2話 過程
「こちら、どうぞ!」
校門を少しくぐったところで、在校生から入学式のパンフレットを貰った。
僕は、そのパンフレットに目を通し、会場の位置を確認する。
入学式は体育館で行われる予定だが、その体育館は本館の三階に位置している。
「相変わらず、この学校は広いよな〜」
両手を頭の後ろに抱えながら、翔太郎は呟く。
「確かにそうだな、まあ、私立だし昔に統合もしたとか、高校の説明会でも言っていたな。」
めんどくさそうに僕は答えた。
校舎に入ると、土足で上がっても良いように、緑色の布が敷かれていた。
古びれた階段を登り、体育館へと入る。
座席には自分の受験番号が書かれていたので、その通りに着席した。
背もたれと、尻をつける部分が申し訳なさそうに柔らかいパイプ椅子だ。
(教室の椅子もこんな感じだったら良いのに。)
そんな、小さな文句を頭に思い浮かべていると後ろから肩を叩かれた。
「同じクラスで良かったね。」
少し笑顔で話しかけてきたこの子は、浅村ゆり。
ゆりとは、幼稚園からの幼なじみだ。
「お前、髪を切ったのか?前は、もっと長かっただろ?」
「まあね、高校生になるから、イメチェンってやつ?一度、肩ぐらいの長さにしてみたかったんだ。」
何故か、ゆりは得意げにそう話す。
「良かったな、その長さだったらボディーソープで髪の毛を洗えるな。」
「つまらない冗談を言うなら、似合ってるぐらい言いなさいよ!」
そんな下らない会話をしていると入学式が始まった。
まずは、校長先生のありがたい話、大抵こういう地位にいる人の話は、長い上につまらない。
その証拠に、俺の左に座っている女子生徒は眠っている。
入学式で眠るとは、何という肝っ玉の座っているやつだ。
「続きまして、生徒会長のご挨拶です。」
アナウンスが流れた後、眼鏡をかけた生徒がマイクの前に立つ。
「皆様、ご入学おめでとうございます。生徒会長の真庭はじめです。」
なるほど、生徒リストの出所は、この人だったのか。
はじめ兄さんとは、昔よく遊んでいたが、まさかこの学校の生徒会長になっているとは、思いもしなかった。
サッカーをやる時、ボールが無いからとスイカを持ってきたり、かくれんぼの時は鬼のくせに、先に家に帰ってるような人だ。
そのくせ頭は良いので謎である。
そんな昔のことを思い出していると、いつの間にか入学式が終わり自分の教室にいた。
僕の席は窓側の一番後ろ、というわけにはいかず、真ん中の列の後ろから二番目になった。
人生そう甘くはない。
まだ初日ということもあり、教室は静寂に包まれている。
僕の席の周りを除いては…
「なあ、ゆり!イトーヨーカドーのフードコートで、BIGフライドポテトが食えるらしいぞ!」
「なに⁈それは行くしかないね!芋は人間のガソリンだよ!」
教室のど真ん中で、女子がそのような発言をするのは、いかがなものか。
彼らの会話を聴きながら、朝見た例のあの子を探す。
どうやらこのクラスには居ないらしい。
生徒会長の話によると、今年度の入学者数は、約400人。
まあ、都内の高校ならこれぐらいが普通だろう。
校長も朝言っていたが、一年で一クラス分の人間が退学するらしい。
僕たちはG組。一学年10クラスなので、残りの9組を探せば、簡単に彼女を見つけることが出来るはずだ。
…ふと、僕は我に帰る。
なぜ、僕は彼女を探しているんだ?
別に、一目惚れをしたわけでもない。
目があったわけでもない。
それなのに、僕は彼女に会わなければならないと感じている。
会って、声を聴かなければならないと、心の中で誰かがそう呟いている。
運命だとか、偶然だとか、そういう言葉は僕は嫌いだ。
それまでの過程を無下にしているように感じるから。
しかし、僕は今後、思い知ることになる。
運命も奇跡も偶然も、たった一度の人生の中でなら、重なってみても良いものであるとー