまり、長い間は人を食べずともその姿を保つことができたんだ。

 だが、長い年月を経ていくごとに、身体は狼男の体に変化していった。」


 「どうして…そんな事が」

 カイトがそう言葉を溢す。


 「心臓のせいだよ。心臓とは、第二の脳と呼ばれるんだ。

 それはね、心臓にも記憶が残るからだ。

 狼男の心臓であった時の記憶が、幸太郎君にも長い何月をかけて影響を及ぼしていったんだろう。

 そう確信したのが、2ヶ月前から起こっていた連続殺人事件のニュースを見た時さ。

 あの完璧な犯行は狼男のもので間違いない…」


 「彼は、狼男になってしまったんだ…」


 その言葉を聞いた途端、カイトは走り出した。


 恐らく、幸太郎のところへだろう。


 今、カイトと幸太郎を出会わせてしまえは、全てのことを話してしまうだろう。

 

 それが例え、妹の前であったとしても…


 「院長は、幸太郎が狼男になるかも知れないって思わなかったんですか!」


 「思ったさ、でも狼男は、こう言ったんだ。

『この世界は、数十年に一度世界が壊れる事を繰り返す。それは、君のせいではない』とね」


 なんだって?世界が壊れる?

 それってもしかして…

 いや、今はそんな事を考えている場合ではない。


 カイトを止めに行かなければ!

 

 皆んなの待つ公園へ、僕は走り出した。


 綺麗な満月を背に向けて……

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