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15話 世界の脇役

 この神社に来てから30分がたった。周りはもう暗くなり始めてる。


 「私には、双子の妹がいた。その子は、とても臆病で友達もいなかったんだ。」


 歌が初めて自分の妹のことを語り始めた。

 僕は、その様子を黙って見守る事にした。


 「私は、どちらかと言うと明るくて友達も多くいた。妹とは、正反対だね。性格は真逆だけれど、仲は良かったよ。」


 彼女の性格がとても明るいのを僕は知っている。

 だからこそ、この雰囲気にとてつもなく違和感を感じた。


 「小学1年生の時ぐらいかな、私達は音楽を始めた。妹はヴァイオリンで私はピアノ。正直に言うと、私には才能があった。コンクールでは常に入賞し、将来を期待されていたんだ。そのことを言うと、母さんにはいつも喜ばれたよ。」


 彼女のその自信家な性格は、恐らくこの時の経験から身についてきたんだろうな。

 僕とは正反対な人生を歩んでいる。


 「そんな日が続いたある日、妹もコンクールに出る事になった。ほら、妹は臆病だから怖がっちゃってさ。それで、お母さんと私と妹で月にお願い事をする事にしたんだ。」


 「そのお願いってのは、僕も聞いていいやつ?」


 「もちろん。君にも関係ある事だ。」


 僕にも関係がある?彼女の言っていることが、僕には理解することができなかった。


 そんな事もお構い無しに彼女は、話を続ける。


 「お母さんの願いは、家族が幸せに暮らすこと。妹の願いは、発表会を無事に終えることだった。」


 そこで初めて彼女の言葉が詰まる。自分の願いは語りたくないのだろうか。


 正直、僕は羨ましいと思ってしまっている。

 夢がない僕にとって、何かを一生懸命に追い求めている人は、とても輝いて見えるからだ。

 僕も夢が欲しいと思っている。

 ただ、やりたいことがないだけなんだ。


 「君の願い事を僕に教えてくれないか?君の願いを知りたいんだ。」


 彼女は、膝を抱えて軽く(うずくま)った。

 しばらくの沈黙が流れた後、力の弱い声で話し始める。

 

 「私は……妹に友達が出来ますようにと願った。」


 「君は優しい人じゃないか。なにも不安がる必要はないよ。」


 「ありがとう。母さんもそう言っていた。ただ、この願いが普通の人間の願いならね。」


 普通の人間?どう言うことだ。

 その瞬間、僕の頭の中で昨日の手紙の文字を思い出す。


 【この世界は、バグで出来ている】


 間違いない。

 彼女は……歌は、この世界のバグだったんだ。


 「普通の人間なら、ってどう言うことだ?」


 彼女は、静かに、こちらに目線を向けた。

 その瞳には、少しばかりの涙が溜まっていた。


 長い髪に付けられたシュシュが月に照らされて、美しく輝いている。


 「驚かないで聞いて欲しい。」


 「驚くものか。僕は君を信頼している。なにを言われても受け入れる覚悟でいるよ。」


 彼女はありがとう。と言った。

 そして、もう一度月を見上げて涙をこぼす。

 月に照らされたその涙は、長い時間をかけて落ちていった。



 「陽太。私はもう死んでいるんだ。」


 その言葉は彼女の星を涙で濡らした。

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