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13話 月夜の日に

今から約10年前、古い屋敷の縁側に1人、腰掛ける女性がいた。


 ータッタッタッタッタッ


 1人の小さな女の子が、パジャマ姿で女性に抱きつく。


 「ねえ、お母さん。何みてるの?」


 その小さな女の子の髪の毛には、赤いシュシュがよく似合っていた。


 「こら!歌ちゃん。廊下は走らないでって言ったでしょ。」


 「ごめんなさい。」


 小さな女の子はとても反省しているように見える。


 「お母さんはね、今お月様を見ているの。」


 「お月様を見ると何かいいことがあるの?

 

 小さな女の子は純粋な疑問を投げかける。


 「あるわよ。沢山あるわ。例えば、お月様には兎さんがいるの。お餅をペッタンペッタン上手に叩いているのよ。」


 「そうなの⁈兎さんがいるの!一緒にお餅作りたい!」


 「そうね。いつか、お月様へ行けたら兎さんとお餅を作りたいわね。」


 女性がチラッと障子の間に目をやる。


 その隙間から、また別の小さな女の子がこちらを覗いていた。


 「音ちゃん。こちらへいらっしゃい。」


 手招きをして、縁側へ腰をかけるように促す。


 その女の子は、少し長い髪を背中に垂らしながら、恐る恐る縁側へと腰をかけた。


 「寒い?」


 女の子は、首を横に振る。


 「そうだわ!」


 女性は、何かを閃いたかのように話し始める。


 「2人とも、お月様にお願い事をしましょう!」


 「お月様へお願い?どうして?」


 「だって、お月様は無くならないもの。どこへも行かないもの。何年時間が経っても、月は必ずそこにあるのよ。」


 嬉しそうな顔をしながら話を続ける。


 「お月様へお願い事をすれば、いつか、お願い事を忘れても、誰かがふとした時に思い出すかもしれないでしょう?3人いればきっと忘れないわ!」


 小さな女の子達は笑った。


 「お母さん意味わかんなーい。」


 「でも、これ楽しそうだよ!」


 「そうでしょう?お母さんのお願い事は、家族みんながずっと幸せに暮らすことです!音ちゃんはお願いある?」


 「私は……」


 その小さな女の子は、自分の願いを告げる前に黙ってしまった。


 「音ちゃん。自分の思いを誰かに伝えるのは、恥ずかしい事ではないわ。人は心を読めないの。考えるよりも、言葉でしか伝えられないことの方が多いのよ。」


 それでも女の子は、俯いたままだ。


 「人はね、会話をして記憶することが出来る生き物なの。最初に、月に兎がいることを見つけた人も、誰かに教えて巡り巡って今、私たちが知ることが出来たの。」


 女の子は月を見上げた。


 「知らない人の言葉も聞くことが出来る。伝えるという事は本当に素晴らしい事なのよ。」


 その言葉を聞くと、女の子は少し恥じらいながら自分の願いを月へと伝えた。


 「皆んなに……皆んなに私のピアノを沢山聴いて欲しい。皆んなが、私のピアノを聴いて嬉しくなってくれたら良いなって……思います。」


 「うん。よく言えたね!偉いよ。歌ちゃんのお願い事は何かな?」


 赤いシュシュの女の子は元気よく立ち上がる


 「お月様!私のお願い事はーーです!」


 彼女のそのお願い事は、2人を困惑させた。


 しかし、少しの沈黙の後に歌が口を開く


 「お姉ちゃん。ありがとう!」


 「あなたって子は、本当に優しいのね。妹のことをよく見ているのね。偉いわ。」


 母親は、その両の手で子供達を抱きしめた。


 「2人はずっと一緒よ。悲しいのは半分こ。嬉しい時は、人の2倍喜べるわ!」


 月の光は、3人の笑顔を照らした。


 「お母さん、私、来月の音楽発表会いっぱい頑張る!」


 「じゃあ、お母さんはいっぱい音の事を応援するわね!」


 「私も音のこと応援する!」


 3人の笑い声は、月にまで届いたかのように思えた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「それで、鈴木。何か進展はあったか?」


 僕は、部室にいた。今日は、週に一回開かれる会議の日だった。

 とは言っても、毎日この部室にいるわけだから、実際には、この会議に意味はない。


 「進展は結構あったよ。普通に仲良くなったし。」


 「キスでもしたのか?チュッチュってさ。」


 浜辺が翔太郎を睨みつける。


 「それで?仲良くなったってことは、音ちゃんのことは聞けたの?」


 ゆりが溜息混じりにきいてくる。


 「それがさ、音のことを話したがらないんだ。自分から話してくれるのを待つしかないな。」


 今度は翔太郎が溜息をつく。


 「そうか。じゃあ、まだ時間はかかりそうだな。ということで、今日は解散!」


 早くないか?まだ始まって3分も経ってないぞ。

 わざわざ部室に集まってやることじゃないだろ。


 僕は、文句を言いながら靴を履き替えようと下駄箱へと向かった。


 下駄箱を開けるとその中には、宛先不明の手紙があった。


 手紙の内容はただ一言。



 【この世界は、バグで出来ている】

 

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