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13.第三回異世界女子会/第一回異世界男子会

最初は三人称視点です。

「というわけで、またまた異世界女子会ですよ、女子会!」


 カイラの部屋に戻った……というよりは残ったエクスが、派手ではないが気合いの入った絶妙な服装で開会を宣言した。


 いかにも女子会っぽくもあり、それを揶揄しているようでもある。

 ミナギがいれば、「ギリギリのラインを攻めるのやめよう?」と控えめに苦言を呈しただろうが、仮定の話でしかない。

 現実の彼は黒喰(エクリプス)の一人フウゴに連れられ、なぜか差しで飲んでいる。


 だからこそ異世界女子会となったのであり、それを聞いた綾乃は疑問が氷解した。


「私たちだけで話したいことがあるから、素直に秋也さんを送り出したのですね」


 エクスの突然の表明にも、綾乃は動じていない。冷静に受け止めている。

 根底には、エクスへの素直で、いささか過剰な信頼があった。


 エクスこそ、名実ともにミナギの一番の理解者なのだから当然と言えば当然ではあるが。


「まあ、フウゴならなにかあってもミナギくんを守ってくれるわよ。命と引き替えにしても」

「それ以前に、里の中なら心配はないわと言ってほしかったですが、オーナーですからねぇ」

「さすがに、連続でということはないと思いますけど……」


 そう擁護する綾乃だったが、切れ味は鈍いと言わざるを得なかった。

 昨日のララノアからして、ミナギの“引きの良さ”が呼び寄せたように思えてならないのだ。


 地味というよりは質素なカイラの部屋を彩る花々は、しばし奇妙な沈黙を共有した。


「それはともかく、お酒のことはエクスにもよく分からないから、ちょうど良かったですね」


 ミナギがフウゴ――虎の野を馳せる者(セリアン)に呼ばれたのは、地球から仕入れる酒の種類に関して。

 どこからか、もっとたくさんの種類があり、その中には火を吐くほど強い酒があると聞いて詳しい話を求められたのだ。


 カイラにとっては、情状酌量の余地なく説教案件。けれど、エクスの取りなしで執行猶予となった。

 無罪ではないので、フウゴは今なお地雷原にいるようなものなのだが……。


「今日は、ヴェインクラルに関してエクスたちと綾乃ちゃんの認識のギャップを埋めたいなと思っています。女子会の話題じゃないですけどね」

「そのことですか……。話は聞いたことがあります。秋也さんとカイラさんが出会うきっかけになった相手ですよね?」


 そして、ある意味でミナギが最も意識している相手でもある。

 だが、それも過去の話であるはずだ。


「そもそも、鉄砲水のようなものに流されて死んだのではないですか?」

「そのはずよ……普通に考えればね」

「生死不明イコール生きていると? 現実にそれは……」

「問題は、オーナーがそれを信じていることですね」


 結局は、そこに収斂する。

 すべては、ミナギの認識に帰結する。


「あれが初めての戦闘とは思えないほどの判断力を見せたけれど、相当の恐怖だったはずよ」

「エクスも止めたんですけどねぇ。でも、カイラさんを助けると聞かなかったんですよね。おっと、決断したときはもちろん名前も知りませんでしたが」

「口惜しいものがあるわね」


 乙女としては喜んでもいいところだろうが、かつて邪神戦役を勇者(アインヘリアル)とともに戦った影人(シャドウ)の末裔としてはそうもいかない。


 思わず顔を歪めてしまうほどの悔恨を抱いてしまう。

 無論、今なら絶対に負けることはないと思っているが。


「最近は、まあ、わりと平気な感じですけど……。水の精霊殿を解放するまでは、結構ピリピリしてましたからね」

「今の秋也さんからは、想像もつきません」


 先ほど話に出たフウゴとのファーストコンタクトも、彼らしくなく攻撃的だった。

 それもこれも、ヴェインクラルの存在がミナギの精神に過負荷をかけているのが原因ではないか。


 これがエクスとカイラの見立てであり、真実であろうと思われた。


「つまり、ヴェインクラルというオーガは、秋也さんに強い影響を与えているわけですか……」

「その通り。オーナーにとってある種の精神的外傷となっているわけです」

「それは、私たちがどうにかしなくてはなりませんね」


 指輪をぎゅっと抑え、綾乃は痛ましげにうつむいた。

 今は勇者の指輪(アインヘリアルリング)しかはめてはいなかったが、気分的にはもうひとつの指輪も一緒に押さえているつもりだった。


「自信過剰と言われるかもしれませんが……そのオーガを倒しましょう」

「私としても、復讐戦は望むところよ」

「エクスとしても、その提案には賛成です」


 方針はあっさり決まった。修羅(ロード)種であろうと関係ない。ミナギの、延いては全員の敵であるならば、排除するのは当然。

 否、最初から方針は決まっていたのだ。残っていたのは、それをすり合わせる作業だけ。


「で、その後、綾乃ちゃんはどうなんです?」

「どうって、どうお答えすればいいんですか」


 一瞬で女子会らしい話題に切り替わり、さすがの綾乃も思考が追いつかない。

 そこに追撃をかけたのはカイラだ。


「ミナギくんとは、その後進展があったのかという意味以外にないと思うのだけど」

「カイラさんこそ、どうなんですか!?」

「私は、そうね。満足しているわよ。英雄界でも役目をもらえているし」

「う、ちょっとうらやましいです。私がもっと大人なら……。もしくは……」

「もしくは、なんですか?」

「興味あるわね」

「うっ……」


 不用意な言葉尻を捉えられ、綾乃は言葉に詰まった。

 どう考えても、このまま白を切り通せそうにはない。


「いえ、吸血鬼の能力で魅了の力を得たら、それを使って――」

「なるほど」

「それもありですね」


 想定していなかった肯定の反応に、綾乃ははてと固まった。

 次の瞬間、二人がどういう用途を考えていたのか気付き、顔を真っ赤にして反論する。


「違いますよ!? 魅了の効果で、私が役所での手続きなどをいろいろやっても不自然じゃないように工作できると言いたいのであってですね」

「そうね」

「そうですね」

「もう、二人揃ってニヤニヤしないでくださいっ!」


 先ほどまでの殺伐とした結論とは裏腹に、和気藹々とする三人。

 一方、一人別の場所にいるミナギは、思わぬ追及を受けていた。





「で、祝言はいつになるんだい?」

「はい?」


 最初に出てきて噛ませ犬になるパワー系幹部のように、俺とカイラさんにやり込められてからは憎めないキャラになったフウゴ。


 クロコダインのおっさんには及ぶべくもないが、まあ、悪いやつではない。


 そんな黒喰(エクリプス)からの思わぬ問いに、俺は思わず虎耳をじっと見つめてしまった。


勇者(アインヘリアル)界隈じゃ、祝言なんて言い方しねえのか?」

「そこに疑問を持ったわけじゃないんだけど……。というか、《トランスレーション》……」


 頑張って空にした木製のジョッキを床に置きつつ、俺は言葉を探す。

 今回は食料品中心だったけど、こういう食器なんかも交易品にできそうな気がするな。いや、逆に価値がありすぎて無理かな?


「じゃあ、すぱっと答えられるだろ、すぱっと」


 ……なんて現実逃避していると、容赦なくフウゴが答えを迫ってきた。


 おかしい。


 どんな酒があるのか、知りたいんじゃなかったのか。

 どんな酒を里に卸すか、話し合いをするはずじゃなかったのか。

 それが試飲会になったのは、すでに昨日振る舞ったはずだけど、良しとしよう。


 でも、結婚の話は関係なくない?


「もしかして、カイラとあの姉ちゃんの順番とか考えてるのか? んなもん、適当でいいんだよ、適当で。なんなら、一緒でも構わねえだろ」

「だから、そこじゃない」


 いつの間に、カイラさんや本條さんと結婚することになっているんだ。

 確かに本條さんからは告白を受けたけど、カイラさんは、こうニンジャとして仕えてるって感じだし、本人のその気があるかどうか。


「……娶る気はねえと?」


 すっと、フウゴの目が細くなる。

 まるで、獲物を見つけた肉食獣のように。いや、そのものだ。


「俺一人で決められるもんじゃないだろ」

「は?」

「え? そんな顔で言われても」

「はああああぁぁぁぁぁぁ……」


 盛大にため息をつかれた。

 その上、やれやれと言わんばかりに、手酌で酒を飲む。


 えー? 俺が悪いの?


「んなもん、カイラは口を開けて待ってるに決まってるじゃねえか。ひな鳥か、魚みてえなもんだろ」

「さすがに、それはちょっと……」


 ひな鳥なカイラさんはちょっとかわいいなと思ったけど、いくらなんでもそれはなくない?


「長老だけじゃなく、里の連中はみんな時間の問題だと思ってるぜ?」

「マジすか……」


 バカな。

 そんなことある? ……って、鈍感難聴系ラノベ主人公みたいなことを言ってないか?


 ということはつまり……。


 そうかー。

 そうなのかぁ?


 落ち着け。クールになれ、皆木秋也。


 カイラさんは俺にはもったいないくらい美人で、いろんな意味で恩人で……。それは、まあ、本條さんも同じなんだけれども。


 もしフウゴの言うことが本当であれば、逆に、俺には断る理由がないんじゃないか?


 でも、そんな都合のいい話ある? 俺、イルカの絵とか買わされちゃう?

 あれだよ? 道ばたで困ってるおじいちゃんを助けたら、大企業の会長だったとかそんなレベルの話じゃない?


 それに、あれだ。

 ここまで独り身を貫いてきたアラフォーには、きっかけとかタイミングが必要なもので。


 きっかけか……。


「とりあえず、ほら。ちょっとした依頼を受けてたり、オーガの生き残りが活動してるみたいだから、その辺が片付かないと……」

「なるほどな」


 フウゴが、そういうことかとうなずいた。

 まあ、そもそも、納得してもらう必要はなかった気もするが。


 まあ、あれだよな。

 俺の勘違いだったとしても、そこは笑ってごまかせばいいわけで。


 例えば、日頃の感謝の意味を込めて指輪とかを贈って、その反応を見て……なんて作戦もなくは……。


 指輪、つい昨日ぐらいに渡してる気がするな。

 渡してるというか、かなりすごい勢いでねだられたよな。


 給料三ヶ月分?


 あれれ? おかしいなー?


 もしかして、本当に?


 ガチで? ガチなの?


「じゃあ、そいつらが片付いたらって伝えてくるぜ。酒はよろしくな」

「ちょっと、ちょっとちょっと!」


 あとには、呆然とする俺が残された……。

フウゴは、客観的な事実を唱えた。

ミナギくんは、こんらんしている。

ミナギくん的に意外すぎて、ハーレム状態になることに気付いていない。


コマンド?

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