18話 ヒーローと狼男
「いらっしゃいませ〜」
気の抜けたコンビニ店員の声が店内に響く。
さっきの怪物はなんだったんだ⁈
人か?いや、言葉は話したが、あの姿は人間ではない!
どのくらい走っただろうか、僕の体には先ほどの状況を整理できるほどの酸素は残っていないらしい。
「お客さん、大丈夫っすか?顔色悪いっすよ?」
少しおちゃらけた店員が僕に歩み寄る。
聞き覚えのあるその声に僕は急いで顔をあげた。
「お前…下田か⁈」
この少しおちゃらけた店員の名は下田カイト。
同じクラスメートで最近よく話をする仲だ。
将来の夢は正義のヒーローらしい。頭がいっちまってる。
でも、そんなところが気に入っている。
「どうしたんだよ?その顔色!少し事務所で横になるか?」
レジに並んでいるお客さんをほっといて僕に話しかける。
「いや、大丈夫だよ、それよりもほら、接客して!」
友達に迷惑をかけまいと、下田を追い返そうとする。だが、正義のヒーローを目指している彼はこんな事では食い下がらなかった。
「そんなこと言わずに!悪いものでも見たような顔してるよ!ほら、中へ!」
あながち間違いではない指摘をしながら彼は事務所へと案内をする。
こうなってしまっては仕方がない。彼は一度言ったことは曲げないタイプだと知っている。
「すまない。じゃあ、お言葉に甘えて少しだけ横になせてもらうよ。」
事務所に入ると、無残に並べられたパイプ椅子と長机が置いてあった。
「ほら、簡易的なベッド作ったから!俺たちも夜勤の時はこれで休憩するんだ!」
自信満々に見せられたそのベッドは、とても贅沢だと言えるものではなかった。まあ、当然なんだが。
礼を言うと彼はまた、レジの作業へと戻る。
部屋のモニターに目をやると、監視カメラの映像が映った。
夜遅いこともあってか、店内には殆ど人がいない。
どのくらい経っただろうか…
頭もスッキリしてきて、状況を色々整理出来るようになってきた。
ガチャ
事務所の扉が開く。
「いや〜、先輩がさ、友達のそばにいてやれってうるさいから、早めの休憩もらったよ。
それで?何があったの?」
化け物が現れて、そいつの右手には人の頭があり日本語を話した。と言ってもコイツは信じるだろうか?
いや、信じないだろう。
ここは適当なことを言って切り抜けるかと、考えていたその時、下田が衝撃的な言葉を発する。
「ん〜、もしかしてだけど、狼男でも出た?」
僕は固まった。
何故だか知らないが、この男にはこれ以上のことを知られてはいけない気がした。
「狼男?なにそれ、そんな奴がいるわけないだろ」
そうだ。僕はこれでいい。知らないフリをしよう。
下田は少し考えた後、ため息混じりにこう答えた。
「実はさ、例の連続殺人事件なんだけど、その狼男が原因なんだ。」
僕はまた固まった。
嘘をつくな。と言いたいところだが、実際にこの目で見てしまっている。
下田の言っていることは事実だ。
「君はその目で見たのか?」
彼は携帯をいじる手を止め、話始める。
「1ヶ月前のことだ。俺がバイト終わりに道を歩いていると、衣服を引きちぎるような音が聞こえた。
その音が気になった俺は、細い路地へと進んだ。」
もういい。やめてくれ。話流れは大体わかる。
「どうせその路地には、死体と狼男がいて、お食事中だったんだろ?」
話を遮られた文句も言わずに彼は、黙って頷いた。
狼男か…
狼男といえば、満月の夜に人間の姿から狼の姿に変身して、人間に危害を加える怪物のことか…
そういえば、翔太郎もこの殺人事件を追っていたな…
もしかして…アイツは正体を既に知っていた…?
今度詳しく聞いてみるか。
「俺さ、このままアイツを放っておけねえよ。犠牲者がこれ以上増える前に捕まえなきゃ!」
あ、この展開はアレか。また面倒くさい展開のやつだ。
「お前さ、なんかよく分かんない部活の部長だったよな⁈相談したらなんでも解決してくれるって部活の!」
なんだそれ?部活の内容を知らない生徒にありもしない話をでっちあげられたのか⁈
「だからよ!俺と協力して、その狼男をとっ捕まえてやろうぜ!協力してくれよ!なっ⁈」
友達にこんなに頼られたのは人生で初めてだ。しかし、両親からもらった大切なこの命を狼男に譲る気は無い。
「悪いけどお断りするよ。部長としての尊厳よりも自分の命の方が大事なんでな。」
下田と出会ってからまだ二週間程度、悪いけど友人関係は今日でおしまいだ。
「この件が終わったら女の子の友達作りに協力しよう。」
「これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。この街の人間は僕たちで守るぞ。ブラザー。」
さすが友人だ。僕の一番欲しいものをよくわかってらっしゃる。
学校が始まって暫く経つが、女子の友人と呼べる人は、ゆりとすみれぐらいしかいなかった。
僕たちは早速、下田と部活のみんなとで会議を開くことにした。
僕はまだ知らなかった…
この選択が一人の人間の心に大きな穴を開けてしまうことを……。




