19話 両の手は腰に。
「おはよう!」
朝礼前に、カイトが俺に話しかけてきた。
大方、話の内容は予想がつく。
狼男の件だろう。
カイトの話によると、殺人事件が起こる場所はバラバラで、現場には何一つとして証拠を残さないらしい。
当然だが、犯行時間は夜の9時以降……
月がとてもきれいに見える時間帯だ。
以上の情報から僕たちはとある一つの作戦を立てることにした。
名を……「しらみつぶし作戦」という!
作戦名通り、夜の9時以降街の中をしらみつぶしに散策するというものだ。
そして、標的を発見した際には、必ずもう一方の方に連絡を入れること!
完璧な作戦だ!間違いない。これで犯人を特定することができる。
僕は早速、この作戦を青楽部の皆んなに伝えた。
「あほか。」
ため息混じりの声を吐き出しながら、翔太郎が呟く。
「愚作ね。」
間髪入れずにゆりが口を開いた。
すみれは、僕のことを呆れたような目で見ているだけだ。
お願いだ……何か言ってくれ!
「狼男ってのは嗅覚が鋭いんだぞ!四方八方にお前らの匂いがついていたら、狼男はどんな行動を取ると思う?」
そう言いながら翔太郎は、コーヒーを淹れ始める。
「そうだな。一番匂いの濃い場所に行きソイツを食い殺すとか?」
確かにその可能性もあると言いながら、翔太郎は首を縦に振った。
「だがな、ここで一番恐れなくちゃならないのは、犯人が逃亡することだ。」
逃亡だって?なぜ、辺りを散策したら犯人は逃亡をすると思うんだ?
翔太郎はやれやれと僕を下に見るようなジェスチャーを交えながら話を続ける。
「四方八方におんなじ奴らの匂いがあるってことは、自分が嗅ぎ回られていると言うことを意味している。つまり、この町での狩りは、もう出来なくなったということなんだよ。
だからこそ、狼男は次のまた後移動してしまうことになる。」
なるほど…
確かに翔太郎の言っていることは、正しいな。
けれども、そうすると一体どうやったら狼男の正体を暴けば良いのだろうか。
作戦はまた振り出しに戻ってしまった。
そう思った矢先、翔太郎が驚くべき言葉を口にする。
「犯人はこの学校の生徒の可能性が高い。」
この発言には、教室の中にいた他の2人も驚いていた。
「あら、どうしてそう思うのか説明してごらんなさいな。」
この女はどうしてこうも上から目線なのだろうか……
そんなことはお構い無しと、翔太郎は自分の見解を話し始めた。
要約をするとこうだ。
まず第一に、この世界に入った時、違和感を感じたのは、この学校の生徒のみであったこと。
第二に、街にはなんの異常も見られず、変わったところが一切無かったこと。
第三に、テレビでは、狼男による犯行ではなく、「殺人事件」として、報道されていたこと。
そして、最後に琥珀歌の件だろう。
後にも、先にも、現実世界の能力とは思えない物を有していたのは、「この学校の生徒」である琥珀歌だけであった。
そして、テレビでの報道の件。
もし、この世界で通常では、有り得ない物の存在が認識されていたとしたら、伝説である、狼男の件も認識さているはずである。
つまり、この報道が狼男の犯行による物であると言う疑いすら掛けられていないのは、現段階ではおかしいと言うのが翔太郎の見解だ。
まあ、狼男の人数が少なく認識さてていなかったと言ってしまえば、それまでなのだろうがな。
とにもかくにも、無闇に探し回るのは余計に面倒な事になるからヤメロということなのだろう。
そして、翔太郎は言っていた……
犯人はこの学校の生徒であると。
「犯人は、俺たちと同じクラスの飯竹幸太郎だ」
おいおい、待てよと。
僕の方からその言葉が出てしまうのも無理はない。
「飯竹とカイトは友達なんだぜ?第一、あの親切心に溢れたカイトが友達の異変に気付かないわけないじゃないか」
僕がそう反論をすると、翔太郎はまた、コイツは分かってないなという表情を見せる。
「一つ君に問おう。もし、狼男の姿になっている時だけ、その記憶が無かったら?
本人も自分の異変に気が付かないのではないか? そもそも危機管理能力に優れた獣人であるならば秘密ごとの一つや二つは隠し倒せるだろう。」
自分は間違っていないという自信が満ち溢れている。
全く、どうしてそんな自信を持てるのだろうか、僕にも秘訣を教えてほしい。
「今夜から作戦開始だ。鈴木!お前が飯竹をストーカーをするんだ!!」
ハッキリ言っちゃったよ、ストーカーって。
まあ、殺人に比べたらそんなの毛ほどの罪にもならないだろうけどね。
「翔太郎。一つだけ教えてくれ。どうして、飯竹だと思うんだ?」
翔太郎は、両の手を腰に当てて自信満々にこう答えた。
「あいつが犬臭かったからだ!!!」
僕は一気にやる気を失った。




