14話 記憶の風
この世界は、バグで出来ている?
何だこれは?
数ヶ月前の僕であれば、誰かの悪戯だとすぐにその紙を丸めて捨てていただろう。
だが、琥珀歌の件のこともあり、一概にこの文字のことを馬鹿には出来ない。
差出人が不明で、タイピングで打ち込まれてしまっては、手紙を書いた本人を特定するのは難しいだろう。
僕は、その紙を鞄にしまった。
次の日、琥珀歌にそのことを話した。
最近は、毎日話をしている。プライベートなことにはあまり関与せずに、その日にあった出来事とか、趣味とかありきたりなものだ。
「昨日さ、こんな手紙が入ってたんだよね。」
そう言いながらその手紙を歌に見せた。
歌はその手紙を見ると、少し不思議そうな表情を見せた。
「今時、こんな悪戯する人がいるんだね〜。」
「僕もそう思うよ。差出人は不明だし、筆跡でわからないようにpcも使ってる。」
「悪戯にしては、結構凝ってるんじゃない?」
確かに、彼女の言う通りだ。
個人が特定されないように細工を仕掛け、必要な部分だけを伝えている。
何より、このバグの正体が歌だとするならば、この差出人は、この世界に詳しい人間のはずだ。
なにも違和感を覚えずに、学校へ来ているこのクラスメートの仕業だとは思えない。
取り敢えず、あいつらには、この紙のことは伏せておこう。
また、面倒くさいことに巻き込まれそうだ。
紙の件は、置いておいて今は、歌のことに集中することにした。
問題は一つずつ潰すべきだ。
とは言っても、この件にこれ以上時間をかけることはできない。
僕は思い切って妹の件について触れる事にした。
「なあ、お前の妹についてーー」
「今日の放課後さ、時間ある?」
僕の言葉を遮るように歌が問いかける。
これは、今は話したくはないという意思表示のようなものなのだろうか。
「うん。あるよ。」
最低でも、放課後に話をする時間を作ることができたのは良しとしよう。
「それじゃあさ、学校の横にある神社に来てよ。そこで、少しお話ししよう。」
僕は、なぜ神社で話をするのか訳がわからなかったが、妹の事について聞き出そうと必死だったので、了解の旨を伝えた。
放課後、遂にその時がやってくる。
翔太郎には、今日で決着をつけてくるとそう告げていた。
あいつは、最近話題の連続殺人事件で頭が一杯だったがな。
神社は、学校から歩いて5分ぐらいのところにある。
地元では、結構有名な神社で御利益もあるらしい。
ある1人の男性が、この神社でお願い事をした後、妻の病気が治ったとか。
そんな噂を聞いた。
神社に着くと、歌が腰掛けていた。
「待たせた?ごめんね。」
「全然待ってないよ。」
デートの待ち合わせみたいな会話をした後、歌が口を開く。
「まだ、5時前だけど、こんな時間でも月って結構光ってるんだね。」
僕は、空を見上げた。
近くに街灯もないこの神社から見る空は、とても美しく輝いていた。
「確かに月が綺麗だ。」
「なに今の?私に告ったの⁈」
彼女が笑いながら僕を叩く。
「違うわ!本当に月が綺麗だと思っただけだ!」
僕は、全力で否定をした。
僕が好きな人は、そう。あの人だけだから。
「人はさ、月のことばかりを見て、太陽のことは綺麗だと言わないよね。」
そう言われればそうだ。
周りに、太陽を直接見て、今日は太陽が綺麗だね!だなんて言ってる奴は、見たことがないな。
歌は、星の数を数えながら続けた。
「太陽はさ、月と違って儚くないんだよ。日によって見える形も変わらないし、暗闇で光ってるわけでもない。明るい空でも一番光り輝いてるんだ。」
「僕は、太陽のことも綺麗だと思う。」
「私もそう思う。ただ、人間は愚かで、失ってからその大切なものに気がつくんだ。大切なものほど近くにあるって言うけれど、まさにそれだね。」
どうして、今日に限ってそんなことを聞いてくるのだろう。
妹のことを話すために、僕を試しているかのように思えた。
「君はさ、太陽と月どっちが大切?」
少し、悲しげな表情を浮かべながら、彼女は僕に質問してくる。
太陽と月か……
太陽は、命を生み出しその命を育む。
月は、その命に安らぎを与える。
どちらかを選べと言われれば、僕は太陽を選ぶだろう。
でもこれは、例え話のようなものであって、選ばなかった方が無くなるわけではない。
自分に今、必要な方を選ぶべきだ。
僕は、今安らぎが欲しい。
母さんを失ったあの日から僕には、安らぎの時間がない。
「どちらか、大切なものを選べと言われれば、僕は月を選ぶかな。」
僕には、彼女がやっぱりね。と言ったかのように思えた。そんな顔をしていた。
彼女は、遠い空を見つめながらその思い口をゆっくりと開いた。
「私達にとって……私の家族にとって、月はとても特別なものだった。月を見ると今でも思い出す。あの頃の懐かしい景色を……」
6月の肌寒い風が僕の頬を撫でる。
その風は、草むらをかき分けまだ薄暗い空へと帰っていった。




