10話 違和感の正体
至らない点があればジャンジャンとコメントしてください。
僕、傷つきませんので
この日、僕は全く授業に集中できなかった。
まあ、元からそんなに真面目な人間ではないのだけれどね。
翔太郎があんな変な事を言うから、つい琥珀のことが気になってしまう。
授業中にチラッと琥珀の顔を見ると、ニッコリとした笑顔で答えてくれる。
こんなにいい子が何のために、自分の名前を偽らなければならないのか、全く想像すらつかない。
そして、ホームルームが終わり放課後がやってきた。
青楽部の部室は本館から渡り廊下を通り、別館の3階にある。
この教室は、顧問である設楽先生が用意してくれたものだ。
元々、設楽先生は、去年まで別の部活動の顧問だったが、3年生の卒業と同時にその部は無くなってしまったらしい。
まあ、部活動が多いこの学校ではそんな事も珍しくは無い。
中へ入ると先に翔太郎とゆりが来ていた。
「なあ、鈴木ぃこの部屋何もないぜ〜」
「中にあるのは、長い机と椅子が5つだけだものね。寂しいものだわ」
彼らの文句を聞きながら、椅子に座る。
「話の本題に入る前に、この青楽部に新入部員が入ることになりました!」
コイツ…本当にテンションの落差が激しいな…
「知ってるよ。浜辺さんだろ?」
驚いた表情を翔太郎は浮かべる。
「なんだよ!知ってるのかよ!俺だけテンション上がって馬鹿みたいじゃん!」
「大丈夫だ。どうやら知らなかったやつはちゃんといるらしい。」
前に座るゆりに目をやる。
「私知らないんだけど!だれ?浜辺さんって⁈」
「まあ、そのうち部活に来るだろうしその時になったら自己紹介でもしてもらおうぜ」
「そうだな。今日はそんな事を話しに来たんじゃない。琥珀さんについて議論をしよう。」
いつになく翔太郎は真剣な表情を浮かべる。
話のおさらいをしよう。
まず、翔太郎の話では琥珀さんの名前は歌ではなく音だと言う事。
そして、翔太郎が書いたスタンプラリーの文字が書き換えられていた事。
先生を含めてみんなが琥珀さんの名前に関して違和感を持っていない事だ。
僕は、前から疑問に思っていた事を正太郎に聞いた。
「なあ、スタンプラリーの名前についてなんだけどさ、誰から新入生の名前を聞いたんだ?」
翔太郎は、大好きなオレンジジュースを一口飲んでから答えた。
「それは、俺の兄の机にあった新入生名簿を盗み見したんだよ。」
まあ、そんな事だろうとは思っていた。
てか、なんのためにそんな事をしたんだ。と聞きたかったが、話が逸れそうなので自粛した。
「取り敢えず、その時の名簿には音って書いてあったんだよな?」
「そうだ。自慢じゃあないが俺は結構頭がいい方だ。学年の全員の名前は頭に入っている。」
普段の言動からしてコイツは、馬鹿だと思われがちだが実は頭がいい。僕もついさっきまで忘れていた。
「見間違えたって可能性は?」
「それは無いな。俺は、テストでも3回は間違え探しをする人間だ。」
その話を聞いて、僕はカバンからスタンプラリーの紙を取り出し机に置いた。
「それじゃあ、僕のこの紙を書き換えた人間は誰なんだ?」
一番の謎はこの紙だ。僕はこの紙を鞄の中にずっと入れていた。
しかも、現時点でこの紙について知っている人間は、この場にいる3人しかいない。
「…書き換える必要はなんだ?」
そう。それが一番わからないんだ。
3人が少し黙った後、ゆりが口を開く。
「もしかしたら、誰も書き換えていないんじゃ無い?」
一体どう言う事だ?
「書き換える必要性がない。この紙の存在を知らないってなると、誰も書き換えていないって考えるのが一番自然でしょ?」
確かにそうだ。
「じゃあ、なんで文字が変わってるんだ?」
それも確かにそうだ。
「この世の中には、UFOやお化けだっているのよ。そんな不思議なことがあってもいいじゃない。」
「いいわけない!」
「いいわけないだろ。」
じゃあ、どうやって説明するんだよ。と聞かれてしまえば答えようはない…
「それに。その説でいけば先生が名前に違和感を覚えていないことにも納得がいくんじゃない?」
つまりどう言うことだ?
「つまり、誰かがこの世界を書き換えたってことよ。都合の悪い世界を都合の良い世界にね!」
確かに、その考え方でいけばある程度の辻褄はあう。
「でも、誰がそんな事をやったんだ?」
不服そうな顔を浮かべて翔太郎が聞く。
「現時点で世界の変更点があるのは、琥珀さんだけ。つまり、考え方によっては、この世界で一番都合の良い人間ということができるわ。」
不思議とゆりの説明に納得してしまう。
しかし、そんなSFチックなことがこの現実世界で本当に起きていることなのか?
もしかして、朝から感じていた違和感の正体って…
僕の考えが疑惑から確信に変わったその時、部室の扉が開く。
「初めまして。浜辺です。」
彼女は、この教室に現れた。




